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69. 処刑

 

 アルフェリオは兵に追われ、行く手を阻まれ、向かいたい地下から随分と遠のいてしまった。遠のくどころか、逃げ場のない方へと追い詰められているのは解った。


「本気で逃げられると思っていたのか? リーステン」


 威圧するような低い声は、事実を突きつけるためだけのようだ。あまりにも突き放すように告げるので、アルフェリオは自然と苦笑してしまった。

「思ってたよりもお早いお戻りで? ちょっと長話したことを後悔しているところだよ、マーガス兄様?」

 同時に、逃げれば逃げるほど牢にいる二人の身が危ないと言われてしまえば、それ以上の抵抗をアルフェリオは出来なかった。

 自分はここまでらしい。逃走の意志がもうないと、大人しく手を上げた。途端に衛兵たちによって、両脇を囲まれる。

「反抗の意志がないなら、自らの意志で跪け」

「はいはい」

 尊大な物言いに、ただ大人しく従って投降した。だがその間にも、周りや外の様子を伺い、どうやら他に捕まった面々はいなさそうだと安堵する。

 アーレンデュラの損害も気がかりだったが、何よりもセリオスが捕まった様子が無い事が、アルフェリオにとって救いだった。ただ随分と城内の騒がしさが減ったように思うから、それだけ優秀な兵たちが鳥の駆除に成功してしまっているのだろうと想像にたやすかった。


 間もなく上空を轟かせる飛空艇のエンジンが城内に響いた。帝国の軍用のものだろうか。何気なく窓の外を伺うと、屋上の広場付近を緩やかに旋回しているそれが見えた。

「マーガス様」

 駆け寄った衛兵の男は、即座に礼をとって告げた。

「討伐に出ていた飛空艇が戻ってきました」

「そうか。撃ち落とせ」

「御意」

 衛兵の男が無線に指示を告げる。そのあまりにも素っ気ない指示にアルフェリオは隣を見上げた。

「どういうつもりなんです?」

「ふん、のこのこと処刑されに来たか。よかったなリーステン」

 捕らえた姿を見下ろして、マーガスは鼻で笑った。まさかと思わずにはいられなかったアルフェリオは、無意識に声を上げていた。

「馬鹿なことを! 帝国の飛空艇でしょう?!」

「敵の手に落ちた飛空艇なんぞ、着陸許可なんて出せるはずがない」

「だからと言って撃ち落とす必要ないでしょう! 生きている兵が本当に一人もいないと?」

「確認する時間が無駄だ。第一、他人の心配とは随分と余裕なことだ」

 ふと、何を思ったのだろうか。

「衛兵、こいつを連れてこい」

 颯爽と踵を返した姿は、丁度見せしめにいいだろうとバルコニーに向かった。

 ゆったりとした歩調には余裕を感じさせる。アーレンデュラの事が気がかりな身としては、兄が早くも自分のところへ戻ってきた事実に、気が気でならなかった。


 彼らがバルコニーに出ると同時に、城に備え付けてある対飛空艇用巨大な大砲が一つ、二つと轟音を上げた。熱風が吹き抜ける。ここまで届く粉塵に、思わず視線をそらした。

 避けるそぶりを全く見せなかった飛空艇は、あっさりと砲撃を受けていた。まばゆい光が、一瞬暗い夜を照らし出す。刹那、飛空艇の胴から下が、木っ端みじんに吹き飛んでいた。幸い燃料には引火しなかったのか、前半分はゆったりと低下した浮力に下降してきた。


「おいおい。ふつー、自分とこの国の財産、使いつぶすかね?」


 不意に呆れたような声が、頭上から降ってきた。

「悪いが、そいつの処遇は考えを改めてもらいたいね」

「ふん、来たか」

「シュテルを代表して、あんたと取引がしたくてここまで来た」

 同時に屋上へとしっかり着地し降り立ったその姿は、即座に口元を覆っていたネックウォーマーを引き下げるときっぱりと宣言した。陽光の元では群青に見える頭髪は、背後で燃える飛空艇の炎の明かりを受けて、今ばかりは黒姫のように暗い。

「リシュリオさん……?!」

 この地の王は忌々しそうに舌打ちし、そしてまさか来ると思っていなかったアルフェリオは呆然とした様子でその姿を見上げた。

 一瞬の沈黙。だがそれもつかの間、マーガスは挑むような表情で唇の端で笑っていた。

「こんなところで油を売ってよかったのか? 貴様らの島にはすでに、兵たちが制圧と仕掛けに潜伏している」

「さあ? それはどうかな」

 リシュリオはわずかに目線を上げると、少し後ろに控えて硬化鞄を広げていたルーザに合図した。同時に、どこからともなく『ザ……ザザ……』と、スピーカーからざらついた砂嵐が起動した。

 スピーカーは一つではない。飛空艇に取り付けられたものから、あるいは兵たちが持つ個々の無線から。一度に外部からの受信に鳴ったそれは、あまりにも大きな音となった。


『え、これでいいかな?』


 ぶつぶつと、無線の調子を確かめるような音が響く。独り言のような言葉と、背後のがちゃがちゃとした音をすべて垂れ流しながら、若そうな声の主はスピーカーから勝手にしゃべった。

