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chapter1 真実

こっちでの投稿は初めてとなります。

どうかよろしくお願いします。

 空は無骨な金属の屋根に覆われ、裕福でない市民達(いわゆるスラムの住民)は排気ガスが溜まる地下のように暗い街で生活をしなくてはならなかった。

 太陽の光は上層の街に行かなければ満足に浴びることも許されず、無骨な金属の屋根の正体でもあるソーラーパネルのせいで日光を浴びれないのだが、ソーラーパネルのおかげでスラム街には昼夜問わず街灯の灯りで照らされているという何とも皮肉な話だった。

 スラム街は栄養の取れる食事も無ければ、子供たちが満足に遊べるスペースも無くて道も整備されていない。

 ただ、安全が保証されていた。

 外に彷徨く“モンスター”から守るために壁が造られ門が造られ、軍がモンスターを討伐していた。

 この国の中でも、最も巨大な街“ドルムニア”は大統領である“バスクディア・ゴールド”の言うことは絶対であり、逆らった者は軍に捕まってしまう。

 上の言うことだけが真実だと思い込むしかなかった。下の人間がどれだけ言っても何の影響にもならない。精々、毎日流れてるラジオの方がマシだ、と言っているヤツもいるがラジオも本当の情報か定かではなく、軍が大金を支払って虚偽の情報を流させているという噂もあった。

 夜中なのに工場が動き、空高くへと木のように伸びているビルが主体の巨大な街から数台のジープが外の世界へと向かっていた。

 排気ガスのせいで綺麗な星空も拝めず、灰色の空拝む羽目になったと“クラック・ジョーハート”という男は後悔していた。

 クラックは軍人であり、自分の仕事に誇りを持っていた。誰かを守る仕事に憧れ、軍に入り、今ではモンスター専用の特別機関に入っているエリートだった。

 銃などを使う軍人には似合わない自分の身長とさほど変わらない程の大きさの大剣を背負い、右腕には金属で作られた腕輪を身につけて、その美しい銀色の髪の毛は朝日反射する金属を彷彿とさせた。

 クラックは少数の部隊を率いて何も無い夜の平原に来ていた。ジープのライトだけが辺りを照らしていて、草や花は夜風に優しく撫でられているかのように揺れていた。

 耳鳴りがするくらい静かで、視線の先はジープのライトで照らされている所だけしか見えず、吸い込まれるような暗闇が恐怖を煽った。


 「少し寒いな……早めに準備を済ませろ」


 クラックは各自の銃を手に取り、呑気にだらだらとジープから降りてきた兵士達に告げた。兵士達は自分達より上の人間であったクラックの言葉にビビりながら慌ててトラックに積んであった固定銃などを降ろして組み立て始めた。


 『お──い!!ソイツァこっちだ!!』


 『時間がね─んだ!急げ急げ!!』


 『こっちは終わったぞ!!』


 草原のあちらこちらで兵士の声が聞こえ、ジープのライトが照らしているだけだったのがトラックから降ろしたライトを建てたりして、だいぶ視界は広がっていた。

 少し喉が渇いた為、クラックは折り畳み式のテーブルと椅子が置かれた仮設のテントの中に入り、テーブルの上に置かれていた水滴が垂れているペットボトルを手に取り、飲んだ痕跡がないか確認してキャップを空けてくれたら水を流し込む。


 「んッ…んん…ぷっはっ」


 一気に半分くらいまで飲み干すと、双眼鏡を取り出して辺りを確認する。

 今日のターゲットは“ドラゴン”と呼ばれるモンスターで、緑色の甲殻を纏い、二本の立派な角、金属をも簡単に切り裂く鋭利な爪、大きな翼、そしてその巨大さ。これがドラゴンの特徴で、その獰猛さから危険視されているモンスターだった。

