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65. 静燃

 

 湿った空気はひやりとしている。まだ日差しが昇ったばかりの雑踏のざわめきは遠くに聞こえ、その場所が大通りから大きく離れていない事を知らしめているかのようだ。

 半地下のその店の店主に目礼したセリオスは、勝手知ったる足取りで奥へと入っていった。

 奥は隠し酒場として、夜には人で賑わう場所だ。建物内には宿泊施設もあり、隠れるには丁度良い。


「戻ったよアルフェ……あれ」


 部屋に入った途端に、そこにあると思っていなかった姿にセリオスは驚いた。

「アーレンデュラ?」

「やあセリオス。お邪魔しているよ」

 思わずその名を呼ぶと、くたびれた表情が微かに口元に笑みを浮かべて、ひらりと手を振っていた。以前のかっちりとした装いとは異なり、ずいぶんとラフな格好をした男は、鈍色の髪をゆるくひとまとめにして背中に流している。

「新聞でアレイットが襲われたって知ってたけど、無事だったんだ」

「お陰様でね。フォルビアも一命を取り留めたよ」

「それはよかった」

 思いがけない知らせに安堵しつつ、セリオスはそばまで寄ると空いたテーブルに荷物を下ろした。

「エスタにはそれ知らせたの?」

「ファーロに言伝は頼んでいるのだけどね。まだ帰ってこないところをみると、シュテルも相当な痛手を受けているようだ」

「え? どういうこと?」

 アーレンデュラの言葉に、聞き捨てならないとセリオスは思わず手元の荷物から目を離した。まじまじと伺うと、なんてことないと言わんばかりに微かに肩を竦められる。

「ああ、あまり公言されていないんだったな。君と第三のがシュテルの飛空艇を離脱した直後に、シュテルは帝国軍の襲撃を受けているよ」

「そんな時間差まで知ってるんだ……。痛手ってことは、みんな自体は無事ってことだよね?」

「死傷者がいないって意味であるなら、そういう話は聞いていない。ただシュテルの飛空艇は墜落していて、今は消息を絶っている」

「そっか……」

 セリオスは肩を落としたものの、落ち込んだ様子を見せたのはわずかな間だった。

「おや、あまり気にしていないみたいだね」

 思わずといった様子でくすりと笑ったアーレンデュラに、セリオスはアーレンデュラを真似して肩を竦めた。

「だってさ、その場に僕がいても、間違いなくやれる事って何も無かったからね。なんなら足を引っ張ってたかも。でも、気にしていないわけじゃないよ。みんなの事だから、絶対大丈夫だって信じているんだ」

「なるほど」

 ふっと笑みをこぼしたアーレンデュラは、「なら、何かわかり次第、君にお知らせしよう」 と頷いた。

「それで充分だよ」

 ふとセリオスは奥のソファに沈む姿に目を向けた。

「アルフェリオはまた寝てるの?」

「ああ。話が一区切りしたから、作戦に備えると言っていた」

「話って?」

「黒姫の奪還についてだ」

 さらりと言われて、「あれ」 と首を傾げた。

「それは僕が潜入するって聞いているけど」

「より確実にするために、彼が登城したタイミングで、私が帝国に襲撃をかける予定だ」

「え、アーレンデュラが?」

「ああいや、まさか勘違いしてないだろうが、私自身が乗り込むわけではないよ。少々鳥たちに手伝ってもらうだけさ」

「はは、それはいいや。僕も心強い」

「実行は本日の夜だ。我々は先行することになるから、君も少し休むといい」

「うん」

 わかったと頷きつつ、セリオスは荷物と工具を一角に広げ始めた。一つずつ中身を並べながら、ふと尋ねた。

「……ねえアーレンデュラ。親方の情報って、なにか聞いている?」

「フロリウスかい? 彼を救出するのは、おそらく黒姫の奪還よりも今は厳しいだろうな。黒姫は帝国に協力的である分、自由に出来ることが多いはずだ。しかしフロリウスは散々抵抗しているからね」

