カレン、奮戦 part2
リーダー格の男は怒りの表情で歯噛みする。
ギリギリと歯軋りの音が聞こえるほどだった。その感情の奥底には、怒り以上に恐れもあった。
(……なんとしても失態は取り戻さなければ)
聖皇に預けられた兵たちを思った以上に消費してしまった。
たった一人の少女相手にここまでの醜態を、聖皇は許さないだろう。
(次は俺があの人形に……)
リーダー格の男は、周囲を共に走る兵たちへと視線を向ける。その中には、自身と同じように失態を犯し、思考を奪われた者もいる。顔を見知った奴が、今は顔色一つ変えることなく命令に従うだけの人形になり果てている。
(俺は絶対に……)
首を振りながら、前方を疾走する少女へと魔術攻撃を仕掛ける。ここで必ず倒すために。
だが、男は分かっていなかった。いや、恐怖と怒りで考えが狭まっていたのかもしれない。
“起動車”の少女『カレン』なんて放っておいて、皇城へと向かった二人、リオンとエアリアを追いかけなければならないことに気が付いていなかったのだ。
「攻撃が激しくなってきたっスね……」
迫る魔術を躱しながら、カレンは独りごちる。先ほどのような直線的な攻撃ではなく、躱した先に狙いを付けたような置いた攻撃も飛んでくるようになってきた。
「数を減らしたから……」
そう、今までの単調な攻撃は正規兵たちの数が多く、その思考の統一性を上げるために必要だった。
だが、カレンの策によりその数はかなり減った。それは思考パターンをある程度複雑にしても問題がなくなった、ということだった。
『量より質』
その方向に攻撃がシフトしていったのだ。
「だとしてもッ!!」
カレンは“起動車”の速度を上げ、正規兵たちから少し距離を取る。とはいえ、大きく離しすぎては皇城へと向かった二人の方へ行かれてしまう。
そのギリギリまでの距離を保ちながら、両手の“剛力拳”を自身が跨るマシンの後方へと取り付ける。
「フフン、剛力拳にはこういった使い方もあるっス」
それはまるで巨大なブースターのようだった。
だが、そうではない。“剛力拳”はあくまで武器。迫る正規兵たちの“起動車”へとその矛先は向けられている。
「まずは、コレっス!」
カレンは“起動車”のスロットルレバーへと伸びたコードの先のスイッチを押す。
すると、“剛力拳”から何かが地面へとばら撒かれる。手のひらに収まるくらいのソレはいくつも地面へと転がっていく。当然、カレンの後ろを走っていた正規兵たちはそれを踏んでいく。
ーードガガガガガガガガガ!!!!!
凄まじい爆音と衝撃が連続して発生する。
「小型の爆裂鋼、上手く機能したっスね」
攻撃は止まった。だが、それでも爆炎の中で動く影があった。
「まだだ……貴様だけは……」




