親娘
カレンは両親に向かい、頭を深々と下げた。
「お願いしまス。どうか二人への同行を認めてくだサい」
「……」
両親は言葉を発することなく、お互い顔を見合わせている。自分たちの娘がせっかく帰ってきたと思ったら、危険なことをすると言い出したのだから無理もない話ではあるが。
「……お前が行ったところで何の役に立つんだ?」
「そうよ、ご迷惑になるだけだから、やめなサい」
当然、二人から返ってくる言葉は、反対するものだった。
それでも、カレンは食い下がった。なぜそこまでするのか、カレン自身にも上手く言葉にすることは出来ないが、そうしなければいけない気がしたのだ。
「お願いでス。ウチはここで行かなければ、一生後悔してしまう気がするんでス。それは危険の中に身を投じるよりも嫌なんでス」
「カレン……」
母親は悲痛な面持ちで、頭を上げようとしない我が子を見つめる。その瞳にはうっすらと、涙の粒が浮かんでいた。
「いいや、だめだ。三番街へ行かせるのはお前の夢の為だから構わなかったが、今回は違う。お前は魔物討伐をするのが夢なのか?」
父親は、毅然とした態度で愛娘の懇願を突っぱねる。それは、カレンの夢が魔道具職人だと分かっているからだろう。魔物討伐はその夢に何ら関りはない。
「でも、ウチはもう大人っス。自分の道は自分で決めっ……!?」
カレンがそこまで言いかけたとき、乾いた音が店内に響いた。
母親が、カレンの頬をはたいたのだ。瞳に大粒の涙を浮かべ、頬には溢れた涙が筋を作っていた。
「そりゃあ貴方は世間から見れば、もう大人よ。でも、私たちにとってはいくつであっても、可愛い娘なの。それを危険な目に合わせようとする訳ないでシょう!!」
震える声で自身の胸の内を吐き出し、うずくまる母親。それを優しく抱きとめながら、父親も続ける。
「お前が魔物討伐を仕事にしているなら、ここまで反対はしない。お前が何をやりたいかをよく考えろ」
父親の言葉は、あくまでカレンのことを想ってのものだった。証拠に、父親の目にも大粒の涙が溜まっている。
「父さん……母さん……それでもウチは行きたいんでス。これが、今ウチのやりたいこと……ううん、やらなければいけないこと、なんでス」
カレンはそれでも諦めない。心に決めたことは必ずやり遂げる、それがカレンにとって一番大事なことだった。
「ウチはもう決めたんでス。二人に付いていくって」
「本当に、それがカレンにとって大事なことなのか?」
「ハイ」
カレンの力強い眼差しに、両親は諦観したように、ため息を一つこぼす。
だが、その表情はどこか誇らしげでもあった。
「分かった。この方たちへの同行を許そう」
「ホントでスか!?」
「でも、一つだけ約束して。必ず三人で無事に帰って来るって」
母親のその言葉に、リオンとエアリアは驚く。まさかこちらの心配までしてくれるとは思わなかったのだ。
「僕たち、もですか?」
「ええ、この子を守るために、あなたたちが傷ついては意味がありまセん。だから三人無事で帰ってくだサい」
「分かった。必ず、この三人でここへ戻ることを約束しよう」
エアリアの言葉に、カレンが顔を輝かせる。
「じゃあ、ウチも行っていいんスね!?」
「ああ、だが決して勝手な行動はしないこと。私か、リオンの後ろにいるんだ。離れたら守ってやれなくなる」
エアリアの注意に、カレンはコクコクと頷く。
そしていつの間に準備していたのか、カバンを背負うと、
「さあ、そうと決まれば早速出発っス!!」
そう言って外へと出ていく。
リオンとエアリアは、そんなカレンの様子に顔を見合わせながら苦笑した。
「やっぱり同行を許可したの失敗でしたかね」
「かもな」




