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ダンジョン突入

「遅いんだよ! 糞が!」


 今日荷物持ちとして加わるパーティのリーダーであるスレイン。彼は素行こそ問題はあるが実力は本物で、ギルドにおいて優秀な剣士として君臨している。そんな彼に会うやいきなり罵声と共に蹴りを入れられてしまう。


「ねぇ。本当にコイツに荷物を持たすの? 荷物が腐りそうで嫌なんだけど」


 魔術師のローズがうんざりとした顔で愚痴をこぼす。


「……そう言うな。値段として破格。最悪死んでも問題ないという物件だ。使いつぶすにしてもこれほどの逸材はあるまい……」


 スキンヘッドの男が冷静な口調ながらも中身はとてつもない事を口にする。彼の名はルゼル。彼もまた優秀な武道家としてギルドからも一目を置かれていた。


「とにかくさっさと終わらしちゃおうよ。それで美味しいものでも食べようよ」


 白いローブを着た少女はぴょんぴょんと飛び跳ね依頼をこなしてしまおうと声を上げる。


「……油断は禁物だルゥ。今日潜るダンジョンはキマイラがいるという住処なんだぞ」

「心配ないって! 何かあったら私がすぐ治してあげるから!」


 ルゼルに諭された元気いっぱいの少女はルゥ。見ためはあどけない少女だが彼女もまた神官として一流の腕を持っている。


「まぁ最悪、何かあったらコイツを盾にして逃げればいいさ。パーティメンバーじゃないから何のペナルティもないしな」

「そうね。まぁそこのゴミも盾くらいにはなるかしら いっその事魔物に呪いをかけてくれれば助かるんだけど」


剣士のスレイン 魔術師のローズ 武道家のルゼル 神官のルゥ 非常に優秀なパーティで全員の評価はAランクとされている。ギルドではランクはS A B C D E Fの7つのランクがあり、Sが一番優秀で、Fが初心者の駆け出しといった所だ。評価としてはパーティのランクと個人の力量の二つを考慮した上で算出している。そのためパーティに属しているメンバーのランクを総計した上でパーティのランクが決定するのだ。そのため、パーティに下級の荷物持ちなどの雑用を入れると、通常ならパーティランクは下がってしまうという現象が起きてしまう。引き受けられる依頼はパーティランクが高いほど多くなるため、そのあたりの折り合いが非常に難しい。 そこで取られる策がパーティにメンバーを引き入れるのではなく雇うという形が取られる事が多い。雇用はパーティに参加するわけではないのでパーティのランクは下がらない。その仕組みに目を付けた結果、彼らが取った手段はアルを荷物持ちとして雇用する事だ。アルの存在はギルドでも浮いており、腫物扱いされていた。そのため酷い扱いをしたとしてもそれを注意する者が誰もいないため、非常に都合がよかったのだ。


「……まぁゴミなりに役に立ってくれ。期待してる」

「じゃいこっか」


 こうしてスレイン一行はアルを荷物持ちとして雇い、ダンジョンに潜る事にした。


「しかし、ついに俺らもキマイラが住むダンジョンに潜れるようになるとはなー。成長したもんだぜ」

「まぁ、私ほどの実力があれば当たり前の事だけどね」


 ダンジョンを歩きながらスレイン達は談笑しつつ歩を進める。今潜っているダンジョンは通称キマイラの住処と呼ばれており、キマイラという魔物が住むといわれている。獅子と鳥の二つの顔を持ち、かつヘビの尾をもつと呼ばれる強力な魔物で魔法も非常に強力なものを操るといわれている。そのような魔物が生息している事もあって非常に攻略難易度が高いダンジョンなのだが、その分手に入る素材もレアな物が多く、一攫千金を狙うのも夢ではなかった。


「しかし、キマイラはともかく他の魔物もそこそこ強い個体が多い」

「うん。あんまり連戦してると魔力が切れちゃうよ」


 生息する魔物もキマイラだけでなく、その強さもかなりのものだ。その分、魔物たちの素材も高値で売れるものばかりである。


「おっ! ジュエルビートルがいるじゃねぇか!」

「あたしってばほんとついてる! スレイン! あいつの宝石あたしがもらっていい?」


 ジュエルビートルは角が宝石で出来ている昆虫型のモンスターだ。中々遭遇できないこともあって、その角にはかなりの値打ちがつけられている事で有名だ。


「全部はダメだが少しならいいぜ。んで残りはギルドで換金して装備を買い替えるか!」

「……依存はない。早急に撃破する」

「サポートは任せて!」


 こうして四人はジュエルビートルと戦闘を開始した。魔術師のローズと神官のルゥが後衛を務め、剣士のスレインと武道家のルゼルが前衛として戦い始める。さすがはAランクというべきか、彼らは苦戦する様子を見せずジュエルビートルにダメージを与えていく。


