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逃走

なんか調子が良いんで頑張ってます

夜空の暗闇には何も映ることはなく、寒い寒い夜風がクラックの肌を刺激した。

 この路地裏を照らしているのはうっすらと入り込んでくる月明かりとバイクのライト、そして自動販売機の明かりだけだった。

 暗くて暗くて、迷ってしまえば二度とこの路地裏からは出れそうにない程、虚無の闇が辺りを包み続けている。何も無い訳ではないが暗闇に隠れてしまえば幽霊みたいな物だった。

 

 「ハァ……」


 息は白くないが、冷えたクラックの肌にはこの生暖かい息はつかの間の癒しを与えた。

 藍色のコートは前のドラゴンとの戦闘のせいで汚れていて、大剣の鞘越しに伝わる血の生暖かさは吐息とは違って気持ち悪さがあった。

 何かジュースでも買おうとしたが全てが「冷たい」と表示されていて、値段も高い為、諦めていた。

 こんな日に、冷たいコーヒーなんて何を考えてるかクラックには理解出来なかった。

 ここでクラックは気づいた。

 ビルにカバンを忘れてしまったことを。きっと盗み聞きをしていた時、置き忘れてしまったのだろう。

 

 「クソっ」


 調子の狂うことばかりだ。財布だってあのカバンの中に入れっぱなしだ。携帯電話はコートのポケットにいれているが、財布がなければホテルには泊まれそうにない。

 上を通っているパイプからは水が流れる音がしていて、水滴がポタポタと垂れている。下には水溜まりが出来ていて、踏みたくなくなる程茶色に汚れていた。


 『こっちを捜せ!!』


 まだ寝静まっている街に響く男の声。

 ──まさかもう軍が動き始めたのか?

