魔物の正体
リオンは叫んで、雷を纏わせた剣を構え駆け出す。
もうこんな茶番には付き合ってはいられない。さらに霧を濃くしようと、魔物が体から吹き出しているが、もうそんなこともどうでも良かった。
ーー対話を放棄し、突撃するのみか……程度が知れるな
火球を放ちながら言っても、まったく説得力が無いが、リオンはもはや意にも介していない。
目の前の魔物の言葉にはなんの意味も無い。ただ、それらしいことを口にしているだけだ。
「そんなことを言っていられるのも今の内だけだ!」
リオンは雷剣から、斬撃を連続して飛ばす。だが、今度は魔物も学習したのか、大きく動くことはなく、斬撃のいくつかはそのまま素通りしてしまう。当たったものも障壁ですべて防がれてしまうが、そうだとしても構わない。
重ねて、リオンは剣に風の魔術を纏わせると、それを突きの要領で、前方へ切っ先を向ける。剣先から放たれた風の魔術は竜巻状となって、魔物へと向かう。
ーーむぅっ、これは……
障壁を展開していた為、動くことの出来なかった魔物は、そのまま竜巻に包まれる。
凄まじい烈風が空間を支配したその後、霧がすべて晴れ、魔物も姿を表す。
「な、何だと!?」
「ウソ……あれって……」
今の今まで、確かにそこには魔物がいた。四つ足の体、それを包み込むゴワゴワとした赤褐色の毛皮。
赤黒い瞳を血走らせた魔物がそこにいたはずなのだ。
だが、竜巻が消えたその場所にいた、否あった物は大型の“起動車”だった。その“起動車”には四人の男女が乗っていた。
「やはりな」
リオンだけは分かっていたような顔で呟く。
ーーどうして分かった……?
“起動車”の上部に取り付けられた箱から声が聞こえた。あそこから声を出していた為、ガサガサの不快な声になっていたのだろう。
「そもそも、人の言語を理解する魔物は滅多にいない。それがこんなボロボロの建物に住み着くはずもない」
ずっと引っかかっていたこと、進化で片づけるにはどうしてもいかなかったこと。
人間の言葉を話す魔物が、こんな僻地で強盗まがいのことをするなんて腑に落ちなかった。
「人が魔物のフリをしていたのか……」
そう、この時代の人間は、魔物を見たことがある者はほとんどいない。騎士団に入っていても、知らない魔物の方が今は多いだろう。
四人は、それを利用したのだ。魔物を見たことが無いのなら、それがどんな姿、どんなことを口にしようと気が付くことはない。
なにせ本物を知らないのだから。
だが、いくら魔物を見たことが無くても“起動車”を魔物には間違えないだろう。
その問題は、
「あの霧は姿を誤魔化す為っスか」
ーー…………
カレンの言葉の通りだった。霧の魔術を使うことによって、真の姿を覆い隠し魔物の姿をその霧に映し出す。
そうすれば、後は周囲が勝手に魔物だと勘違いしてくれるという訳だった。
誤算があるとすれば、魔物をよく知る存在が現れたら一気に瓦解する作戦だったことだ。
ちょうど今の状況のように。
ーーだが、まだ我らが負けた訳ではない
四人はアクセルを吹かしながら、三人へと“起動車”を突っ込ませる。
リオンたちが身構えたその瞬間、黒より黒い漆黒が視界を覆った。




