本当の魔族
「面白いことやってんじゃん、先輩」
その声とともに、闇の中から現れたのは本物も魔族。それも魔王軍直属の幹部、ハルトだった。
「お前……」
あまりに唐突で、想像だにしなかった闖入者に、リオンは驚き声を失う。怒りよりも呆然が勝り“自在術式”の副作用も起こらないほどだ。
本当に目の前にいる者が、あのハルトなのか。確かに、細身ながらも筋肉質な体、額から頭頂部を覆うように生える二本の鋭い角、何より闇に濁った鈍い紫色の双眸は王都ガランで会ったあのハルトと同じだった。
「結構元気そうじゃん」
自身に突っ込んできた“起動車”の車体を、障壁でこともなげに防ぎつつ軽口を叩くハルト。
いや、障壁で“起動車”を掴んでいると言った方が正確だろう。
何せ、四人は恐怖に慄いた表情を浮かべながら必死に“起動車”を後退させようとしているのだから。その証拠に、車輪は後方へ高速回転している。だがそれも、床を空しく擦るばかりで、イヤな匂いを周囲にまき散らしている。
ーーおい、ヤバいって。早く逃げなきゃ! 何やってんだよ!!
上部の箱、スピーカーから聞こえる声は、ガサガサと不快ながらも、焦燥にかられた哀れな声をしていた。
「ふん、魔物のフリをしている割に、随分と臆病なヤツらだな」
ハルトは、そんな四人組へ呆れたような声を発し、ゴミを見るかのような視線を送る。
「そいつらをどうするつもりだ」
呆然としていたリオンだったが、すぐに我に返りハルトに捕まる四人を解放しようと剣を構える。
いくら悪人とは言え、この後訪れるであろう結末を黙って見ている訳にはいかない。
「はぁ……やっぱり先輩はそう言うよね」
ハルトは盛大なため息を吐きながら、見下したような瞳でリオンを見る。
「僕と闘いに来たのなら、そいつらは関係ないだろ。とっとと離せ」
「人質って考えにはならないんだ?」
「そうしたいのか?」
「まさか、先輩と闘れるってのに、そんなつまんないことしないさ」
そう言って“起動車”を解放する。全力でアクセルを踏んでいたので、勢いそのままに壁に激突してしまい、その衝撃で四人は車外へ放り出されてしまった。
「あ、あぁ…………た、助け……」
声にならない声を上げ、床を這いつくばるようにハルトから逃げようとする四人。恐怖と痛みでまともに動くこともままならない。
「ハルトっ!!」
「言った通り、離してやったろ? ああなったのはアッチのせいさ」
悪びれる様子もなく、下卑た笑みをその顔に貼り付けるハルト。千年前にすることの無かった表情に、リオンの心も怒りでざわつく。
「落ち着け、リオン」
怒りに飲み込まれそうになるリオンの肩に手が置かれる。横を見るとエアリアが立っていた。
「言ったろ? 怒りを意識しすぎるな」
そう言って、エアリアも炎剣を構えながらハルトへと向き合う。
「リオンが落ち着けるよう、私もサポートをする」
「チッ、つまんねぇコトすんなよな」
「いちいち貴様の楽しみに付き合う義理など、こちらには無いのでな」
心底イヤそうに呟くハルトの言葉を、切り捨てるエアリア。
それが癇に障ったのか、ハルトは身に纏う漆黒の衣服の懐から何かを取り出し、未だ部屋の片隅で這いつくばる四人へと投げつけた。
「それなら、無理にでも俺と先輩の二人にしてもらうさっ!」




