表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/26

8。

目の前では男二人が、何やら困った顔をして相談している。

何やら俺の処遇についてらしいが……困ってんならその辺に放り出せばいいのに、そうする気はないらしい。



「おれ、軽ーい雑談のつもりだったんだけどなあ……リーダー、どうします?」

「……そもそも、奴隷としての動物の売買は違法だ。どこの国でもな。ーーどっかの然るべき機関に引き渡して、保護を求めるのが妥当だろう」

「引き渡すって、このチビっ子をですかい? そこら中ケガしてんですぜ?」


こんなちっこいのに、そいつは可哀想じゃねーですか……と若い男の方が渋面を作る。


「最終的には商隊長の判断だが、何も今すぐってわけじゃない。怪我が治ってから、一番安全そうな国で引き渡すのが良いだろう」

「一番安全な国っていうと……あそこですかねー。()()()()の国」

「ま、ウチの商隊の目的地でもあるからな、ちょうど良いだろ」



……なんだか俺の意見なんて関係なしって感じで、どんどん話が纏まっていく。


俺は成り行きを黙って眺めながら、必死で考えていた。


そもそも、コイツらを信用していいのか? 人間の、しかも男ーー俺を奴隷にしようとしていた奴隷商人(ブリーダー)たちと同じ種類の連中だ。


暗くなるのを待って、こっそりと逃げた方がいいんじゃないか?


そう思ってると、話し合いの終わったらしい二人がこちらを向いた。



「……ってことだ坊主。お前は、しばらくオレらと一緒にこの商隊で旅をしてもらう」

「逃げ出そうとか考えているかもだけど、この辺の国は物騒だからねー。絶対止めといた方がいいよー」


それにその脚、結構酷めに捻ってたから。しばらく立てないと思うよーと指を差される。


……完全に忘れてた。

包帯でグルグル巻きにされて見えないが、左右で足首の太さが倍ぐらい違ってる。

これは、しばらく逃げられないな。


「今は鎮痛剤が効いてるだろうが、まだかなり痛むハズだ。大人しく寝とけ」

「そうそう! そんだけ酷い捻挫は、ちゃんと治るのに一ヶ月くらい掛かると思うし? その頃には目的の国に着いてるからさー」


逃げんならそれからにしたら? おれらと一緒なら飯の心配もないよー、と続けられる。


ーーまあ、脚が治るまでは他に選択肢もないから、仕方ないな。


にしても……コイツらはなんで俺の面倒を見ようとしているんだろう?

それをそのまま聞いたら「置いてくのが心配だからに決まってるでしょ?!」と若い方に言われた。


心配って、どういう事だ? 俺は犬だぞ?

……お前ら人間は俺たちを奴隷として利用するか、愛玩動物(ペット)として所有して気が向いた時に(もてあそ)ぶだけなんじゃないのか?


なのにコイツら奴隷として売るつもりもなさそうだしーー人間って本当によく分からないな。



……あの女も、俺の手当てをして助けるつもりの様だったが。戻って俺がいないのを見て、どう思ったろう。

ーーひょっとして、心配したんだろうか?


まあ今となってはどうしようもないか。そもそも現実にあったことかどうかも定かじゃないしな……

……そう思っていたが。



「おおそうだ、お前を拾った場所にこれが落ちていてな。今返しておこう」

「あ、あったねーソレ。脚にも変わった植物で添え木がしてあったし、おれらの前にも誰か助けようとしてくれたんだよね?」


可愛いリボンだったから、きっと手当てしたのは女の子だよねーという声が聞こえた気もしたが、正直言葉が頭に入ってこなかった。


これ、この布は。



「ただ、リボンの端っこのは血文字だろう? オレ達には読めないが、なんて書いてあるんだろうな」

「ーーリュウ、だ」

「あれ、チビちゃんソレ読めるの?」


それとも今の、チビちゃんの名前? と聞かれる。


「ーーああ、多分。名前をくれると言っていた」


「つまりそのリボンは首輪として付けてもらったって事か」

「へぇ、そいつぁスゴいな! なら、そのリボンは大事に持っとかなきゃだなぁ」

「……そうだな、そうする」


そう言ってリボンを受け取る。

端の部分には、すっかり茶色く変色した血文字が残っていた。



ーーやっぱり、夢じゃなかったのか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