 全長、十五メートル程あるため、双眼鏡で捜せば見つかるとクラックは思っていたのだが、そんなにも簡単にいく訳でもなくて、捜査は難航していた。


 「クラック様!」


 一人の兵士がちょっとうるさいくらいの大声でクラックを呼んだ。


「どうした?」


 「先程、先遣隊からの報告でドラゴンらしきモンスターを発見したとのことです」


 兵士は敬礼のポーズをとりながら、クラックに報告していた。


 「よくやった。兵士を集めて此処で待機させていろ。俺がドラゴンを此処まで惹き付けるから発見した方角を教えてくれ」


 クラックは部下達に危ない現場へ行かせて、自分は悠々とコーヒーでも飲むようなゲス上官とは違い、自分の足で現場に向かい、自分の目で見て自分の手で終わらせる。

 確かに部下を信じきれない部分もあって決して優しい訳ではないが、クラックには過去に妹の友人がモンスターに襲われ、亡くなってしまったことがあった。

 妹の友人は襲われた直後はまだ、辛うじて息はあったが両手を失い、信じられない程の出血をしていた。

 水道の蛇口を絞め忘れたようなレベルではなく、神様がイタズラでもしたかのように溢れ出ていた。

 幼かったクラックや妹は何も出来ず、ただ苦しそうな顔をした妹の友人の顔を見ながら泣くことしか出来なかった。

 クラックはそんな思いをもう二度としない、させないと誓い軍に入った。

 間違っているかもしれないが、クラックはただ、この道が正しいと思い込むことしか出来なかった。


 「方角は南西であります。どうかご無事で」


 クラックは使い古された装備を着込んだ兵士の肩をぽんと叩くと、自分のポケットから革製の黒の手袋を取り出しにきゅっとはめた。






 真夜中の林道はただひたすら静かで、永遠と続くであろう虚無の暗闇に襲われており、クラックは手に持っている懐中電灯だけが頼りだった。

 懐中電灯の明かりに寄って群がってくるヒカリアツメというお尻を綺麗な水色に光らせながら飛んでくる幻想的な虫、木々やお気に入りの藍色のコートをなびかせる夜風、少しずつ肌寒くなってくる気温全てがクラックにとって新鮮なものだった。

 この暗闇に潜む利口なモンスターがどれだけの数いるか分からない。もしかしたらいないのかもしれないが結局のところ、どちらも確信付ける証拠は何処にも無かった。

 ホーホーホーと気味の悪いフクロウの鳴き声は聞こえるが、姿は何処にも無くて、辺りは暗闇と不気味さでしょう覆われた。


 『────────────!!』


 耳鳴りがするくらい静かだった林に突如として咆哮が響く。

 木々は夜風の時と比べて比べ物にならない程揺すぶらされ、すっかり寝静まっていた小鳥達は真っ黒な夜空を慌てて飛び交い、排気ガスの雲からは月が顔を出していた。

 クラックは口角を斜めに吊り上げた。きっとこの笑顔は多少、恐怖からきたものだろう。

 息を荒げて、轟音が鳴った所へ急いで向かった。

 道中、二本角を生やした大人一人くらいの大きさのフクロウを見かけたり、口と目がある奇妙な木を目撃した。

 しかし、そんなものも全て無視してクラックは走った。

 たどり着いた場所は木は生えてなく、ただ巨大な丘があった。

 その丘は徐々に動き始め、クラックを飴色の目で睨んだ。

 大地のように広い背中から緑色の鱗で守られた翼がバサッと勢いよく拡げられ、月明かりが照らしていて神秘的に見えた。

 夜の暗闇を吸い込んだかのような黒色の二本の角をクラックに向けた。その時見えた口元には赤い液体が垂れていて、そこらに転がっている下半身だけの死体はもう誰なのか判別出来なくなっていた。

 漂う異臭。クラックの心の中に漂う哀愁。

 救えなかったかったと後悔をしている時間はクラックには無かった。


 「ッ……!此処でやるしかないか……!」


 クラックは背中から重い大剣を抜いた。これはクラックが決めた覚悟だった。

 もしコイツが兵士達が待機をしている場所に向かってしまえばきっと相当な被害が出てしまう。

 ───此処で終わらせる。


 『──────────!!』


 地は震え、木々は揺らされ、空は轟いた。

 クラックは理解した。相手も此処でケリをつけるつもりだと。

 武器を構える。油断は許されないし、する余裕もない。

 ドラゴンの口からは離れていても伝わるくらいの高熱を帯びた息を吐いていた。

 そして吐息は一気に夕暮れの太陽のような色に変わってクラックを襲った。

 その炎には言葉で表せない獰猛さがあった。怒りや憎しみとかそういったものではなかった。ただ通り魔が無差別に人を鋭利な刃物で突き刺すように“殺すこと”だけが目的の攻撃。

