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千年の終わり

――何もない真っ白な空間。

無限に広がるようにも、身じろぎ一つできないようにも感じられる白一色の世界に、"彼"はいた。


何かを見ているようで、何も見ていない虚ろな目をして座り込んでいる。

その表情からは何の感情も読み取ることはできなかった。



「ようやく目覚めたようですわね」

少年の頭上で声がした。まるで、透き通るように凛とした美しい声だった。

その声の主は歌うように語り掛ける。

「あなたは千年の永き時を眠っていたのですわ。覚えていらっしゃいますか?」



少年はほんの少しだけ頭を動かし虚ろなままの目を向け、声の主を見た。

そこには女神がいた。本当に女神なのかは定かではないが、少なくともその時の彼には女神に見えたのだった。

思わず目を奪われるほどに美しい金色のウェーブがかった髪、大きな翡翠色の瞳に柔和な微笑みをたたえた顔。

だから少は思わず呟いた。

「女神……様?」



「ふふ、私の名前はマユリ。 女神だなんて仰々しく呼ばれるより名前で呼んでくださった方が嬉しいですわ」

そう言うと、マユリと名乗る者はいたずらっぽく笑った。

「あなたはなぜここにいるのか、それを覚えておいでですか?」

マユリの質問に、少年は力なく首を横に振った。少年自身にもなぜ自分がこの何もない白い空間に一人でいるのか分からなかったのだ。



「そうですか。 ではあなたに何があってここにいることになったのか、それを思い出させて差し上げますわ」

笑顔が消え、暗い面持ちになったマユリが少年の額に手のひらを当て、そのまま下におろす。

それにつられて少年は瞼を閉じ視界は暗闇に包まれた――



しばしの後、少年の瞼の奥に何かが見えてきた。



――それは禍々しい装飾が施された建物の中だった。

そこに佇む、建物の装飾にも劣らないほどの醜悪な姿をした怪物、“魔王”。

それと対峙するかのように並び立つ五人の男女たち、その中の一人に少年がいた。

少しくたびれたような旅装束にくすんだ赤色のローブを身にまとい手には空色の玉がはめ込まれた杖を握っていた。



一人先頭に立つ人物、“勇者”が魔王に向かって何かを言っているようだが声までは再現されないのか、内容までは分からなかった。

そのうち勇者が先陣を切って飛び出すと、少年を含む他の四人も一斉に魔王に向かって走っていった。

だが魔王の爪と勇者の剣がぶつかり合うまさにその時、視界が暗転し暗闇に包まれた。



また見えるようになり瞳に映ったものは、先ほどと同じ禍々しい装飾の建物の中、血を流し倒れている少年自身だった……

勇者が何かを言っている。

何を? 

そんな疑問が頭に浮かんだが応える者はなく、倒れている自分の藍色の瞳から光が消えうせるのと同じように視界は揺らぎ、暗闇に包まれていった――

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