『あー、あー。マイクテスト。これホントに、帝国なんてそんな遠くまで無線繋がってるんだ? ……あ、はいはい。わかったって。えー、こちらマレスティナを代表してヴィーオがお伝え――――え? 名乗らない方がいいの? あ、わりっ』

 慌てたヴィーオの声に、リシュリオだけが苦笑する。仕込みを終えたルーザが隣に立ったので、互いにちらりと見合わせた。

『そんじゃ手始めに担当エム、状況はいかが?』

『恐れ入ります……この島がなくなるのは、マダムが非常に困りますので……大変申し訳ありませんが、駆逐させていただきました』

 静かに話す声は悩ましそうに続けていた。

『ああ……あの方の肩を持つような事をしたいわけでないのです。ただ、今回はマダムの不利益になりますので……』

『オーケー、オーケー。ありがと』

 ぷつと途切れた様子に、リシュリオはルーザと見合わせ苦笑した。

「はは、あっちも問題なさそうだな」

「そりゃ最も腹の黒い男が、島の内情を把握しているからね。島の人たちも一丸となってくれているし、一筋縄ではいかないよ」

「違いねぇや」

 ひとしきり笑いあったあと、真面目腐って見下ろした。

「そういうわけだ、第一王子様? まだ聞きてえか? マレスティナは脅しの材料にならねえよ」

 きっぱりと告げると、こちらを見上げていたこの地の王は、鬱陶しいと言わんばかりの表情で奥歯を鳴らしていた。

「まったく、どいつもこいつも使えない無能が多くて困る」

「無能とはひでえな。お前の国の人間だろう? さて、俺らがここまで来た理由は一つ、人質交換を願おうか。あの飛空艇に乗っていた非戦闘兵含めて、投降してきた者については捕虜にさせてもらってる。生憎、あんたが寄越した大将は自害しちまったけどな。ホントは捕虜たちもここまで連れてこようかと思っていたけど、この様子じゃ置いてきて正解だったな?」

 こんな見捨てられ方しちゃ、あんたを信頼して最後まで戦おうとしていた奴が可哀そうだ。鼻白んでリシュリオが告げると、マーガスはただ舌打ちした。

「逆賊どもが。衛兵、やつらを捉えろ」

「やめとけやめとけって。あんたんとこの自慢の軍人だって、俺らには勝てなかった。何人束になったって同じだ。返り討ちにしてやるよ。けど、俺らはあんたと戦争をしに来たわけじゃない。いたずらに死人を増やすのはやめようぜ」

 互いに無益な争いは本意じゃねえだろ? そう告げられても、この地の王に引く様子は微塵もない。ルーザが目くばせしているのを、リシュリオはわずかに首を振っていた。

 埒が明かないと感じたリシュリオは、同時に呆れたように肩を竦めた。

「あんたはマレスティナを脅したかったみたいだが、自分の国の方こそ、もっと心配した方がいいんじゃねえの」

「何?」

 あまりに怪訝な顔をするので、リシュリオもまたわずかに不可解そうに片眉を吊り上げていた。

「ここに来る途中、動く浮空島を観測した。ここからほど近い小さな島だ。小さいっつっても、落とす場所によっちゃ、帝国のここら一帯をつぶすには十分だろうな? もしかして、黒姫の実験でも失敗したか?」

 あくまで軽い調子でからかうと、初めてマーガスだけでなく、微動だにしなかったアルフェリオが顔を上げた。

「どういうことなの、リシュリオさん」

「んなもん、俺だって知らねーよ。見えるだろ、あれが」

 顎で東の空を示すと、暗い夜の空の中に、ぼんやりと浮空島のシルエットが見て取れた。

「あれは……」

 確かにその島は帝国から一番近い浮空島に違いない。だがアルフェリオが知る限り、あの島が城からあれほどはっきりと見える距離にはなかったはずだった。

 それだけでない。今まさにじわりじわりと大きくなっているような気のするその姿に、まさかと思わずにはいられなかった。


 同時にハッとする。潜伏先でセリオスがアーレンデュラに依頼していたものを思い出した。

「まさか、あれのため……?」

 道理で自分に言えないはずだと、アルフェリオは初めて表情を青くした。

「っ……放して!」

 慌てて自身を押さえつけていた腕を振り払うと、後ろ手に縛られたままも構わずに急いであたりを見回した。黒姫の部屋を探して見回し「セリオス!」 とその名を呼ぶ。その慌てた様子に、マーガスだけでなく、リシュリオとルーザもまた怪訝に互いを見合わせていた。


「セリオス! まだこの辺にいるんだろ!」


 ひと際焦った声でアルフェリオが呼びかけた、その時だ。


「呼んだ?」


 黒姫を片腕に抱え、その手にした装置にぶら下がった姿が、下から飛び上がってきた。

 

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