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目覚めた景色は

「おいっ……おいっ、大丈夫か?」

そう声をかけられ、目を開いたリオンが見た光景は、心配そうに覗き込むエアリアの、美しい顔だった。

そばでは、カレンも不安そうな表情を浮かべている。

「う……僕……?」

「急に意識を失くして、ぶっ倒れるから心配したっスよ」

「まぁ、なんにせよ、一瞬のことだから大丈夫だと思うが」

以前と同様に、経過した時間は、ほんのわずかのようだった。胡散臭いくせに、そういったところは律儀な、あの女になんとも言えない表情になる。



「? やはり気分がすぐれないか?」

「あ、いえ、大丈夫です。それより……」

すぐに気を取り直し、周囲に目を向けるリオン。たった今まで、建物ひしめく中で激しい戦闘を行っていたのだ。辺りは瓦礫で埋め尽くされているはず、なのだが、

「あれ? 何も壊れていない……?」

「ああ、そうなんだ。不思議なことに、周囲への被害はまったくと言っていいほどないんだ」

「不思議っスね。みんな、あれほど魔術とかを使いまくったっていうのに」

確かに、リオンも周りの建物が壊れていくのを見たし、自分でも破壊したのも自覚している。

だというのに、目の中に飛び込んでくるのは、煌々と人工の光を放ち続ける背の高い建物たち。少し先で、破壊されたナイトポリスの施設の調査を行っている人たちが見えるが、こちらへ意識を向ける様子は皆無だった。



「幻覚? いや……」

そうではない。確かに三人は、“賢魔将”マリーベートと戦っていた。脇腹の痛みも、殺意に飲まれた苦い思いも、大幅に数を減らした“爆裂鋼ボムスチール”も、あの戦いが確かに存在したことを裏付けていた。

「……異空間術式か、マリーベートの奴……」

「いくう……?」

「異空間術式、同じ景色の、違う場所へ対象を引き込む魔術さ。でも、自身を含め四人同時に、それもまったく感じさせないなんて…させない」

聞きなれない名に、首をかしげるカレンに説明しながら、リオンはこれから先、再び相まみえることとなる、旧友の実力に言葉を失くす。


異空間術式。


それをマリーベートが使ったのは、リオンたちが注目されるのを慮ってのことではない。もちろん、周囲への被害を考慮してのことなどでは決してない。

単純に、自分が戦うのに他者の邪魔が入るのがうっとおしい。ただそれだけに他ならなかった。

それだけのことに、超高位の魔術を簡単に使えるマリーベートの実力は恐ろしいものと言えた。



「まっ、今は考えても仕方ないっス。それより、クラッポに行くっスか?」

浮かない顔をしている二人に、カレンが努めて明るい声を出しながら、尋ねる。

二人も、思い出した様な顔をしながら向き合う。マリーベートとの戦いで、意識の外に追いやられていたが、元々そこへ向かうと言う話をしていたのだった。

「そうだな、アテも無くなってしまったし、行くしかないだろうが……ううむ」

エアリアの表情は、相変わらず浮かないままだった。彼女の脳裏には、ある言葉が引っかかっていた。

去り際に、マリーベートが残していった言葉。


ーークラッポに行くなら、気をつけなさいねぇ


あの言葉の意味、考えても答えは出なかった。

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