廃ビルへ
三人は“貨物起動車”に荷物を積み込むと、魔物が住み着くという廃ビルへ向け出発した。
走り去る“貨物起動車”をカレンの両親は見送っていた。
「あの子、だいじょうぶかシら?」
「信じてあげよう。小さいころからあの子は、大変なことも自分でやり遂げてきたんだ」
「そうよね、きっと無事で帰って来るわよね」
もう見えなくなった“貨物起動車”が、またここへ戻ってくることを祈りながら、二人は肩を寄せあっていた。
「件の廃ビルまではどのくらいかかりそうなんだ?」
リオンは、“貨物起動車”の画面を操作しながら周囲を探っているカレンに聞いた。
自身も、エアリアから“魔道通信機”の操作を早く覚えるように言われているが、いかんせん複雑な要素が多く、未だに地図を表示させられずにいた。
「え? ああ、ここからだと……大体、一時間くらいでスかね」
“貨物起動車”の画面で地図を確認し、答える。多分、この時代の人にとっては普通のことなのだろうが、こともなげに操作を行うカレンを、リオンは素直に凄いと思う。
「渡しておいたマニュアルはどうしたんだ? 紙媒体は用意するのが面倒なんだぞ」
エアリアが運転しながら聞いてくる。先ほど手渡された、とんでもなく分厚い冊子のことを言っているのだろう。
最初、何かの魔導書と勘違いしたくらいだったそれは、ペラペラと数ページめくった後は、もう後ろの荷物と一緒だった。
「いや……内容がちょっと難しくて……」
本当は、ちょっとどころではない。目に入った内容の三割も理解できなかった。
あれなら、魔導書を覚える方が、遥かにマシというものだ。
高位の術式を覚えるために、ヒーヒー言っていた頃へ、思いを馳せながら外へと目をやる。
エアリアは、まったく、とため息を一つこぼし、また運転に意識を集中させた。
出発するまでは、快晴だった空も、今は雲が出てきて、たまに薄暗くなることもあった。
「結構、天気が変わりやすいんですね」
「ん? ああ、ここ数年安定しないんだ。有識者の間では、魔族の出現が関係していると意見が出ている」
“勇者”が何かしているのか、そんなことを考えながらも、せん無いことと頭の隅に追いやる。
例え、“勇者”いや、“魔王”が何かをしていたとしても、今のリオンには手が出せない。そうだとしても、リオンの胸の内にはある言葉が渦巻いていた。
“目の前のことを、全力でやれば道が開ける”
かつて“勇者”が言っていたことだ。
“魔王”と戦う為に、その教えを実践するのは皮肉がすぎる、とリオンは苦笑する。
「まぁ、仕方ないよな……」
そうリオンが独りごちたとき、街の雰囲気が変わった。
今までよりも、閉まっている建物が増えてきたのだ。中には窓ガラスが割れ、明らかに人の気配のない物もあった。
「後少しで、到着っス」




