変わってしまった日常
俺、アル・スペンサーは普通の家庭で普通に生まれた。他より違う所があるとすれば父がそこそこ有名な剣士で母がそこそこ有名な魔術師であった事だろう。
二人は元々冒険者ギルドで活動しており、出会いも一緒にパーティを組んだ時だったらしい。一緒に活動してい内に相思相愛の関係になり、時が経って結婚し、俺が誕生したという訳だ。
二人とも冒険者ギルドで活動していたものの、性格がどちらかというとお人好しだったという事もあって、高収入の依頼を受けるのではなく、収入関係なく多くの人々を助ける事を目的としていたため、我が家は貧乏ではないものの、それほど裕福ではなかった。
とはいえそんな二人を俺はカッコよく思っていたし、二人と一緒に過ごす家族の時間は大好きだった。将来成長したら二人のように冒険者ギルドに入り、稼いだ金で親孝行しようと思っていた。
だが現実はそれを許さなかった。
俺が住んでる国では10歳くらいになると神からスキルを授与されるという事で教会に行くというのが習わしになっていた。当然俺も例外ではなく、父と母の3人で教会に行き、スキルを授かりに行った。剣士系のスキルを授かったら父のように、魔術系のスキルを授かったら母のような魔術師になろうと行く前はワクワクしていた。もしかするともっとすごいスキルが手に入って、もっとすごい職業になれるかもしれない。そんな事を考えていたのだ。
そしてスキル授与のタイミングで俺の人生は大きく変わる事となった。
「この者が授かったスキルは……………………ウイルス感染じゃと!?」
当時の俺はあまりよく分からなかったが、スキル授与に携わった司祭の驚いた顔、どよめく観客、そして信じられないという表情を浮かべる両親の顔、それらは今でも鮮明に覚えている。
俺が授かったスキルはどうやらとんでもない効果を持っていたようで、場合によっては世界を終わらせる事ができるなどという大事の話になったようだ。
そしてそんなスキルを授かった俺の事を周りにいた人たちは声高らかに批判したらしい。彼らもまた俺の両親と同様に子どもを連れてスキルを授与されに来た者たちだった。
そしてその場で俺をどうするかという様々な意見が出され、結果的にスキル封じの腕輪というものを装備し、なおかつ監視された状態で生活しなければいけなくなってしまったのだ。
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その後、突然両親と別れて生活をしなければならないとお偉いさんから説明を受けた。当時の俺は理由がよく分からないまま、父と母から引き離される事を聞き、大泣きした。
両親も大泣きし、ひたすら俺にごめんねと謝罪の言葉を口にしていた。俺は普通に生活し、授かったスキルで冒険者ギルドで活動し、恩返しできる生活ができれば満足だったのに……。そんな俺の思いは空しく両親と引き離され、スキル授与を行った司祭が管轄する教会で生活する事となった。
それからの生活は地獄であった。表向きは子どもを大切にする教会と言われていたが実際はとても酷いものであった。子供であるにも関わらず朝から晩まで奴隷のようにこき使われ、食事も固いパンと水だけ、酷い時は抜かれる時もあった。また、俺がスキル封じの腕輪をつけられていた事もあって、同じく教会に住む子どもたちからも酷い虐めを受けていた。その子どもたちはどこかの偉いさんの子だったからなのか、俺とは違い食事は普通のものを出され、雑用も最低限の事くらいしかやっていなかった。そんな彼らにとって俺は格好の的だったようで、剣術スキルや魔法スキルの特訓という名目でサンドバッグの代わりにされたり、雑用をおしつけられたりした。酷い時には食事を奪われる事もあった。そんな中で唯一の希望だったのが年に一度だけ両親と再会できる事であった。さすがに教会側もガリガリに痩せた俺を両親に見せるのはマズイと思ったのが、その時だけは普通の食事を与えてくれた。
両親との僅かな再開。それだけが俺の心の支えだった。本当ならば両親に教会が行っている事の全てを白状し、助けを乞いたかった。だがそれをすれば教会がどう動くかわからない、下手すれば両親に大きな迷惑がかかるかもしれない。そんな思いもあって本当の事を言い出せずにいた。
そんな生活を続けているうちに、俺にもチャンスがやってきた。冒険者ギルドが俺を引き抜きたいと言ってきたのだ。教会も俺を手放せる事がうれしかったのか、喜んで俺をギルドに引き渡した。そして俺は教会からギルドに監視されるという形で新たな生活を送る事となった。
しかしそこで待っていた現実は教会以上にひどいものであった。ギルドでは雑用から命がけの仕事まで様々な依頼が発生していたが、基本誰も受けたくないであろう仕事ばかりを俺に押し付けてきたのだ。ギルド側も自分たちにとって儲けのない仕事の引き受けは拒否する事ができるのだが、大人の都合で引き受けなければならないという事が多々あるらしい。それをこなす人材として俺が選ばれたのだ。
下水道の掃除、臭い魔物の解体、危険地域の探索、数えればキリがなく、どれも誰もが口をそろえてやりたくないというばかりの内容だ。それでも依頼をこなせば少量の報酬が手に入るため、食事環境は教会と比べ多少はましになった。それでも報酬のほとんどはギルド側で取られてしまい、俺の手元にはわずかしか残らなかった。
そんな日々を過ごす中、俺も成長し、本来であれば一人でもクエストを受けられる状態になった。だが俺はスキル封じの腕輪をつけたギルドの腫物のような扱いを受けている。こんな俺とパーティを組んでくれる人は誰もいなかった。あるとしてもパーティの荷物持ちくらいで労力に対する対価が似合わない酷いものであった。
いっその事腕輪を外してやろうと思ったが、俺の力だけでは外す事はできなかった。しかもこの腕輪、装備主の体に合わして自動で拡大、縮小するようで、常に腕にスッポリとはまってしまっているという状態になっていたのだ。
ギルドに入ってからは両親に会える機会も無くなってしまい、今や手紙を送るだけの形となってしまっている。手紙上は両親と同じようにギルドに入れてうれしい。俺なりに頑張っていると書いているが現実は自分の理想とは大きくかけ離れていた。
こんな形でギルドで活動したくなかった。両親のように普通に依頼を受け、普通の生活をしたかっただけなのに……。こんなスキルがなければ……。俺は今でも自分のスキルを忌み嫌っていた。
だがそれでも生活するためには、どれほどつらい依頼でも受け続けなければならない。今日も俺はギルドで新たな仕事を引き受ける。有名どころのパーティがあるダンジョンに潜るため、その荷物持ちを行うという仕事だ。
俺はため息をつきながらも集合場所であるギルドに足を運んだ