呪いの子
「この者が授かったスキルは……………………ウイルス感染じゃと!?」
スキルの名を司祭が口にした途端、辺り一帯にざわめきが起こる。
「ウイルス感染って……」
「病気とかを発生させるって事? それって大丈夫なのかしら?」
「静まれーい。まだ神託の途中であるぞ!」
司祭の傍に控えていた神官たちが口を閉じるよう注意する。その言葉を聞き、周りでざわついていた者たちは口を閉じる。
「このスキルは……何と! ウイルスを自在に発生させる効果じゃと! おお、何と恐ろしいスキルを……」
司祭の口から紡がれたスキルの効果はウイルスを自在に発生する事ができるというとても恐ろしいものであった。これの意味する事、つまりウイルス感染のスキルを持つものは、いつでもどこでも自在にパンデミックを発生させる事ができるという恐ろしい存在であるという事だ。
「司祭様! そのような恐ろしいスキルを持つものを野放しにしても良いのですか!?」
「そうよ。もし私の子どもたちが感染したらどうしてくれるのよ!」
「呪いだ……呪いの子だ。一刻も早く処分すべきだ!」
「そうだそうだ!」
パンデミックを自由自在に発生させる事ができる存在など、周りからすれば恐怖の対象でしかない。非難の声が一斉に響き渡る。
「そ……そんな。処分だなんて……」
「司祭様! 私たちはどうなっても構いません! ですがこの子だけは……何卒お慈悲を!」
処分すべきだという声に対して反対の声を挙げる者もいた。二人組の男女であった。
「ふざけるな! ウイルスを発生させる存在なんて生かしておけるか!」
「親だからって贔屓目で見てるんじゃねぇぞ!」
「呪いだ……呪いの家族だ……。何と恐ろしい……」
「ええーい! まだ神託の途中であると言ってるであろうが! 私語を慎まんか! 今後、私語をしたものは力づくで退場させるぞ!」
怒声が飛び交い始めたため、神官から口を閉じるよう改めて注意を促される。さすがに退場させるという脅し文句が効いたのか、ざわめいていた者たちも一斉に口を閉じる。
「失礼ながら司祭様。この者の対応、どうすべきでしょうか? 周りの者たちが言う通り、非常に危険な存在かと。私個人としても即刻処分すべきかと」
「確かに。いつでもウイルスを発生させる事ができるというスキル。これはとてつもなく恐ろしいものだ」
神官の一人が司祭に対して処分すべきだと周りに聞こえないようぼそっと呟く。司祭個人としてもウイルス感染というスキルは非常に危険だと承知している。本来であればこのような恐ろしいスキルを持つ者は即刻処分すべきなのだろう。
(じゃが相手は……)
問題はそのスキルを持つ相手であった。その相手はまだ年端もいかない子どもだったのだ。恐ろしいスキルを持っているというだけで処分してしまうというのも司祭にとっては、あまり気分が良いものではなかった。
「……まだスキル封じの腕輪は残っておったかのう?」
「ええ……まだあったと思いますが……。まさかこの子につけるつもりで?」
「処分すべきだという気持ちも分からんでもないが……相手はまだ子ども。何もそこまでする必要はあるまい」
「ですがスキル封じの腕輪は本来罪人につけるべきもので……」
「処分すべきと言ったお主がそのような事を気にしてどうする」
ひそひそと話している中、司祭がふと周りを見渡すと、その場にいた他の者たちもひそひそと小声で話をしていた。どうやら自分たちがこっそり話をしている姿を見て思うところがあったようだ。その様子を見た司祭はコホンと大きく咳払いし、自分に視線を注目させる。
「皆の者。聞いてほしい。確かにこの者が授かったスキルはとてつもなく恐ろしいものだ。使い方を誤れば、それこそ世界を終わらせる事もできるであろう。即刻処分すべきという意見が出るのも無理はない」
その言葉を聞き、周りにいる者はうんうんと頷く。ただ二人の男女だけはその言葉を聞き、絶望の表情を浮かべていた。
「しかし相手はまだ子ども。恐ろしいスキルを持っているからといって即刻処分というのもさすがに問題じゃろう。そこでじゃ。この者には今後生活をするにあたってスキル封じの腕輪の装着を義務付けるようにしようと思うのじゃが、皆の意見を聞かせてほしい」
スキル封じの腕輪。それを身に着ける事でどんなスキルであっても一切発動する事ができなくなるという代物で、本来は犯罪を犯した罪人に付けられるものである。
「スキル封じの腕輪って確か罪人がつけるっていうあの?」
「確かに、それさえつけてれば問題はなさそうだけど……」
「まぁさすがに子どもを処分するっていうのもな……」
「でもよ……万が一あれが外れたらどうするんだ?」
「そうよ。もし腕輪が外れてしまって暴走でもされたら……」
スキルさえ封じてしまうのであれば、処分までする必要はないのでは?という声もあがるが、一方でそれでも不安であるという者が少なからずいた。
「加えて、厳重に監視した上で生活させる事とする」
その一声を聞き、周りもおおーと関心の声を上げる。
「監視付きならまぁ大丈夫なんじゃないか?」
「まぁ司祭様があそこまでいうなら……」
スキルを封じた上で監視がつく。それならば問題はないだろうという事で周りにいた者たちは納得の表情を浮かべる。処分に反対していた男女も、制限付きとはいえ無事に生活できるという事を聞きほっと安堵の息をつく。
「ではこれより、この者にはスキル封じの腕輪を身に着けさせ、監視の元生活させる事とする」
この日をもって、ウイルス感染のスキルを授かった少年、アル・スペンサーの日常は大きく変わる事となった。