「そっか。……ケガしていないといいけど」

 徹底的に反抗している姿が目に浮かぶようで、セリオスは苦笑せざるを得なかった。


「心配ないよ、セリオス」


 二人の会話を聞きつけたのだろう。ふっと目を開いたアルフェリオは、くすくすと苦笑していた。

「君の父親は無駄に優秀だからね。あれを痛めつけたところでなびかないし、簡単には動かないよー?」

 だから大丈夫と笑ったアルフェリオは、身体を起こすと真面目くさった様子で足を組んだ。

「それより心配なのは、君が捕まることの方さ」

「あ、だからアーレンデュラが陽動してくれるんだ?」

「それもあるね」

 本当はもっと人手があったら良かったんだけどもと、困った様子で腕を組んだ姿にセリオスは「そうだね」 とおざなりに返答した。

 セリオスの反応が不満なのだろう。アルフェリオは少しばかりおどけて肩を落とすと、気を取り直した様子で話を変えた。

「ところでセリオス、欲しかったものは教えた店で手に入ったー?」

「うん。反重力装置も、モーターもそれ以外の部品も、品揃えよくて助かっちゃった」

 ありがとうと言いつつも、セリオスの視線は手元に集中していた。購入した部品を何十と並べてから、一つを手に取り、徐ろに分解を始める。

「それならよかったよ。けど、今から何か作るにしても、時間が足りないんじゃないの?」

「多分そんなにかかんないよ」

 告げてから、思い出したと顔を上げた。

「あ、そうだアーレンデュラ。あんたの鳥って重量のあるもの運べるの?」

「うん? ものによるが、それが何だって言うんだい?」

「ちょっと相談したいところなんだけど、頼まれてもらっていい? アルフェリオにここから一番近い浮空島の場所は聞いたはいいけど、実は行く手段がなくてさ。どうしようかと思ってたんだよね」

「浮空島?」

 不思議そうにわずかに眉をつり上げてから、アーレンデュラは難しい表情をした。

「移動手段で頼ってくれるのはありがたいが、今の空は特に監視の目が厳しいよ」

「なら、物だけでいいから運べない?」

「大きさにもよるな」

「あ、それもそうか。運んでほしいのは今から僕が作るもので、うまくいけば重さはほとんどない予定だよ。反重力装置が仕事してくれればね。ただ、それ自体が熱源にはなるから、鳥に熱いものが運べるものなのかなって疑問ではあるかな」

「問題ないと思うが……一体何を作るっていうんだ」

「うーんと」 セリオスは逡巡してから、にこっと笑みを浮かべた。「僕の隠密行動に役立ちそうな秘密兵器かな?」

「聞いても無駄だよ、逃がし屋さん。出来てのお楽しみって、ちっとも教えてくれないからねえ」

 つまらなそうに不貞腐れた様子を見せるアルフェリオに、セリオスはすげなく告げた。

「だから、僕のこれが気になるなら、わざわざ死にに行くのをやめてよって言っているだろ、バカフェリオ」

「酷くない? どう思う、逃がし屋さん」

 二人きりになってからずっとこんな調子なんだと、アルフェリオは嘆かわしそうに肩を竦めた。そんな二人のやり取りに、アーレンデュラはかすかに眉を寄せて苦笑するばかりだ。

「随分と仲が深まったようだ」

「まさか! おどおどしていた頃はまだ可愛げがあったのにと思うと、残念で仕方ないよ」

「だって、シュテルを囲いに来なかったら親方の回収が間に合ったかもとか、手先の人をもっと根回ししておけば、今回の事を回避できたかもとか。そんな意味のない『たられば』の話ばっかりされて鬱陶しいし」

