分かたれる仲間
ぐにゃりと歪んだ視界が段々と戻ってくる。
リオンは頭を押さえながら、目の前にいるはずの魔王へ向けて剣を振るう。
だが、剣は空しく空を切るだけだった。その直後、リオンは腹部に鋭い痛みを感じ、そのまま後方へ吹き飛ばされる。
「状況を理解しないままに攻撃を仕掛けるのは愚直だよ」
痛みでハッキリと覚めた意識で声の主を睨みつける。だが、それよりもリオンには目を離せないことが起きていた。
「こ、ここは……どこだ……!?」
そう、リオンが転がっていたのは先ほどまでの大階段のあるエントランスではなかった。広大な大広間のような場所だった。大広間と言っても、普通の城のような荘厳さは皆無で、見るものを不安にさせるような禍々しい装飾で飾られた不気味なところだったが。
「くっ、一体何が……?」
ドラガンと斬り結んでいたはずだというのに、急に視界が歪んだエアリアは一旦距離を取り状況確認を行う。
「なにっ!? 場所が……」
エアリアもリオン同様に、エントランスとは違う場所に立っていた。何とか周囲を見渡せるくらいの薄暗さの場所で、広さはそこまで大きくはなかった。それ以上に何の飾り気もない殺風景な場所なのが印象に残った。
「……なるほどな」
エアリアの背後から、地の底から響くようなドスの利いた声が聞こえる。
すぐに跳んで距離を取りながらエアリアがその声の主を見る。
そこには先ほどまで斬り結んでいたドラガンが炎槍を構え立っていた。そのドラガンも若干の困惑の色を顔に浮かべていた。
「チッ……余計なことを」
苛立ち紛れにハルトが手の中のナイフを振るう。そのたびに周囲に積まれた木箱がガラガラと音を立てながら崩壊していく。
「何がどうなっているんスか……?」
うずたかく積まれた様々な荷物の影に隠れながら、カレンは状況を整理しようと頭を巡らせる。
ハルトへ向け“爆裂鋼”を放とうとしたときにいきなり視界が歪んで暗転し、それが治ったと思ったら、こんな荷物だらけの倉庫のような場所にいたのだ。
ハルトの目の前に出なかっただけ幸運だったと言える。そうでなければ一瞬のうちに細切れにされたいただろう。
「とにかく何とかしないとっス……」
「これは……空間転移術の……?」
「あらぁ、流石に聖皇の妹ねぇ。この魔術を見抜くなんて」
互いに魔道杖を構え合っていたマリアとマリーベート。視界がぐにゃりと歪んだと思ったら、屋外にいた。マリーベートの背後には巨大で不気味な城がそびえているので、魔王城の外にいるのだろう。
そのことからマリアは、四人のうちの誰かが空間転移の魔術を使ったと気が付いたのだった。
「あなたではなさそうですが……?」
「えぇそうよぉ。これをやったのは、我が魔王。あの人、ゴチャゴチャした戦いは好きじゃないでしょぉ?」
「そんなこと知りませんが……」
「どっちも四人なんだ。こうするのが一番、だろ?」
「ふざけたことを……!」
一対一で戦い合うことを提案するカタリナを、リオンは鋭い視線で睨みつける。
それだけのことで、ここまで大がかりな魔術を簡単に行使できる魔王の実力に畏怖もするが、負けられない。
「みんな……無事でいてくれ……!」
雷光迸る剣を構え、リオンは向かい合う。かつて憧れた勇者を、世界に仇為す魔王を超えるために。




