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心に抱くは、

「え……?」

リオンは思わず耳を疑った。

聞き間違えたかもしれない、と思いもう一度聞き直す。

「今、なんて……?」

「だから、我慢する必要はないのさ」

やはり答えは同じだった。

魔族に堕ちたとはいえ、かつての仲間への望まぬ殺意を我慢しなくても構わないなんて、まさかエアリアがそんなことを言うとは思わなかったため、リオンはショックを受けてしまう。

「そ、そんな……でも……」

沈痛な面持ちで絶句してしまった彼を見て、エアリアは慌てて取りなす。

「あ、いや何も彼女たちを殺してしまえばいいとか、そんなことを言ってるんじゃないぞ」

「……え?」

俯いて押し黙っていたリオンが顔を上げる。

バツが悪そうに笑っている彼女の言っていることがいまいち理解できなかった。

殺意を我慢する必要がないのに殺すわけではない。

言葉遊びのような言動にリオンは首をひねる。

「…………?」



手近な椅子に腰掛け、エアリアは優しく微笑む。

「すまんな、私はあまり説明が上手くないんだ」

謝りながらもさらに続ける。

「リオンのその感情が望まぬものなら、意識すれば余計にそれに支配されてしまうだろ?」

「……あ、」

そうだった、考えたくないと心で強く想うということはそれだけその感情を意識しているのと同じことである。

「だからさ、それを無理に否定するんじゃなく、認めたうえで上手く受け流せるようになればいいんじゃないかな?」

頭の中が一気にクリアになったようだった。

それはずっと戦いの中に身を置き続けたリオンにはとても考えつかないものだった。

魔王を倒すための旅は常に敵を否定し、倒し続けることを余儀なくされていたのでマイナスな要素を認めることが出来なくなっていたのだ。



「お、おい……大丈夫か?」

いきなりパッと顔が明るくなったと思ったらいきなりブツブツ独り言を言い出したリオンを見て少し心配になる。

やはり、自分の説明では上手く伝わらなかっただろうかと思ったエアリアだったがそれは杞憂に終わった。

「ありがとうございます!」

満面の笑みでリオンはエアリアの手を取りブンブンと上下に振る。

そのあまりのテンションの上がりっぷりにエアリアも戸惑ってしまう。

「ず、ずいぶんいきなりだな……」

「すみません、でもエアリアさんの言葉が嬉しくて」

もう小躍りでも始めそうなほど浮かれているリオンを、エアリアはなんだか可愛いと思ってしまう。

(いや……私は何を考えているんだ……)

不意に頭に浮かんだ想いを片隅に追いやり、視線を廊下の方へ何気なく向ける。



すると、そこにこちらを伺う人の姿があった。

「あっ!?」

その人影はこちらが気づくとサッと逃げるように姿を消した。

「待てっ!!」

エアリアは叫ぶと同時に廊下へ飛び出す。

リオンもすぐにそれに続いた。

「あの動きは素人ですね」

その走る姿は全く戦ったことのない者の動きだった。

なので、二人は簡単に追いつき捕まえることができた。



「ごめんなさい、ごめんなさい」

それは、小太りの中年男性だった。

四十を回ったくらいだろうか、妙に目の下の隈が濃いのが特徴だった。

怯えたように平謝りする男性に二人は顔を見合わせる。

「おい、落ち着け。 私たちは敵じゃないぞ」

「……え?」

中年男性は恐る恐るこちらを見る。

「あなたはここの人ですか?」

リオンの質問に男性は小さく頷いた。


「はい……私たちはここで実験体のデータ取りをしていました……」

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