「………」


 そんな中、アルは静かに頭の中である事を模索していた。それは何故ジュエルビートルがこんな所にいるのかという事だ。ジュエルビートルは非常に憶病な魔物で、普段は人目につかないところで生活している魔物だ。そんな魔物がダンジョンの中とはいえ普通に人が通るであろう道でこんな簡単に遭遇する事があるのだろうかと疑問に思う。

 アルは幼い頃から理不尽と言われるほど様々な雑用を引き受けてきた、その結果もあって様々な分野においては非常に多くの知識を所持している。ただ自分の身体能力が低い事もあってそれを活かす事ができないでいた。


「よっしゃ! 撃破したぜ!」

「はぁ。これでこの宝石も私の物。本当に綺麗……」

「……まずは解体だ。おい、さっさとしろ」


 ルゼルから解体するよう指示を受け、アルはジュエルビートルの解体に取り掛かる。その手際は見事なものでいとも簡単に綺麗に解体を行って見せた。


「綺麗に解体したね」

「……ゴミにはゴミなりの仕事があるという訳か」

「早く宝石をよこしなさい! あんたの汚いのが移ったらどうするのよ!」


 キチンと自分の仕事をこなしてもアルに飛んでくるのは罵声だけだ。誰もアルに対して真っ当な評価はしてくれなかった。


「おいゴミ! 素材をしっかり持ち歩けよ。無くしたらただじゃ済まさねぇからな」


 スレインから脅しのような注意を受け、アルは言われるがままに自分が解体したジュエルビートルの素材を持たされていたバッグに入れる。唯一の救いは持たされているバッグは魔法のバッグで素材を詰めてもパンパンにならないという事であった。


「さーてジュエルビートルって大物も狩れたし今日は大分ついてるな! この調子で人稼ぎしようぜ!」


 上機嫌になったスレインとその一行はダンジョン内にいる魔物を次々と倒し、その素材を回収していった。幸運なことにその後もジュエルビートルと何度も遭遇し、今日一日の稼ぎとしては非常に高額になっていた。


(やっぱりおかしい……。こんなにジュエルビートルと遭遇するなんて……)


 一方でアルはジュエルビートルと何度も遭遇している事に対し疑問を覚えていた。憶病な魔物であるジュエルビートルとこう何度も遭遇するのはさすがにおかしい。何かあるのではないかと。


「よーし、今日はこれくらいにしてそろそろ帰るか」

「うふふ。あれだけジュエルビートルを倒したんだもの。あれだけ宝石があれば私はもっと輝けるわ」

「……今日は祝杯だな」

「はやく帰ろうよー。お腹すいたよー」


 Aランクの四人はまだダンジョン内であるにも関わらず気分は祝杯モードになっていた。最早アルの事はそっちのけで帰った後の事ばかり考えている。


(人が近づかない所にいるはずなのに、人が通るところにいる。という事は場所じゃない? 場所じゃない所で人が近づかない所?)


 アルの頭の中でパズルのピースが重なろうとしていた。


(人が近づかない危険な所? 場所じゃないなら魔物? しかも相当強力な? ここのダンジョンは……まさか!)


 アルの頭で警鐘が鳴り響く。あれほどのジュエルビートルと戦闘を繰り広げたのだ。気づかれていない訳がない。すぐに撤退しなければ。


「皆さん。すぐに撤退を!」


 アルは四人に対しすぐに撤退するよう声をかける。呑気に帰った後の事を考えている場合ではない。そう思って声をかけた。


「あっ!? なんだ? まさかお前……ゴミの分際で俺らに命令したのか?」

「ゴミに命令されるなんて最悪……。死んだ方がましだわ」

「……士気を下げてくるとは。やはりゴミはゴミだったか」

「あーあ、せっかくいい気分だったのに」


 命令され事に対し苛立ったのか四人はアルを睨みつける。


「ねぇスレイン。こいつ焼いていい? ゴミってだけでも不愉快なのに馴れ馴れしく私たちに命令してきたのよ。ここで焼却した方がみんなのためじゃない?」

「それはいい案だな。いっその事ここで斬り刻んちまうか? ついでに呪いバラまいて魔物を始末してくれりゃ言う事無しじゃね?」


 スレインが剣を構え、ローズは杖を持ち魔法を放てる準備を整える。


「待ってください! そんな事してる場合じゃ!」

「うるせぇ。せっかくのいい気分を台無しにしやがって! Aランクの俺がお前に教育をしてやるよ」


 スレインがアルに切りかかろうとしたその時、辺り一帯に咆哮が響き渡る。その咆哮はとてつもなく大きく、全員の注意を引く分には十分であった。


「な……なんだ!?」

「まっまさか……」


 咆哮が鳴りやんだかと思うとズシンズシンと何者かがこちらに近寄ってくる足音が辺り一帯に響き渡る。そうして姿を見せた魔物は巨大な姿をしていた。

 獅子と鳥の二つの顔を持ち、かつヘビの尾をもつと呼ばれる強力な魔物。キマイラが一行の前に姿を現した。




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