 ──こういうのが一番恐い。


 「ハアァ!!」


 炎の吐息は辺りを燃やし始めた。

 草はパチパチと音を立てながら燃えて、花びらは宙を舞った。まるで地獄の先へと進んで行っているようでクラックは乗り気ではなかった。

 昔からクラックは熱いのが苦手だったが、怖くはなかった。

 頬に激しく触れてくる炎は行儀がなってなく、礼儀を知らず肌を焼いた。

 止まることを知らない静かなる猛獣も中々厄介なものだ。恐怖を知らない猛獣程、もっと愚かで厄介で、そう恐ろしいものだ。


 「───フゥ。喰らえ」


 『────────────!?』


 ドラゴンの喉に鋭い刃が振るわれ、切り傷からは血液パックを破いたように血が飛び散った。

 火炎は明後日の方向に消えていった。

 飴色の目が傷つけたクラックを殺してしまいそうな程、鋭い視線で睨んだ。

 ドラゴンは爪を振るわせた。根元から先端まで振動しているワイングラスのように細かくリズムを刻む。

 空気が震えたようにクラックは感じた。


 『────────!!』


 ドラゴンが腕をぶるんと振るうと、クラックの立っている方向に三つの見えない斬撃が叩き込まれた。

 土を削り、空気を裂き、クラックへと突き進む。

 咄嗟に大剣で防御の体制をとるが、足を少し切られてしまった。


 「クッソ!」


 ドラゴンはこの攻撃がクラックには通ると思ったのか、何回も同じ攻撃を仕掛けてきた。

 木々は奇妙な形に切られ、クラックは避け続けることしか出来なくなっていた。足を傷つけられたせいか少し走るのが遅くなっていた

 一方的な攻撃。そう思えたがそれは違っていた。

 確実に少しずつだがクラックはドラゴンに近づいていた。

 ドラゴンはこれ以上近づかれるのが恐かったのだろうか、自分の周りに炎の吐息を吐いた。草が暖炉の薪代わりになってよく燃えていた。


 「近づけさせないってか……無駄だ」


 クラックは片手で大剣を持つと、右腕に力を籠めて振るった。

 ──それは突然、発生した。

 炎の壁に守られていたドラゴンの目の前に現れた小規模の竜巻。それが炎を吸い込み、赤色に染まった。

 空高く吸い上げられ、闇夜の空に消えて無くなった。

 ドラゴンは人間のように表情をパッと見て感情が分かる程、簡単に感情は読み取れないがそれでも驚いていることが分かるくらいのマヌケ面をしていた。


 「────喰らえ」


 いつの間にかドラゴンの目の前に現れたクラックは渾身の一振りを浴びさせた。

 鱗のせいでダメージは少なかったが、命中した頭からは血が噴水のように吹き出し、飴色の目は赤色に染まった。

 辛うじてまだ生きてる状況。もしまだ攻撃を続けられたらドラゴンはきっと死んでしまう。

 クラックは分かっていた。だからって肉に飢えた阿呆な犬は止まることをしらない。


 「終わりだ」


 クラックはドラゴンの胸部にクロスの字を書くよに切り刻んで、丁度傷が重なる所に刃を刺し込み背負い投げをするかのように斬った。

 

