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明かされた真実

「どこまで話したかのう? 若かりし頃の二人が活躍する話じゃったか?」


さっきまで只者ではなさそうな雰囲気を出していた老婆であったが、途端とんちんかんな事を言い始めた。挙句、同じ話を何度もしようとしたので見かねた俺は、その話はすでに聞いたと何度も言う事となった。


ちなみに老婆の言う二人、俺の両親が活躍したという話は俺が子どもの頃から飽きるほど聞かされていたので、どの情報もすでに知っているものであった。とはいえ両親は俺が思っている以上に有名人だったようで、冒険者ギルドで活動していたという話も嘘ではなかったようだ。


「そうじゃったな。だがそんな彼らもあの日を境に変わってしまったんじゃったな……」


そう、俺が聞きたいのはその先の話、両親の身に一体何が起こったのかを知りたいのだ。


「彼らにも子どもがいたのは話したかのう? その子どもが成長し、いよいよスキルを授かる日が来たんじゃよ。両親たちも楽しみだったじゃろうなぁ。自分の子がどんなスキルを授かるのか……。ワシも見に行きたかったんじゃがどうしても抜けられない都合があってのう。立ち会う事ができなかったのじゃ」


スキル授与の日。その言葉を聞いただけで体が震える。そうだ……。あの日だ……。あの日から俺の人生は……。知らない間に俺は自分の拳を強く握りしめていた。


「村には教会がないからのう。スキル授与の儀式を行うために、その日は確か外の町から司祭が来たんじゃったか……。まぁそれは置いておくとして、その少年が授かったスキルがのう。どうやらとんでもないものだったらしいんじゃよ」


ウイルス感染。俺が授かったスキル。俺の人生を変えたスキル。このスキルを授かったあの日から俺の運命の歯車が狂い始めたのだ。

「ワシが村に戻った時はひどいものじゃった……。スペンサー家の前には人が集まり、ヤジを飛ばしておった。聞けば呪いだの、悪魔だの酷い言われようじゃった。それだけならまだしも中には石を投げたり、家に向かって魔法を放っている者もおった」


その話を聞いて、ふと俺には思い当たる所があった。教会にいた時は僅かな時間ではあったが両親と再会する事ができた。だがその時は堂々と家に帰るのではなく、人があまり出歩かない深夜にこっそりとというパターンばかりだった。今思えば人目を避けた上での面会だったようにも思える。


「彼らに話を聞くと、スペンサー夫妻の子が持つスキルに問題があったらしくてのう。その子は両親と引き離され、両親は化け物を誕生させた悪魔だと言われておった……。彼らもスペンサー夫妻には大分世話になっておったというのに……」


俺がいなくなった後にそんな事が……。最早言葉が出ずにいた。両親は何も悪くないのに……。俺だって好きでウイルス感染のスキルを授かった訳でもなかったのに……。俺とは別に両親たちも村に住む者たちから酷い扱いを受けていたようだ。両親はギルドでは金稼ぎを主として活動するのではなく、困っている人たちを助けるために活動していた。中には奉仕といってもいいような内容であっても引き受けたりしていたし、村の住人たちの助けになる事であっても嫌な顔一つせず行っていた。そんな二人を村の住人は手の平を返すようにして責め立てたという事実は俺にとっては心苦しい事であった。


「とはいえ、彼らに世話になっておった者もいたのも事実。ワシもそうじゃった……。嫌がらせをやめるよう注意したり、村長に何とかするよう相談にもいった事があった……。だが何の改善もされず、それどころか庇っただの悪魔の味方をするのかなどといって逆上し、彼らの味方をするものたちにも嫌がらせをするようになったんじゃ……。そしてそれに耐え切れず、彼らの味方をするものは徐々に減ってしまったんじゃよ。あるものは引っ越し、あるものは身を守るために敵対側に回ったり、人の負の部分を大きく見せつけられたものじゃ……」


全員が全員、両親に敵対していた訳ではなかったようだが、両親の味方をし続けるというのは厳しかったようだ。


「かくいうワシもスペンサー夫妻に世話になった身じゃ。彼らに嫌がらせをやめるよう言った結果がこの有様じゃ。最早この村でワシに近づくものは誰もおらんのじゃよ。ふぇふぇふぇ」


今の老婆の話を聞き、この家の惨状にも納得がいく。おそらく村の住人たちに嫌がらせをされたのだ。おそらく家の中が酷い惨状になっているのも、嫌がらせを受けた上でなのだろう。いくら家を綺麗にしたとしても嫌がらせが続く限り、その努力は無駄になる。それならばいっそ放置したほうがいいと思ったのだろう。


「そんな嫌がらせが毎日続くうちに、嫁の方が倒れてしまってのう。おそらく抱えておったストレスが相当なものだったんじゃろう……。さすがに見てられなくなって彼らに引っ越すよう言ったんじゃ……。だが彼らから返ってきた言葉は一つじゃった」



「遠く離れた地に息子がいる。あの子が返ってくる場所に私たちは居続けたい。息子が帰ってきたその時に、新しい家族生活を送りたい……とな」



その言葉を聞き、俺の胸が熱くなる。……俺と再会するその日のためだけに。家族は嫌がらせに耐えながらも俺の事を待っていてくれていたのだ。


「じゃが嫁の方は日に日に体調が悪くなり、旦那の方もそんな嫁を助けるために稼ぎが必要になったようで無茶な依頼を受けていたようじゃ……。ワシができたのも旦那が留守の間、嫁の看病をしてやる事だけじゃった……。だがそんな日も長くは続かなかった。旦那の方はある日を境に行方不明……生存は絶望的であると報告され、嫁の方も力尽き息を引き取ったのじゃ……」


俺の事を大切に思っていくれた両親に対する感謝。そしてそれとは別にある思いが俺にこみ上げてくる。


「最後を看取ったのもワシだったんじゃが、嫁は最後まで自分の身ではなく旦那と息子の事ばかり心配しておったよ……。あんな良い嫁。世界を探しても何人ともいないわい。それをあの下種どもが……」


両親を死に追いやった者たちに対し、負の感情が抑えきれない。俺は拳を血がでそうなくらいまで握り締めても握り足りないくらい力をこめる。だがそんな俺以上に目の前の老婆は怒りで震えているように見えた。そういえばこの老婆は何者なのだろう。話を聞いていると俺が思っていた以上に両親について詳しく知っている。老婆の言っている事が本当であれば、母の最期に付き添っていた事になる。


「ワシは結局あの家族に何一つしてやる事ができなかった……。これさえ……こんなものさえ無ければ! やはり腕を斬り落としてでもやっておくべきじゃったわ!」


突然老婆から恐ろしい殺気が放たれる。その感覚はあのキマイラに勝るとも劣らないほどの勢いだ。咄嗟に俺は立ち上がり身構えてしまう。そんな俺の視線に老婆の腕が映る。見ると一つの腕輪が取り付けられていた。それは忘れたくても忘れる事ができないものであった。

それは俺がつい最近まで身に着けていた腕輪。スキル封じの腕輪だったのだから。



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