霧中の戦い
周囲には、魔物が放ったのか霧が立ち込め、その姿を視認させることを困難にする。
だが、僅かな霧の切れ目から、魔物がその口腔を大きく開き、火球を放とうとしているのが見えた。
「危ない!!」
咄嗟にリオンは、カレンを突き飛ばし、自身も身を屈める。突然だったので小さくキャッ、と言う悲鳴が響く。
エアリアも気づいていたようで、カレンを抱きかかえ、伏せていた。
放たれた火球は、リオンたちを通りすぎるとそのまま壁へと直撃し、爆発を起こす。
壁には大穴が空き、そこから日が差し込んでゆくのも束の間、すぐに霧で薄暗くなってしまう。
ーーグウウウゥゥゥ
相変わらず低く唸り、こちらを威嚇する魔物へ、リオンは手にした杖から風の魔術を放ち、牽制の攻撃を仕掛ける。
放たれた風の矢は、魔物の張った障壁によって防がれ、空しく散ってしまう。だが、リオンにとってはそれでも構わなかった。
防がれた矢は、そのまま部屋の中を吹き抜け、霧を晴らしていく。
当たればそれでよし、例え避けられたり、防がれたりしても、この視界を遮る邪魔者を排除出来るので構わないという訳だった。
「毒だったりすると厄介だからな」
リオンは呟き、二人の方へ視線を向ける。どちらも特に苦しんでいる様子は見られない為、大丈夫とは思うが、遅効性の毒だと面倒ではある。
「成分分析の結果、これは普通の霧のようでス」
いつの間にメガネを掛けたのか、カレンがそのレンズに数字や折れ線を表示させながら言った。
どうやら、メガネに映した物を分析できるらしい。
(……便利になったものだ)
感心しながらも、リオンは魔物から意識を外さない。エアリアもカレンを背後にしながら、剣を構えている。
魔物は、再び霧をその体から放出させると、それに隠れるように動く。
「させるか!」
リオンが叫び、再び風の矢を、霧の向こうへと放つ。矢は渦を巻きながら、白一色の中へと消えていく。
(……?)
だが、今度は先ほどのような効果が現れることはなかった。
「危ないっ!!」
「くっ!?」
一瞬の疑問の隙を突き、魔物がリオンへと勢いよく体当たりを仕掛けてくる。
咄嗟に剣を出現させ、障壁を展開する。鋭い光が迸るその向こうには、ヌラヌラと不気味に光る口、そこに生え揃う鋭利な牙。その凶器を突き立てようと、体を押し進める。
「なんて力だ……!?」
障壁が破られることはなさそうだが、多少の傷は覚悟で攻撃を受けた方がマシだったかもしれない。
押し返すことはおろか、その場で踏ん張ることも出来ずに、障壁ごと押し込まれていく。
このままでは壁と魔物とで挟み込まれてしまう。
「今、助ける!!」
エアリアが剣を赤熱化させ、魔物へと斬りかかろうとしたその瞬間、
「何っ!? クソッ!!」
なんと、魔物の尻尾から閃光が走った。それはカレンを貫かんと向かうが、すんでのところでエアリアが投げた剣によって阻まれた。
だが、武器を手放したのはかなりの痛手だった。
魔物もそれを理解しているのか、すぐさま踵を返し、丸腰の騎士へとその体躯をぶつける。
「ぐっ……あっ……」
声にならない声を漏らし、エアリアが膝をつく。斬りかかろうと距離を詰めていたのは、ギリギリ幸運だった。
速度のついていない突進のおかげで、大きく吹き飛ばされることだけは何とか避けられた。
「はは……予定とは違ったが、君を助けられたな……」




