7。
次に意識が戻ると、今度は地面がゴタゴトと揺れていた。
ーー昨日から何だってんだ。色々ありすぎだろ。
また地殻変動だって言うのか? あの森危なすぎないか。
慌てて体を起こそうと足を踏ん張ると、土でなくもっと固めの感触ーー木、か?
床の上で寝ていたのか?
「あ、リーダー。アイツ目覚ましたみたいですぜ?」
「おお、そいつは良かった! ーーおい、坊主。大丈夫か? 起きられるか?」
そう言って、誰かが顔から布を外してくれた。
……どうやら頭に包帯を巻かれていたのが、ズレて目隠しのようになっていたらしい。
ゆっくり目を開けると目の前にはフードを被った人間の男が二人いて、ジッとこちらを見ていた。
反射的に体が竦み、慌てて距離を取る。ーー人間の男なんてロクなもんじゃない。
「オイオイ、そんなに警戒すんなや。別にとって食いやしねーよ」
「ここは行商隊の馬車の中だよ。おれらは雇われの護衛なんだー」
お前、惑いの森の入り口ら辺で倒れてたんだぜと言われ、警戒しながらも首を傾げる。
ーーあの竹林が、惑いの森の入り口に?
……そんな浅い位置にあった様な気もしなかったが。
「一昨日の昼間に水の補給に寄ったんだが。まさかこんなチビっ子を拾うことになるなんてな」
「そうそう!怪我だらけでぐったりしてるし揺すっても全然目を覚さないしで、ヤバい医者呼んでこい!って騒いだんだよー」
丸二日起きないから心配したぜ! とニッカリと笑われたが……丸二日?!
「ーー俺、そんなに寝てたのか」
「おう。医者に診せたら、怪我は大丈夫だが血を失いすぎてるから寝かしとくしかない、って言われてなー」
あ、寝っぱなしで喉渇いてんだろ? 水飲んどけよ! と若い方の男が水筒を渡してきて、思わず手を伸ばすが……手?
慌てて自分の姿を見下ろすがーーヒト型、になっていた。
そっと千切れかけていた方の耳を触るが分かるのは巻かれた包帯の感触だけで、そこにあった”姿封じの耳輪を見つけることはなかった。
……いつの間に取れたんだ?
他の怪我の部分も順番に見ていくが、包帯やガーゼはどれも新しく替えられていた。
寝落ちする前に女に巻かれた包帯や、首輪がわりにされた布も、何もなかった。
ーーまさか、アレは全部夢だったのか?
そんなハズはない、と思うのだが……。
「あ、切れてた耳は医者に縫っといてもらったんだ!
端んとこはちいとばかし痕が残るかもって話だったが……ま、オスならそこまで気にする事もないよなー」
「たまたまだが見つけたのがウチの商隊で良かったぜ。
近隣の国じゃ、犬を奴隷扱いにして海の向こうに売り飛ばすなんて悪どい事をやってるところもあるらしい」
その話を聞いて、俺はビクリと反応してしまう。
「えっ……おいおい、マジかよ……」
「坊主、お前奴隷だったのかーー」
「違う……奴隷として売られそうになって、逃げてきた」
そう言うと、目の前の二人が顔を見合わせて深々とため息をついた。
ーー悪いのは俺じゃないんだが、なんでこんなため息吐かれなきゃならないんだ。
なんか納得いかないんだが?