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惨状

しばらく“貨物機動車カーゴバイク”を走らせていると、段々日が傾き辺りが暗くなってきた。

「そろそろ宿をとろう。タンタの村というのが近くにあるんだ」

エアリアは西日が眩しいらしく、サングラスをかけている。

「野宿ではないんですね」

リオンは後ろに積まれた様々な荷物へと目をやりながら聞く。

詰め込まれた袋の隙間から覗く物のいくつかには見覚えのあるものがあった。

それは旅をしていたときに使っていた、煮炊きの道具とよく似ていた。

「ふふ、まあ毎回宿に泊まる訳にはいかないが泊まれるときはいいだろう。野宿では疲れもしっかりとれんからな」

エアリアは笑いながら、ハンドルをタンタ村の方向へ切った――



リオンとエアリアは“貨物機動車カーゴバイク”の側で火を焚き今日の夕飯を作っていた。二人の間に会話は無く、火がパチパチと音を立てるだけであった。

なぜこんなことになっているのか、それには訳があった。



――「な、なんだこの惨状は……」

エアリアが窓から見える、無残な光景に呆然と呟く。そのまま、ヨロヨロと車外へ出ていき膝を付いた。

タンタ村へは特に何事もなく到着したのだが、到着した後が問題だった。



タンタ村は、魔物の襲撃を受けたようで既に無人の廃墟と化していた。

わずかに残っていた遺体の様子から、襲撃を受けて時間がたっているようだった。

エアリアは悔しそうに拳を地面へと叩きつけた。

「くそっ!! 魔物どもめ、よくもこんな仕打ちを……」

エアリアは自らが騎士であることに強い誇りを持っている。

それだけに、自国の領内の村がこんな惨状であることに気づけなかった自分を許せなかった。

「くっ……皆、苦しかったろうに……辛かったろうに……」

大粒の涙を流し、魔物が食い散らかしていった、犠牲者のわずかな骨を広い集めていく。



リオンもそれを手伝うがその表情は意外にも冷めていた。

もちろん、こんな光景を見せられて頭にこないわけではない。

だが、千年前も魔物の襲撃を受け、滅びた村や町はいくつも見てきた。

冷たいようだが、このぐらいのことで悲しんでいたら心が持たなくなってしまう。

「こういった経験って初めてなんですか?」

リオンはまだ悔しそうに鼻をすすっているエアリアへ尋ねる。

「当たり前だ!! 本来ならばあってはならないことだ!!」

リオンのその冷めた態度に腹を立てたのかエアリアが語気を声を荒らげる。



(やっぱり、それなら無理もない、か)

そんなエアリアの反応も予想済みだったのか死者を弔うための穴を掘る手を休めずにリオンは言った。

「あまり思いつめない方がいいですよ。冷たいことを言うようだけどこの先、旅を続けるならこんなことはいくらでも……」

「こんなことだと!!」

エアリアが、リオンの言葉に激昂しその胸ぐらを掴み上げ、焼け焦げた壁に押し付けた。

「村が滅び、人が大勢死んでいるんだぞ! しかも騎士でもなんでもないただの一般人だ!」

だが、リオンも自らの考えを曲げない。それはエアリアを思ってのことでもあった。

「何度でも言いましょう。こんなことでいちいち泣いてなんかいたらこの先、戦い抜くことは無理です。今のうちに帰ったらどうですか?」

突き放した言い方になってしまったのはエアリアの態度に少なからず頭にきていたからか。



「っ、私だって……私……だって」

胸ぐらを掴む手から不意に力が抜け、エアリアは踵を返し集めた骨を穴へと埋めていく。

エアリアだって本当は分かってはいた。魔族やそれに使役される魔物によって町や村が襲われる。旅をすればそれを見ることになるのは旅立つ前に覚悟していたはずだった。

しかし、それを頭で理解しているのと実際に見るのとではやはり大きく違っていた。

建物はことごとく破壊され、村人たちは無残に食われ、残骸と呼ぶほかは無いような、わずかな骨が残るばかり。

報告で聞くだけなのと実際にこの目で見ることの認識の乖離にエアリアは大きなショックを受けていたのだった。



(ちょっと言い過ぎたかな……)

自分が初めてこういった惨状を目の当たりにした時のことを思い出してリオンははぁ、と小さなため息を一つついてエアリアの元へ駆け寄る。

「すみません、すこし言い過ぎました」

エアリアのほうも流石にやりすぎたと思ったのか、頭を下げてきた。

「私のほうこそすまなかった。 自分のふがいなさを君にあたったりして……」

「いや、やめましょう、謝るのは。悪いのは僕らではなく魔物なんですから」

そう言って手を差し出すリオン。

「そうか、そうだな」

エアリアも少し顔に明るさを戻し、その手を握った。

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