 『───────────!!』


 ドラゴンはもう事切れていて、クラックに残った達成感の感情。やっと終わったと心の中で褒めていた。

 ───そうだな、今日は肉を酒のつまみにして飲み明かそう。 

 戦闘があった場所は焼け焦げていて、近づく気持ちにはなれなかったがこの後、軍のお偉いさんが跡地を見に来たそうだ。






 クラックはあの後、軍事基地(と言われているが実際はただの上層に設置されたビル)に戻った。

 面倒くさい報告書作りで忙しかった。

 デジタル時計に目をやれば気づいたら日付は変わっていて大きくため息をついていた。

 見れば心が壊れるほど打ち込まれた文字が刻まれた報告書を印刷してデスクに置いておけばもう仕事は終わりだった。

 自分以外に誰もいなくて少しだけ漂うこの怖さが好きでクラックには堪らなかった。

 いつもなら誰かが座っているであろう椅子。持ち帰られたパソコン。デスクには寂しさがあった。


 「終わったか……」


 パソコンをカバンに入れてエレベーターに乗ろうとする。

 このエレベーターまで行くための通路には幾つか部屋があって、その中に研究室があった。

 普段から何を研究しているのか分からない謎多き所だった。

 誰も居ない筈のその研究室から会話声が聞こえた。

 クラックは興味本意でその部屋を覗いた。

 そこには“アストック博士”という常に白衣を着ている薄気味の悪い男と、軍隊を管理しているの“バーフック”がという大男がいた。


 『それで?今回のサンプルはどうだったんだ博士?』


 『あぁ、まぁまぁの物だったよ。けれどあのジョーハートだっけか?アイツのせいで期待してた物よりは劣っているがね』


 クラックは何の話をしているのか理解が追い付かなかった。ただ壁に引っ付けている左耳から入って右耳から流れ出ていく感覚に襲われる。


 『せっかく何十人もの犠牲を生んで作られたサンプルなのだ。もう少し妥協をしてくれ』


 『後もう少しで期待通りの物になる筈だったんだよ。あのジョーハートさえ邪魔をしなければね』


 まさかとクラックの理解が追い付いてきた頭の中に最悪な予想が立てられた。


 『せっかく良個体のドラゴンを作れたんだ。次に活かしてくれ』


 『そうだな…次はキメラなんてどうだ?兵士の死体なんて山程あるだろ?』


 クラックの予想は当たってしまっていた。

 この研究室、いや軍はモンスターを作って良いサンプルを作る為に被害を出させ何も知らない兵士達に回収させていたんだ。

 クラックは考える度に馬鹿らしく感じてくる。

 モンスター専門の機関なんて使える駒を集めただけに過ぎない場所。今まで自分達は人々を守る為に闘っていたのだと思っていたのに実際はサンプルの回収の為だった。

 あまりにも残酷な事実だった。

 妹や家族にどんな顔をすればいいのかクラックには分からなかったが、今はとにかく軍が憎くて仕方なかった。

 クラックはエレベーターに向かって走り去ってしまった。


 『ン?今誰か居たのか?』


 『そういえばジョーハートがまだ残っていたな。アヤツめ…盗み聞きとは達の悪い事を…』


盗み聞きをされた二人の表情は優れなかったが、アストックは嫌らしい笑顔をして言った。

 

 『まぁいいだろう。尾行させればいい話だ』








 クラックは一階でエレベーターを降りて、駐車場に停めて置いてあるバイクにエンジンをかけて乗った。

 あの話を忘れられないだろう。

 もし自分が盗み聞きをしていることがバレてしまっていたらもう此処には長く居座れないだろう。

 自分が斬る相手もモンスターから人間に変わってしまうかもしれない。

 けれど野放しには出来なかった。見て見ぬふりなんて出来るはずもなかった。

 クラックは昔から正義感が強い男だったから気持ちの悪い邪悪さには敏感で許せなかった。

 クラックは覚悟を決めた。月明かりに照らされている道路をバイクで走りながら人生最大の覚悟を決めた。

 死ぬかもしれないけど、それでもいい。

 クラックは軍に歯向かい、腐った上層部を叩き潰す覚悟を決めた。

 

 





 


 




 


 




 


 



読了ありがとうございました❗

異世界…と聞くとやはり転生物で中世の世界観が王道だとは思うんですが、こういうのも良いかなと自分は思ってます。

一応、ハーメルンの方では二次創作の方をやらしてもらってます。

この作品でなにかご不満な点がありましたら遠慮せず、言ってください。



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