スキルの検証
キマイラを討伐してから数日。俺はダンジョンにこもり、魔物を相手に自身のスキル、ウイルス感染の検証を続けていた。
単純に言うと俺のスキルは自在にウイルスを発生させられるという効果を持っていた。
そしてそのウイルスはあのキマイラを一瞬にして亡き者にするというとんでもない効果を持っていた。ダンジョンに生息する様々な魔物に試し症状を確認したところ、めまいや息切れを起こし、最後には死に至るというとんでもない効果を持っていた事が分かった。魔力を調整する事で症状をコントロールする事ができ、少ない魔力だと死に至るまで時間がかかり、魔力を多く込めるとすぐさま症状が体に現れ一瞬にして死んでしまうという症状も見られた。
このウイルスの恐ろしい所はかかると最後、処置をしなければ死に至ってしまう。今俺がいるダンジョンにはさすがにキマイラほどの大物は残っていなかったが、普通に戦うと手ごわい魔物も多くいたがどの魔物もこのウイルスに感染したら最後、全ての魔物が苦しみながら死んでいった。魔物の中には人と同じくらいの背格好をしているゴブリンやオークもおり、彼らにも感染する事が確認できたため、おそらく人間相手であったとしても通用するだろう。。
俺はこのウイルスを致死ウイルスと名付ける事にした。
致死ウイルスと名付けたウイルスを使って多くの魔物を倒した結果、スキルの効果がパワーアップし、恐るべき事に新しいウイルスを発生させる事ができるようになった。
そのウイルスは致死ウイルスのように死に至る事はないが、感染すると理性を失い、敵味方関係なく襲い掛かるようになるというこれもまたとんでもない効果を持っていた。試しに狼型の魔物、ウルフの群れの中の一匹に対し、スキルを使用してこのウイルスを感染させた所、感染したウルフはいきなり咆哮を上げたかと思うと群れにいた他の個体に向かって噛みつき始めたのだ。そしてこのウイルスの恐ろしい所は理性を失うだけでなく、その代償としてなのか異常なほど身体能力が向上するという効果も見受けられた。理性を失った事による影響なのか、自身の体が悲鳴を上げるのを気にすることなくフルパワーを発揮し、他者に襲い掛かるその姿はまるで死者であるゾンビのようであった。
そしてこの感染者は何故か俺にだけは襲い掛かってこなかった。俺がウイルスの主だからなのかは不明だが、感染者が俺を狙わないのであればこのウイルスも使い道はある。うまく使えば簡単に同士討ちさせる事ができそうだ。
俺はこのウイルスをゾンビウイルスと名付ける事にした。
この二つのウイルス、効果こそ違えどウイルスとして共通点の特徴があった。
まずウイルス発生の範囲は俺の近くに限られる。遠目に向かってウイルスを発生させる事こそできるものの、俺から距離が離れれば離れるほどウイルスの効果が弱くなる。距離を詰めないと感染させる事ができないようだ。
次に、感染力が非常に高い事があげられる。ウイルスに感染してる相手に噛まれたり、ひっかかれるだけで感染者からウイルスを貰い感染してしまう。群れで行動する魔物のうち、一匹でも感染したらそこからウイルスは広まり、知らぬ間にダンジョン内にて小規模なパンデミックが発生するほどであった。
とまぁウイルスの性能についてはこんな所だ。
しかし我ながらとんでもないスキルを身に着けてしまったものだと改めて実感する。魔力を込めるだけでウイルスを発生させ、簡単に相手に感染させる事ができる。その上、感染者を媒体としてさらにウイルスを広げる事ができるのだ。はっきり言って脅威以外の何物でもない。司祭がうろたえるのも無理がない。
だがそれでも俺は許す事ができなかった。恐ろしいスキルだが別に授かりたくて授かった訳ではないし、それを理由に虐げられた事を許すつもりはない。
今すぐにでもスキルを使って復讐をしたいところだが、いかんせん相手が相手だ。
俺が発生させたウイルス、まだ検証はしていないがおそらく治療も可能だ。俺を散々虐げてきた教会に属するものたちや、スレイン達が属しているパーティにいる神官のルゥは治癒魔法と呼ばれる魔法を使う事ができる。治癒魔法は主に体の傷を治す事を主としているが、毒や麻痺といった状態異常も治す事ができる。俺のウイルスが状態異常に該当するか分からないが、治療される可能性は十分にあり得る。
さらにスレインのような腕の立つ剣士たちは、治癒魔法に頼らず、自分自身で異常状態を治したり、そもそも異常状態にかかりにくくなる装備などを身に着けたりしている。魔物の中でもウイルスの症状が体に現れるのに個体差があったため、相手によってはそもそも感染をさせる事ができないというパターンもあり得る。
恐ろしいスキルではあるが、自身の戦闘力を向上させる効果はないのでウイルスが効かなければ最後、復讐をしに行っても一瞬で返り討ちにされてしまうだろう。
復讐のために念入りに計画を練る必要がある。
そして復讐とは別でやりたい事があった。それは両親の安否の確認だ。会えなくなってから両親がどのような状態になっているかは全く分からない。昔のように家族で温かい暮らしをしたい……。今でもそんな思いはあるが、長い月日が経っているため状況は変わっているだろう。最悪、自分の事など忘れ、新しい人生を歩んでいるかもしれない。それでも自分の両親が今どうなっているのかという事だけは知りたかった。
バッグに入っていた食料もいよいよ底をつきかけている。何はともあれそろそろダンジョンから脱出する必要がある。倒した魔物の肉を食べる事も考えたが、ウイルスを感染させて倒した魔物を食べるのはさすがに抵抗があった。スキルの効果で倒した魔物は、剥ぎ取りを行ってあくまで素材として換金する事にした。
食料を確保するために町に向かう必要があるが、近場はさすがにまずいだろう。スレインたちの性格から察するに、おそらく適当な理由をでっちあげ、俺の事を死んだだの逃げただのいって報告してそうではある。しかしこう見えても俺はスキル封じの腕輪をつけた無能として悪い意味で有名になっている。向かうならばあまり人の多くない所の方がいいだろう。
そこで俺の頭の中で候補地が一つあがる。俺の両親が住んでいる村だ。あそこならそれほど大きくないし、俺がいたのも昔の事なので、今の俺を見ても俺がアルだと気付ける人はそうはいないだろう。ここからいけない距離ではないし、何より両親の様子を確認する事ができる。
そうと決まれば早速行動だ。俺はダンジョンから脱出する準備を始める事にした。