 クラックは再びバイクに乗るとエンジンをかけてハンドルを強く握る。

 クラックは逃げるしかなかった。


 『おい!いたぞ!こっちだ!』


 「ったく…一体どういう理由で捜索させているんだ…?」


 クラックはクラッチレバーを握りチェンジペダルを押し下げる。そしてそのままクラッチレバーを離してギアチェンジを行う。

 アクセルを全力で捻り、バイクを走らせる。


 『おい!動く─ま、待て!』


 兵士がクラックを発見した時にはもう遅かった。

 バイクは白い息を上げて、音を響かせていた。


 「あばよ」


 クラックはバイクを思い切り走らせて、兵士を押し退け道路に出た。


 『うおぉ!?く、クソ撃て!撃て!』


 兵士が慌てて落としてしまった銃を拾い上げ、クラックを撃ち始めた。

 クラックはバイクを左右に揺らしながら避けたが、当たらなかった弾は道路に穴や傷をつけていた。


 「街で実弾か…イカれてるな」


 クラックは後ろから撃たれる銃弾をものとせず走り抜けた。


 『クソォ!早く伝えろ!追え!』









 整備不足な高速道路は不規則に並べられたラバーポールをオレンジ色に光らせ、クラックを照らしていた。

 ただ暗くて、車も少ない時間帯。そんな中を音速の速さで走るバイク、そしてサイドミラーに映る三台のジープ。


 「クソッ!しつこい奴らめ」


 時速は既に百キロを越えていて道路には焼けたような跡が一瞬だけ残っていた。

 ほんのりと臭う焼けた臭い、鼻の奥を突くようなガソリンの臭いが混ざる。


 『撃ち殺せ!』


 後ろのジープからは怒鳴り声が聞こえてきて、クラックがサイドミラーに目をやれば窓ガラスから装備を着込んだ男が上半身だけを出して銃を撃ち始めた。


 「ウッ!?」


 放たれた銃弾がクラックの頬をかする。

 痛い、ではなく熱いという感覚がクラックを襲った。


 「ケリをつけるぞ」


 クラックはバイクを無理矢理止めて反対側、つまりはジープの方向に向いた。

 そして大剣を抜き構える。


 『撃てッ──!!撃てッ──!!』


 ダダダダダっと放たれた続ける雨のような銃弾は獰猛にクラックを襲う。

 クラックはバイクを再び走らせてながら背を低くした。

  銃弾はクラック除いて背中をかするか、かすらない程度の所で通りすぎて行く。


 『ち、近づいてくるぞぉ─!!』


 『後ろに下がれ─!!』


 ジープ達は慌てて後ろに下がろうとするがもうするが遅く、クラックはもう少し既に二台のジープの僅かな隙間に入っていた。

 そして驚いたことに駒みたいにバイクごと回転して大剣を振り回したのだ。


 『なあぁッ────!?』


 するとどうだろうか。二台のジープのタイヤは斬られてパンクしてしまった。

 そしてクラックはもう一台のジープに目をつけるとアクセルを何回も強く捻って、バイクにうなり声を上げさせた。


 『ヒィィ───!?』


乱暴に放たれる銃弾はクラックに当たることなく道路に着弾する。バックしながら放たれてるせいか、さっきの連中よりも撃つのが下手に見えた。


 『な、なら!これならどぉ──だッ!?』


 先ほどまで見せていた臆病な姿とうってかわってジープはクラック目掛けて突っ込んできた。衝突させて殺す気らしい。

 どちらともアクセル全快で衝突すれば無事ではないだろう。少なくともバイクに乗っているクラックは。


 「無駄だ」


 クラックは大剣を乱暴に振るうと、道路に突き刺した。

 それは奥深くまで刺さり、接着剤か何かで固定されたようで簡単には抜けそうになかった。

 大剣の刃は夜風を切り裂いていた。

 

 『何だッ──!?剣を突き刺して!?まさかそれをブレーキ代わりにして止まった反動で跳ぼうってかッ!?なら跳ぶ前にお前を轢き殺すだけだッ!!』


 兵士は勝利を確信した。

 思い切りアクセルペダルを踏み、もうクラックを轢き殺すことしか考えておらず、高らかに笑っていた。

 ただジープのタイヤから臭う焼けたゴムの臭いが辺りに満ちる。


 「じゃぁな。三流」


 なんとクラックは大剣の柄から手を離して、そのまま猛スピードを出しているジープの横を通りすぎていった。


 『なぁッ!?し、しまったぁぁぁぁぁッ!!』


 兵士の予想とは違い、クラックは大剣をそのまま残して通りすぎて行った。

 そう、最初からクラックの狙いは大剣をブレーキ代わりにしてバイクを無理矢理止めて、その反動で跳ぶのではなく“猛スピードで走ってくるジープに大剣を轢かせることだった”。

 兵士は慌ててブレーキペダルを何度も何度も踏むが、もう遅かった。

 ジープは先端から鋭い刃によって真っ二つに切られ、ジープはノートのような開き方をしていた。

 ──そして爆発。

 乗っていた兵士達は爆発する前に何とかジープから飛び出せたが爆発の反動で気絶してしまっていた。


 「ふん。だからお前らは三流なんだ」


 クラックは大剣を刺した場所に戻り、刺され続けていた大剣を簡単に引き抜いた。


 『う、動くな!』


 クラックの背後には三人の兵士が銃をクラックに向けて構えており、足を震わせていた。

 カチャカチャと銃から音がしてクラックはそれには気が散って仕方なかった。


 「───やるのか?」


 クラックは初めて人に剣を向けた。

 殺すことをしてきたのは今までモンスター相手だけだった。

 ──もし人を斬ってしまえばどうなるんだろうか?

 内臓は真っ二つになり、声も上げられず死んでしまい、遺族はどんな思いをするのだろうか。

 クラックは少しだけ遺族の思いが分かる。きっと悲しむだろう。

 だからってクラックが剣を向けるのを止める理由にはならなかった。

 ──彼らも覚悟して軍に入っているのだから。


 「やるのなら─蹴散らすだけだ!」


 『ヒィッ!?撃て、撃て!!』


 何処を狙って放たれたかも分からない銃弾がクラックの横を通りすぎて行き、一発も命中することなくクラックは大剣を振るった。

 それは兵士達の目の前の空気を斬っていた。

 放たれるとてつもない威圧感。衝撃波。兵士達の持っていた銃口は切られており、使い物にならなくなっていた。


 『ヒィアァァ!?や、やめてくれぇ!頼むぅぅ!』


 兵士達は腰を抜かしてしまって尻餅をつきながら倒れていた。

 クラックは止めを刺そう近づく時に気づいた。

 何かが近づいている音に。

 そして音の正体は暗闇の夜空に突然現れた。

 黒い塗装が施されており、素早い動きで空を切る三つの刃を付けた機械。“ヘリコプター”だった。


 「なッ!?」


 クラックは驚いてしまった。まさかヘリコプターで追ってきてるなんて予想外だった。

 夜空と同化して見えにくいヘリコプターの下についているガトリング砲がクラックを狙い定めた。

 そして無数の弾丸は放たれた。


 「クソッ!!」


 クラックは慌ててジープの後ろに隠れるが、すぐに装甲を貫き道路に着弾する。 

 ────何の時間稼ぎにもならない!


