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マリアVSマリーベート part6

「くっ……!!」

迫りくる火球を、マリアはギリギリのところで躱す。もはや、半壊した魔道杖ではまともに防御術式も機能しない。そもそも、残りの枚数は二枚だけではほとんど意味もないが。

「流石に……まともに狙いもつけられないわね……」

震える腕で杖を構えるマリーベートは、絞り出すように呟く。彼女の手にする瑪瑙色のねじくれた杖も。所々にヒビが走り、そこから込めた魔力が漏れているのが見て取れる。

そう、マリーベートもギリギリなのだ。

マリアの放った全力の魔術は、マリーベートに確かに効いていたのだ。まともに魔術を使えなくなるほどに。

そうでなければ、魔術の神とまで称されたマリーベートがケガを負った人間の女一人を仕留められない訳がなかった。



「でも……すぐに終わらせるわ……」

それでもマリーベートは“賢魔将”としての意地で杖を握る手に力を込める。

杖の先に真紅の光が灯り、マリアに向けて灼熱の槍が放たれる。本来なら、一瞬のうちにマリアは灰燼かいじんに帰すはずなのだが。

「まだ……ですっ!!」

「これも……ダメ……」

やはりギリギリで躱されてしまう。そもそも、本来の術式ならばギリギリで躱されようともその熱量で溶解させることもできたはずである。

だが、杖に走ったいくつものヒビから、魔力が淡い真紅の燐光となって漏れてしまい、威力が大幅に減衰してしまっているのだ。

「……どうせ勝てないクセに、粘るわね」

「自分の傷も治せないアナタに言われたくはないですね……」

「分かってないわね……治せないんじゃないわ。治さないのよ」

褐色の肌に筋を作る青白い血を拭うこともせずに、マリーベートは不敵に笑う。

実際、マリーベートは傷を治せない訳ではなかった。時間を掛ければ回復魔術で傷も治せるし、魔力を回復させることもできた。だが、それを出来ないわけがあった。



ヒビの入った魔道杖。

マリーベートは苦々し気に視線を落とす。傷を治すことができない原因に。

自身の傷は治せるが、手の中の魔道杖は直すことはマリーベートには出来なかった。普通の素材で作られた杖ではないため、直せるのは杖を作ったハルトか、カタリナでもないと不可能だった。

傷を治し、魔術を普段通りに行使できるようになればヒビの入った杖のほうが耐えられないのだ。

「……とはいえ、このまま手をこまねいているのもね……」

「……? 一人で何をブツブツと……」

「いい加減で終わらせるって言ったのよ……」

静かに呟いたマリーベートは杖に走るヒビが大きくなるのも構わず魔力を込める。

杖の先に今まで以上に大きな雷球が形成されていく。ピシッピシッとヒビ割れが広がる音も雷球が大きくなるのに比例して大きくなっていく。

「これだけの大きさだわ……もう避けられないわよ……」



今にも降り注ぎそうな雷球を前にしてもマリアはその瞳に諦めの色は浮かべていない。

それどころかマリーベート同様に壊れかけた魔道杖を構えている。

「……何をしているの? もはやあなたに魔術は……」

「ええ、ですからこれは賭け……です」

「賭け?」

不可解なマリアの言動に、杖のヒビ割れも忘れたかのように手を止めてしまう。

「……分かりませんか? 魔術を使えることが当然のアナタなら無理もないかもしれませんね……」

その言葉に、マリーベートは冷や汗をかいた。

「あなた……まさか……!?」

マリアの足元に光が灯る。それは魔術の光だった。

「術式を記したっていうの!? 自らの血で……!?」

そう。マリアは自身の中で術式を構築できない。だが、外部に記された術式を使えば魔術を行使できる。

だから、体から流れる血を使って刻んだのだ。地面に術式を。



「これが正真正銘の最後の魔術です……!!」

「やらせると思ってっ!!」

同時に放たれた、二人の魔術がぶつかり合う。

蒼雷となった雷球と桃色の閃光を迸らせる光線は大気を引き裂きながら、互いの術者へとその余波をぶつけていく。

「この威力は……っ!?」

「うぉおおおお!!!!!!」

桃色の閃光は雷球も、ぶつかり合う余波すらも飲み込み、螺旋を描いて魔王城の強固な外壁を貫く。

その光の奔流に、マリーベートを包み込みながら。


「私の負け……ね。ゴメンね、カタリナ……」


マリーベートの最期の言葉は、地面に倒れ伏したマリアの耳に届くことはなかった。

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