黄昏の館 part5
「なっ!? コイツ……」
歯ぎしりをしながらもリオンは、迫る光弾からライナスを守る。そのまま、“機空起動車”を撃墜しようとするが、それをライナスがさせなかった。
「おっと、それはやめてもらおうかな。君が撃墜したら、ペナルティとして、彼女の爆弾を爆発させちゃうよ」
そう言って、懐から何かを取り出した。手の中にちょうど収まるくらいの円筒状の物体だった。
「リオン! それは遠隔でカレンの爆弾を爆発させる装置だ! それを押させるな!」
「クソっ、手が出せない……」
悔しそうに歯噛みするリオンを、ライナスが嘲笑うかのように、飛び回る機体へと命令を出す。
「いいねぇ、その顔、もっと曇らせたくなるよ。さぁ、また守ってもらうとしますか」
再び迫る光弾を、リオンは障壁を展開して防ぐ。その後ろでニヤニヤと、頭にくる笑いを感じながら。
「くっ、リオンの為にも早くカレンを助けなければ……」
エアリアは小さく呟きながら、剣に魔力を込めて火球を“機空起動車”へ放つ。
だが、その一撃は簡単に躱されてしまい、壁にぶつかって小さな爆発を起こす。
そう、小さな爆発なのだ。普段のエアリアからは考えられないほどの低威力、それはカレンを思ってのこともあるが、それだけではなかった。
リオンの剣では、エアリアが普段使っている魔力のブースター機能、魔法陣が展開できないのだ。
エアリア本来の魔力の質ではこの威力が限度なのだ。現代を生きる者は、ほぼ例外なくこうだろう。
永き時の流れの中で、弱った魔力を補う機構、それが魔法陣システムなのだ。
「頼れないなら仕方ない……だが、カレンも魔術は使えない。条件は五分、と言いたいが……」
実際はエアリアが相当に不利だった。普段のカレンならば、身体強化の魔術もろくに機能していない、今の状況でも問題はなかっただろう。だが、今の彼女には、その身を護る守護者がついている。
迂闊に近づけば、あっという間に床か、壁のコゲとなってしまうだろう。
「カレン……目を覚ませ!」
「……」
僅かな希望を声に乗せ、虚ろな目を向ける少女を叱咤する。だが、その目は変わることなく、“機空起動車”をけしかける。
宙を舞う二機が、光線と光弾を放つ。光線は床を焦がしながらジリジリと逃げ場を奪うように迫り、そこを光弾が勢いよく迫る。
「くっそ……!」
魔力をふり絞って、剣の表面に僅かに展開した障壁で何とか光弾を逸らす。
だが、このままではジリ貧になるだけだった。普段以上に魔力の消費は膨大で、得られる効果は微々たるもの。対してカレンは先ほどから、ほとんどその場を動かずに、指示を出すだけ。
(なんとかして突破口を見つけなければ……)
リオンも身動きが取れない今、どうにかできるのはエアリアだけ。
なけなしの魔力を使い、身体強化をする。
「うぉおおおおおっ!!」
叫びと共に、カレンへ向けて走り出した。




