そのモノは
鋭い双眸に、怪しい光を湛えたリオンがハルトから距離を取り、手にした氷剣を振り下ろし氷の斬撃を飛ばす。
放たれた氷刃は床を凍り付かせながら、ハルトへと迫る。
「こんなものっ!!」
眼前に迫る氷刃を、風の魔術を高出力で放出させたナイフで斬り飛ばす。
瞬間、風の魔術が凍り付き粉々に砕け散る。当然、そこまで分かっていたからこその高出力の魔術だったが、これほどの速度で凍り付くのは予想外だった。
「意外だね。先輩がここまで割り切るとは思わなかったよ」
「貴様と話をする気は無い。黙って死ね」
無表情を貼り付けたような顔でハルトへと駆け、手にした氷剣を袈裟懸けに振り下ろす。
ハルトは素早い動きでその凶刃を躱すが、纏った凄まじい冷気で足が凍り付いてしまう。
「マズッ!?」
一瞬動きが鈍ったのを、リオンが見逃すはずはなく、手の中の剣を半回転させて斬り上げた。
その斬撃は、咄嗟の判断で振られた、二振りのナイフに阻まれた。しかし、受け止めナイフはそのまま凍り付き、先ほどと同様に粉々に砕ける。
(厄介な能力だな……)
ハルトは、新しいナイフをどこからともなく取り出しながら考える。リオンは千年前にも氷の魔術を使うことはあったが、ここまで“殺し”に特化したような異質な物ではなかったはずである。
目の前の男をここまで変えてしまった事、
「俺たちに裏切られたのが、そんなに堪えたのか?」
「黙れと言ったはずだ」
リオンはハルトの言葉に耳を貸すことはせずに、氷剣を振る。その度に空気が凍り付き、部屋の熱を奪っていく。
すでに、壁に激突した“起動車”から漏れ出ているオイルすらも半分凍ってしまっている。
常人では生命維持すらままならない程の空間だというのに、リオンの動きにはいささかも精彩を欠くことはない。むしろドンドンその勢いは増しているようだった。
(コイツ、仲間の生死も問わないつもりか?)
リオンとは違う、何かが目の前の体を動かしている。ハルトはそう直感した。千年前のリオンなら、仲間を巻き込むような戦い方はしないはずだ。
そもそも、剣の使い方が、以前の彼とはまったく異なっている。前の彼なら、こんなに斬撃を飛ばしてはいなかった。“勇者”と同じように、直接斬り付ける戦い方が主だったはずである。
「お前、ナニモノだ?」
「……やはり裏切者だな。ボクのことも忘れるとは」
「先輩のフリをするなっ!!」
怒りと共に、ハルトはナイフから風の斬撃を放つ。周囲の冷気ごと取り込み、吹雪となった斬撃は、目の前のリオン、いやその姿をした“ナニカ”へと襲い掛かる。
その“ナニカ”は上へと跳んで躱そうとするが、ハルトがそれをさせるはずがない。
ナイフを上へと振りかざすと、それにつられるようにして、吹雪がうねりながら“ナニカ”を包み込んだ。
「クソッ……」