 僕に原因があるわけじゃないよと、しれっとして突っぱねるとアルフェリオはいよいよ黙った。

「んまあ、ちょっとした後悔をね、思うこともあるよねー?」

 誤魔化すように苦く笑うアルフェリオに、アーレンデュラは白い目を向けた。

「第三の。君はいい加減、きちんとした睡眠を取るべきなのでは? そんな女々しいこと言うやつではなかっただろう。切れ者と名高かった、かつての第三王子の面影が無いよ」

「ええ? 君までそんなことを言うんだ?」

 勘弁してよとアルフェリオはのけぞった。

「寝てる時間が惜しいんだって」

「それでふとした時に寝こけているだなんて、君の悪名が泣くぞ」

「僕の悪名なんて、誰も気にしちゃいないってー」

 おどけたのもつかの間、もう少しだけだからと溜息をこぼした。

「もう少しだけ。結果さえ残せればいいんだ」

「そういう言い方をするから、死ぬつもりだなんて言われるんだろうに」

「アーレンデュラもそう思うよね。いっそ奪還作戦やめて、バカフェリオについて行ってやろうかな」

「誤解だって。ちゃんと生き残る算段はあるから、君はついて来ないでよ? セリオス。さすがに君の面倒見ながらは無理だもの」

「ふうん、あっそ」

 セリオスは分解した部品ごとに分けてからモーターや反重力装置の数だけ分けると、手早くそれらを組み立てていった。

「これで浮かぶかな……」

 小型のモーターを内包出来るだけの胴体に、簡単な翼を付けたことで小さな二翼飛行機(カイト)を模したようにも見えなくない。そっと床に置いてから、同じく簡易的なコントローラーで起動すると、間もなく反重力装置の浮力で浮いた。

 操作をすると、それ以上に飛ぶことはなかったが右に左にと動き、セリオスは頷いた。もう一つ装置を起動し、浮いた二翼飛行機(カイト)の模型に近づけると、ゆっくりとそれは引き寄せられた。期待通りの結果に、今度こそ満足そうに笑みをこぼした。

 次に手にした反重力装置の部品とそのコアも、同じように丁寧に組み上げていく。


「そのおもちゃを浮空島に届ければいいのかい?」


 何気なくセリオスの様子を見ていたアーレンデュラは、わずかに身を乗り出して尋ねた。

「届けてほしいものは、こっち」

 セリオスは手を止めることなく、大量の反重力装置を迷いのない手つきで組んでいく。その手際の良さは、リシュリオが見ていたらとても驚いていた事だろう。

 大したことではないといった様子でセリオスが組み上げるので、アーレンデュラにはおもちゃを組んでいるようにしか見えないようだ。こんな時にのんびりしたものだと、呆れた様子さえある。

「これ、置く位置の距離感が大事なんだけど、そこまで細かく指示できる?」

「まあ、何とかなるとは思うが」

「それならよかった」

 セリオスはほっとした様子で胸を撫でおろすと、脇においていた紙袋をアーレンデュラに手渡した。

「とりあえず、先行してこれ持って行ってもらおうかな。これが一番大きいものになるんだけど、島の丁度真ん中においてほしい」

「ああ。置くだけでいいんだな」

「うん、ただの受信機だからね。他のやつは、固定するためにアンカーを打ちたいところだけど……」

 流石にそこは自分でやりに行くべきだよね、と、困った様子でセリオスがぼやくと、問題ないとアーレンデュラは首を振った。

「地面を掘りぬく必要があるわけではないなら、どうにかしよう。エリルが叩きつける事くらいなら出来るだろうから、アンカーくらいなら打てるだろう」

「そうなんだ。それは助かるよ。聞いた島の規模だと、四、五十か所ほどあるけど大丈夫?」

「ああ……それでその量。まあ、問題ないさ。ただ出入りを見られるわけにいかないから、すべて日が落ちてからになるが、いいかい?」

「潜入前に仕込みが終わればいいから、全然大丈夫」

 ありがとうと笑顔を見せたセリオスに、アーレンデュラはやれやれと首を振った。

「それなら構わない。ただあまり遅くまで気張って、どこぞの誰かさんみたいに、情けなく寝こけることにならないでくれよ?」

「え、ちょっとー?」

「心配いらないよ。誰かさんと違って、自己管理くらい出来るから」

 不服を申し立てた声は二人によって無視された。その事実に、アルフェリオは少しばかり居心地が悪そうな顔をした後、仕方がないと大きく伸びをして立ち会がった。

「そんじゃ、仕方ないから部屋で休んでこようかな。逃がし屋さんが合流したおかげで気を張らなくてよくなったし、ゆっくり休んでも大丈夫そうだもの」

「ああ。ここに近づく輩がいたら、君が寝こけていても逃がしてやるさ」

「はは、頼もしいや」

 へらっと笑ったかと思うと、アルフェリオはさらに奥の部屋へと去っていった。間もなく遠くの方で扉が閉められた音がしたので、間違いなく部屋へと戻ったのだろう。


 セリオスは手元を止めることなく聞き耳を立て、アルフェリオが確実に部屋に戻ったと解るとようやくホッと息をついた。気を取り直した様子で、また手元の組み立てに集中する。

