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謎の老婆

「っ! 何だよこれ!?」


両親のいる家にたどり着いた俺の目の前に映った光景は、ただのガレキの山であった。本当であればここに自分が昔住んでいた家があり、両親が住んでいるはずだ。


「一体なにがあったんだ……。どうしてこんな事に……」


少なくとも自分が両親と再会できていた時にはまだ家は残っており、両親もそこに住んでいた。となると家が無くなったタイミングは教会からギルドに移動し、両親と再会できなくなった数年間の間になる。


「おや? こんな村に客人とは珍しい。何か用があるのかのう?」


声をかけられたためその方向に目を向けると一人の老婆が立っていた。その姿に見覚えがある、確か家の近くに住んでいた子ども好きのおばあさんだったか。自分も小さい頃お菓子を貰った記憶がある。


「ええ、実は知人がここに住んでいると聞きまして……。様子を見に来たんですが……」


俺は老婆とは初対面のふりをしつつ、知り合いを尋ねに来たという設定で話をする。


「おお、スペンサー夫妻の知り合いじゃったか。彼らも昔は冒険者じゃったからのう。やはり人脈は広いんじゃなぁ……。ワシもあの頃は良くしてもらったもんじゃ」


しみじみとした様子で目の前の老婆は一人もの思いにふけっている。その様子を見かねた俺は、自分の両親、スペンサー家の者たちがどうなったか再度尋ねる。


「…………。実はのう。数年前じゃったか二人とも他界してしまってのう……。もうこの世にはいないのじゃ」

























今何といった? いない? 他界した? 俺の頭の中で老婆の言葉が何度も反復する。


「確かあれは一年? いや二年? いやもっと前じゃったか……。スペンサー家の嫁が病気にかかって亡くなってのう……。旦那の方は行方不明、生存は絶望的と報告されたようじゃ」


母さんが病気で父さんが行方不明!? 混乱する俺を無視し、老婆は言葉を続ける。


「スペンサー夫妻には子どもが一人おってのう。元気で笑顔がかわいらしい少年じゃったか、菓子をくれてやった時はそれはもうたいそう喜んでおった。そんな少年と両親二人での生活……。独り身のワシが言うのも何じゃが本当に楽しそうじゃったわ。ワシの方も見ていると元気を貰えるくらいじゃった」


その子どもこそまさしく俺の事だ。相手の見た目は俺が小さい時と比べてあまり変化していないが、俺はあれから時が経ち、体も成長している。今自分が話している少年が目の前にいるとは老婆もさすがに思ってはいないようだ。


「だがあの日を境にあの家族は…………。おっとすまないねぇ。客人に話す内容ではなかったのう。どうも歳をとると話が長くなってしまう……」

「かまいません! 続けてくれませんか? その後何があったのか?」


話を聞いているとこの老婆は自分の両親の身に何があったのか知っているようだ。その情報源をみすみす見逃すわけにはいかない。俺は老婆に話を続けるよう懇願する。


「お願いします! 俺はあの家族にはとてもお世話になったんです! だから彼らの身に何があったのか! 教えてほしいんです!」「しーー。声が大きいよ。もし続きを聞きたいならワシの家でしようじゃないか」


老婆の提案に俺は頷き、話の続きを聞くために家を訪ねる事にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「散らかっていてすまんのう。少し進むと客間があるからそこの椅子に適当に座っておくれ」


老婆の家の中に足を踏み入れるとあちこちに物が散乱しており酷い状態になっていた。中には少しバランスが崩れるだけで、倒壊するような形で物が塔のようにつまれている。俺は何とか変な場所を踏まないように歩きながら移動すると、少しスペースの空いた場所に出た。おそらくここが老婆の言う客間なのだろう。お世辞にも客間とは言い難いが、ここでなら話くらいはできそうだ。


「今お茶を出すからちょいと待ってておくれ。この村は何もないところじゃが、この付近で取れる茶葉は中々いけるんじゃよ」


老婆は客間からさらに奥に向かって歩き始めた。俺としてはお茶よりも先に自分の両親の身に何が起きたのかいち早く教えてほしいのだが焦りは禁物だ。自分が何者か勘繰られ、下手をすれば俺の正体がばれる可能性もある。感情を抑えて情報を手に入れる。今の俺がすべき事だ。待っていると老婆が茶が入った湯飲みを二つお盆にのせて運んできた。


「熱いのでゆっくり飲んでおくれ。気持ちも大分落ち着くじゃろう。今のお主は内心相当動揺しておるようじゃからのう」


どうやら俺が焦っていた事はこの老婆にはバレていたようだ。とはいえ俺の正体には気づいてはいないだろう。平常心を保つために、俺はゆっくり深呼吸し、出された湯飲みを手に取り、その中身を口に入れる。


「……美味しい。懐かしい味だ」


飲むと過去の記憶がよみがえる。小さい時はこの味を毎日のように味わっていた。老婆の言う通り、このあたりで取れる茶葉で作ったお茶は名産品とまではいかないものの、村に住む住民たちにとっては地元ながらの味として親しまれているのだ。


「ワシも昔からこの茶葉を使っておってのう。今でも手放せんのじゃ」


気が付くと俺は湯飲みに入っていたお茶をすべて飲み干していた。


「ふぇふぇふぇ。落ち着いたようじゃな。これならさっきの話の続きしても問題ないじゃろう」


まるでこちらの様子を完全に分かっているかのような素振りで老婆は声をかけてくる。確かに先ほどまでとは比べ、自分でもわかるくらいに落ち着いている。小さい時はただお菓子をくれるだけのおばあさんというイメージしかなかったが……。とにかくこれで話の続きを聞けるようだ。

俺は気持ちを切り替え、老婆から話の続きを聞くことにした。



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