その男、元老院議員 part3
「私を内通者だとでも?」
トムスは威圧的な視線をリオンへ向ける。確かに、得体のしれない男だが、所詮は若造。
どこまでも調子に乗った態度を、取らせるわけにはいかない。他ではどうだったか分からないが、この街では自分が上だと目の前の小僧に理解させる必要がある。
そんな思いを乗せた視線にも、リオンは意に介すことはない。
「それを聞いたところで、帰ってくる答えは一つだろ、意味はない。僕が聞きたいのは、さっきのおかしな兵隊どものことだ」
正直な所、リオンにとっては内通者が誰かなど、大きな問題では無かった。どうせ戦っていれば、いずれは分かること、その時に思惑ごと叩き潰せばいい。
強者の理屈、もしくは慢心ではあるが、仲間との長い旅の中で身に着けていった問題の解決法であった。
しかし、それは『殺戮』を主とする“魔族”への解決策であって、目的の見えない“人間”相手にそれが通用する保証はないのだが。
それに気づくことなく、リオンは自身の中に渦巻く疑念を目の前の男へぶつける。
同じ姿で、終わりの無い魔術、死を恐れるどころか認識すらしていないかのような者たち。
明らかに常軌を逸している者たちの正体を、この男は知っている。これだけは必ず知らなければならないことだ。
それが死を齎した者の責務と、リオンは感じていた。
「あ? ああ、クローン兵のことか。それがどうした?」
「クローン兵だと!?」
トムスの言葉に反応したのは、リオンではなく、エアリアだった。もっとも、彼女が反応しなければリオンには言葉の意味が理解できなかったが。
「貴様! クローンの軍事利用は国際議会で禁止されているはずだ!!」
「だから、私個人の護衛、それに街の警備に使っているだけだ。それならば問題はあるまい」
「くっ……詭弁をっ!」
リオンに分からない会話が、飛び交う。どうやらトムスが、何らかの禁を破っているようだった。
「なぁ、二人が言っているクローンってなんだ?」
そばで言い争いをオロオロしながら見つめているカレンに聞く。彼女は会話の内容は理解できているようだが、トムスに詰め寄るだけの胆力を持ち合わせていなかった。
「クローンというのは、簡単に言えば、複製された人間でスね。安価で大量生産できる労働力として期待されている新技術っス。 でも非人道的な作戦投入などを危惧して軍事利用は禁止されているっス」
――バヂヂヂヂヂ!!!!!
リオンの拳がトムスに叩き込まれるが、届かない。謎の障壁によって防がれている。
カレンの言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になって、自分でも気づかぬうちに飛び掛かっていた。
許せない、単純にそう思った。
命を自分勝手に弄ぶその行為も、それを是とし、何の感傷も持たないこの男を許してはおけない。
こんな奴をのさばらせる為に、危険な旅をしてきたわけでは無い。しかもリオンは命まで落とし、もう一度“魔王”と戦う為の旅をしている。
「どうした?随分と余裕が無くなっているようだが?」
一瞬、驚いたようだがすぐにその顔に自信を漲らせ、トムスが障壁越しに下卑た笑みを浮かべる。
その笑みを守る障壁の波動によって、リオンの拳からは鮮血がボタボタと零れる。
「黙れ……貴様は、自身の欲の為に命を無為にしているのか……?」
拳の痛みも、流れる血も、今のリオンの怒りを鎮める要因にはなり得ない。むしろその怒りを加速させていくだけだ。
「貴様だけは……貴様だけは……」




