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第三研究所

 アーフィはここの生活の息苦しさを改めて感じていた。腕時計でいちいち時間を確認する癖が多くなってるのは昨晩から分かっていたが、今日の朝、店主にゴミだしを頼まれて外に出たときに、その異様さを感じた。

 太陽が見れないということは知ってはいたが外に出たとき、目に入るのは無骨な天井とゴミ溜まり、亡霊のように道をさまよう家のない人達の不清潔な姿だった。

 音だってアーフィの住んでいたマンションの近くで奏でられる小鳥達の歌声が流れていたが、死体から発せられるような唸り声と、車のエンジン音だけが聞こえる。

 馴れない環境での生活は相当苦しいものだと理解はしていたがこんな事でつまずくんじゃこの先が思いやられる。

 ゴミ捨て場に着いてアーフィは回収車は来ないのかと疑問に思った。積もって山のようになってしまったゴミ達がアーフィの身長おも抜かしていた。中には袋がカラスか野良猫は知らないが何者かに破かれていて中身のプラスチック製品や壊れた雑貨が散乱していて、ハエが寄って鷹っていた。


 「……すごい量ね…」


 アーフィは手で払うがまだゴミ溜まりに彷徨くので手に持ってるパンパンのゴミ袋を放り投げるとその場を去った。

 少し汚い程を歩いていると『ウエルカム』という看板と店を繋ぐチェーンが片方、千切れていて今にも落ちてきそうな店が道路を跨いで見えた。

 スラム街いっても車は上層と変わらないくらい通っているし、むしろトラックとかはスラムの方が多かった。

 しかし午前九時だというのに今日は何だか騒がしかった。薄汚れた服を着飾った人々が何かに尻目をやり逃げ回っていた。

 アーフィはスラムの人達が逃げてる反対方向に目を向けるとそこには少し傷付いた黒色のヘルメットを被った兵隊達が銃を両手に持ってスラムを巡回していたのだった。


 「ッ!?」


 アーフィはあまりにも驚いてしまい思考を止めてしまったが慌てて顔を背ける。背けた先が汚水の溜まり場で顔を強張らせてしまう。

 顔だけは臭い汚水に向けてアーフィは兵隊達に目をやると兵隊達はジープやらをトラック走る整備不純な道路を我が物顔で走っていた。その他にも昨日苦労してアーフィ達が倒したガードマンも二体程、ジープの後を追っていた。

 アーフィはガードマンの姿を見るなり昨日のセンサーのことを思い出した。きっと顔を背けただけじゃ駄目だ、バレてしまうんだろう、クラックが昨日の夜に私達の情報は軍のデータベースに残っていると言っていた。

 アーフィはずっと我慢しながら汚水に顔を向け続け兵隊達がウエルカムの前を通りすぎたことを確認すると急いで道路を渡り、『準備中』とドアに掛けられた看板を無視して開けて入る。


 「クラック。マズいわよ軍がすぐそこまで来てる」


 アーフィは店の中に入るとカウンター席でラジオから流れてくる声に耳を傾けながらサンドイッチを小さな口でかじりついていた。


 「あぁ、分かってるさ。そろそろ此処を出ないとな…」


 「おいおい、そいつは困るぜ!もう二百コア分は飲み食いしてもらわなきゃな!」


 コアとはこのこの国の通貨のことで店主はがッはッはと大きな笑い声と共にもう二百コア分稼ぎたいらしくクラックにブラックコーヒーを差し出した。

 

 「それでも此処を出なきゃいけないのは時間の問題よ」


 アーフィはそう言うとクラックに差し出された筈のブラックコーヒーを横取るとクラックはアーフィを少し睨んだ後、店主に向けて人差し指を立てて“もう一杯”の合図をした。

 

 「あぁ…確かに此処を出る必要はあるがスラムでやることがまだ残ってるんだ」


 クラックは新しいコーヒーを受け取ると、そのまま口に運ぶ。


 「やること…って?」


 「軍がスラムに造った第三研究所に忍び込む」

 

 第三研究所、軍が唯一スラム街に建てた軍事施設でありクラックもそこで何をされているのか知らない程、秘密裏な場所だった。

 そこにクラックはこんな軍に追われ続けている状況で潜入しようと言うのだ。アーフィにはクラックは正気を保ってるようには感じれなかった。


 「軍に追われているのよ?無理に決まってるわ」


 「だからだ。軍は俺らのこと捜している、ターゲットはたった二人だというのにだいぶ総力を挙げてるみたいだからな。がら空きなんじゃないか?」


 がら空きという言葉はふざけてと言うか茶化したような言い方をしていたが潜入するならこの時しかないという目だった。

 アーフィは少し頭を抱えてしまったがクラックに付いていくと決めたからには行くしかない。けれど疑問に思うことがあった。


 「そこに何があるっていうの?収穫はありませんでした。じゃ済まないのよ?」


 「そもそもだ、軍がスラムに施設を置くなんておかしいと思わないか?更に研究所…ってのも怪しい。どうせ表向きは兵器の実験施設だとほざくんだ」


 クラックはボソボソと独り言のようにうつむきながら駄弁っていた。


 「つまりその施設が昨日言ってた機密情報に関わりがあるってこと?それなら行ってみる価値はあるわね」


 アーフィは飲み干したコーヒーカップが宙に浮くほど強くカウンターを叩くと席を立った。クラックもそれにつられてゆっくりとコーヒーを喉に全部流し込んで隣の席に立て掛けていた大剣を手に取って立った。