 勢いよく飛び出すと、バイクに流れる動作で乗りアクセルを捻って走った。

 後ろを尾行するように、バイクの走った後には穴がブツブツと空いていた。


 「逃げ切れるか…?」


 単なるスピード勝負ならクラックにも勝てる可能性があったが、問題はそれだけじゃなかった。

 ヘリコプターから二つの何かが落ちてくる。

 その二つの物体はモンスターで、悪魔のような顔をして筋肉質な紫色をした犬のモンスター“ドゥールドッグ”だった。


「なッ!?こんなものまで用意したのか!?」


 ドゥールドッグはクラックの進行方向に立ち塞がり、まだかとまだかとよだれを垂らしながら待っていた。

 先に進まないとヘリコプターに撃ち殺されて終わりだが、前にはドゥールドッグが待っている。


 「それでも…進むしかないか!」


 クラックは鞘から大剣を抜き、片手でアクセルを何度も捻り加速させる。

 ドゥールドッグ達はクラックが走り抜けようとするのを防ごうとした為かクラックに突っ込んでいった。

 二匹とも一斉に飛び掛かってくるこの瞬間をクラックは見過ごさなかった。


 「ハァァァッ!!」


 クラックは宙に跳んだドゥールドッグを吹き飛ばすかのように刃を振るい蹴散らした。


 『キャァインッ!?』


 ドゥールドッグの悲鳴と鳴り止まない銃声だけだが辺りを震わせる。


 「よし!これな──な!?」


 このまま加速させ逃げ切ろうとしていたクラックの目に焼き付いたのはサイドミラーに映る光景だった。

 慌てて後ろを振り返る。 

 それは先ほど蹴散らしたドゥールドッグがクラックのバイクを同じくらいのスピードで追ってきていた。

 まだ百キロは越えていないとはいえ、そのスピードで追い付いてくるのは常識の範囲内を越えていて、とても生物だとは思わせない走りぷっりだった。


 「なら─もう一度!」


 クラックは少しだけスピードを落としバイクを左右交互に倒れさせるようにしながら走った。

 そして一体のドゥールドッグに近づくと思い切り大剣を振るって斬った。


 『アゥウゥン!?』


前足を両方とも切られたドゥールドッグは凄い勢いでコンクリートで出来た道路に顎を叩きつけ転がっていった。


 「よし!このままもう一体も─とはいかないか…」


 クラックがもう一体のドゥールドッグに近づこうとするとヘリコプターから放たれるガトリング砲のせいで近づけなかった。

 ダダダダダと永遠と続く轟音に飽きてきた。

 終止符を打たなければ負けてしまう。

 クラックは自分の二倍はある大きなコンクリートの壁に大剣を向け、力を籠める。

 そして大剣を滑らせながら放つ。


 「“破風擊はふうげき”!!」


 大剣に籠められた魔力と斬擊が重なり、目に見える斬擊となって道路上を滑りコンクリートの壁に直撃すると破裂し、コンクリートの壁に大穴が空いた。

 クラックはその大穴に向かって飛び込み、下に落ちていった。

 下の一般道路に何とか着地するとそのままトンネルへと走っていった。

 ドゥールドッグも追うために降りたが、あまりにも高くから落ちたため着地に失敗して前足と後ろ足の骨を折ってしまった。

 ヘリコプターもその後を追ったが、トンネルの中い逃げられたせいで作戦は失敗となり、尾行もといい抹殺は失敗に終わった。


 


 

 

 




 







 





 


 

読了ありがとうございました❗

取り敢えず、技名はあった方が良いみたいなんで一つ名付けてみました。

一応、不定期更新です。

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