 アーフィは左手でしょう右腕を掴むと天井に届いてしまいそうなくらいに背伸びをして身体を伸ばした。銀色に輝く腕時計を掲げ、ライトで更に照らしていた。

 クラックはカウンターに四百コアを置いて、大剣を背中の鞘に入れると手袋をギュッと引き伸ばして手にはめた。

 これは二人の覚悟出来た証と準備万端という二つの意味を持った癖であった。

  






 第三研究所までの道のりは意外と簡単で道路を道なりに進んでいけばあっという間に着いてしまう。道路も上層と変わらないくらい整備されていて、工場のように大きな倉庫がシャッターを閉めて赤いランプに照らされ続けていた。

 現在の時間は午後十一時を過ぎていて、辺りはクラックとアーフィの乗るバイクのエンジン音と金属と金属のぶつかり合うような音が響いていた。

 焦げた臭いがクラックの鼻の奥を突き続けていていたがクラックは馴れてしまっていて、むしろこれが醍醐味の一つだと思っていた。


 「ねぇクラック、このまま正面突破する気なの?」


 「嫌われてるのか知らないが一度も招待された事が無くてな、構造なんかも全く知らないんだ。まぁ研究所なんて訳のわからんような場所に行きたくもないが」


 クラックは研究所前の路地にバイクを停めると後ろに座っていたアーフィを先に降ろした後にゴーグルを外して自分もバイクを降りた。

 コート越しに伝わる異様な寒気を感じていたのはクラックだけではなくアーフィも同様だった。

 クラック達は路地から歩いて出ると閉まっている巨大なシャッターを睨む。錆びたり薄汚れていたりしてるが特殊な素材が使われていて弾丸くらいなら精々、傷痕を残すのが限界だろうか。

 クラックはシャッターの目の前に立つとアーフィを自分よりも後ろに下がらせた後、大剣を抜き一瞬だけ構えて次の瞬間には地面に刃を滑らせて〈破風撃(はふうげき)〉をシャッターに向けて放った。

 お互いがぶつかり合うと見える斬撃は弾けてシャッターにあのガードマンが通れるくらいの大きな穴を空けた。

 

 「やり過ぎなんじゃ……」


 アーフィがポカンと口を開けながらクラックに訊くと彼は「これが一番だ」と簡潔に返した。

 しかしアーフィの言うとおり、こんな大きな穴は誤魔化せるものではなく遠くから見ても一目瞭然だった。それにあんな大きな音は兵士達にも聞かれてしまっただろう。

 けれど、アーフィの心配とは裏腹に警報音的な物も鳴らず、兵士が何事かと銃を構えて集まってくる様子もなく、クラック達はそのまま研究所の中へと入っていった。

 研究所の外見は工場に似ていたが屋上には数えきれない程無数のアンテナが立っていて硝子張りの部屋が多かったが殆んどがマジックミラーで外から中は覗くことはできなかった。


 「意外と…薄暗いのね…あそこの電灯だって点いてないし」


 アーフィは清潔な白い床を今まで汚いスラムの道を歩いてきた靴で純白を汚して歩いていた。

 通路の電灯は点いていたり、いなかったりしていてアーフィは気が散ってしょうがなかった。


 「資料が散乱しているな。使われてないみたいな内装だな。…!これは…」


 クラックは通路を抜けた先の部屋にアーフィより先に入っていて

落ちている資料に目をつけて手に取る。


 「研究記録…こんな物を乱雑に置きっぱなしにするなんてな」


 クラックは革製の手袋を着けたまま研究記録の用紙をめくっていった。


 「四月一日、今回捕獲されたグレーワイバーンの研究の結果ワイバーンを模したモンスターを生み出す事に成功した。…次の実験でコイツの戦闘力を図る為、早速実験の準備に取り掛かるとしよう…」


 クラックはアーフィにも聞こえるように声を出して読んだがアーフィも個人で別の資料を読んでいた。


 「クラック…もしかして軍の機密情報ってまさか…軍はモンスターを作っているの?それって……とんでもないことよ?」


 アーフィは頭を抱えながら資料をデスクに叩きつけた。


 「あぁ…これで確実になった。あらかた此処にある資料を持ち帰るぞ」


 クラックはさっきまで読んでいた資料を脇に挟むと横に置いてある資料に手を掛けようとしたその時だった。


 「……!クラック!窓を見て!何かがこっちに来てるわ!」


 アーフィはマジックミラーが張られた窓を見て指を指した。

 クラックもそちらに目を向けると赤い目のような何かがこちらを覗いていた。マジックミラーなのだから覗いても見えない筈なのにそれは内側に赤い光を通していた。

 そして全面の窓一杯に広がる金属の翼。


 「伏せろッ!!」


 クラックはそう叫び、アーフィを押して地面に倒れた。

 外のそれは金属で出来た翼を回転させてマジックミラーを割った。


 「何事ッ!?」


 アーフィとクラックは顔を上げた。

 そこには赤いライトの目、金属の身体に翼に取り付けられた機関銃、〈プロトワイバーン〉の姿があった。

 プロトワイバーンは金属のくちばしをクラック達に向けると機関銃の銃口を向けた。


 「やるしかないッ……!!」


 クラックは大剣を構えた。

 

読了ありがとうございました。

新しいモンスターの登場ですね。

次にアーフィの紹介。


アーフィ・ユリシアス

26歳 

身長、体重は168cm、48kg

好きな食べ物イチゴ

嫌いな食べ物キャベツ

趣味はネイル

クラックと出逢うまでラジオ局で働いていて人気者だったが彼女自身目立つ事が好きではなく人気者扱いは嫌がっていた。

拳銃は街のゴロツキに絡まれた時に奪ってそのまま持っていた。

結構、肉弾戦もいける。


紹介終わり!ではまた次回お会いしましょう。

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