 そんな姿を目の当たりにして、アーレンデュラは不思議そうだった。

「何故、そんなにも第三のを気にかける?」

 問いかけられても、セリオスはちらりとそちらに目を向けただけで、すぐには答えなかった。それでも返答を待っている事が解ったので、そうだなあと完全に独り言でぼやく。

「気にかけるっていうのは、ちょっと違うかもしれない」

「ほう?」

「なんだろう。ノルト……弟子仲間をね、帝国に連れて行く手引きをしたことは、すごく嫌だった。なんだけど、ノルト自身と話した時、後になってからだけど、あれはノルト自身の本心で帝国に従ったんだろうなって理解できた」

 未だに信じられないけどね、と。ぽつりと呟いてふと肩を竦めた。

「それから親方と再会したとき、なんで一緒に逃げてくれないのってずっと思っていた。けど、親方自身がバカフェリオの事信じていたし、ずっと協力関係にあったってわかった」

 一つ息をついて、手を止める。思い直したように工具を握り直すと、反重力装置の外装をそっと撫でた。

「ノルトの事と親方……ううん、父さんの事を考えたときに、やっぱり父さんが成そうとしたことを、僕も手伝いたいって思ったんだ。だから、バカフェリオの事を気にかけるっているよりかは、父さんの助けになりたいってことの方が大きかったから、ってだけかな」

 親離れ出来てないって笑いたいでしょ。そんな風にすねた口をきくと、いいやとアーレンデュラは口元に微かに笑みを浮かべた。

「君とフロリウスの絆がそうさせたんだろう? なら、私がとやかく言う事ではないとも。うらやましいとは思わなくないがね」

「うらやましい?」

「ああ。君とフロリウスのような長い時間を過ごしたわけではないから、ずうずうしいとも言えるがね。アムと、フォルビアと私と。少なからず信頼が築けていたと思ったのだが、実際のところ、そう都合のいい話ではなかったなと思ってね」

「ふうん?」

 セリオスは手元から目を離す事無く、「あんまよくわかんないけど」 と前置きした。

「僕はエスタの姉妹の事はわかんないけどさ。エスタは少なくとも、エスタを守って大事にしようとしたリシュリオやルーザの事を、一生懸命信じようってしていたよ。周りは敵しかいないからって、最初は全然だったけど」

 それでリシュリオには結構怒られたけど、と唇の端でくすりと笑う。

「まー、双子だから同じ考えだろう、とは思わないけどさ。本質が似ているんだったら、アジェイも一緒で、自分を大事にしてくれようとしていた、あんたや院長の事は信頼していたんじゃない? って思うよ」

 知らないけど、と。もう一言添えてセリオスはワイヤーを手元で通してくくった。

 ふと、返答のないことにあれ? と思って顔を上げると、微妙な表情で視線を流すアーレンデュラがいた。

「そうだろうか」

「うん?」

「アムはそう思ってくれているだろうか」

「え、自信無いの? そこ。助けたくて来たんじゃないの?」

「気持ちはあるが、目の前で帝国の人間についていくと言われてしまっているからね。私が迎えに来るのは不本意かもしれないね」

「ふーん?」

 なんだそんなことかと、つまらないものを聞かされたと言わんばかりに、セリオスは作業を開始した。

「慰めてほしいなら、気休め言ってあげてもいいけど」

 そっけない言葉に、アーレンデュラもいいやと苦笑する。

「慰めは期待していないよ、セリオス。結局のところ、どんな風に思われていたとしても、私は私の仕事……いや、責務を果たしにきただけさ」

「仕事でこんな泥船に乗りに来るなんて、お人よしだねー」

 あっけらかんと告げても、アーレンデュラは苦く笑うだけだった。そんな表情に、セリオスは鼻白む。

「僕は父さんを取り戻したいし、ついでにエスタの憂いも晴らしたい。恩のあるリシュリやルーザが賞金首のままも嫌だし、世間に仲間が悪く言われるのも嫌だ。ついでに僕自身も、覚えてもいないのに、今更帝国に尽くせとか言われたくないし、面倒くさい」

 一息に告げてから、セリオスは手元の道具を睨みつけた。

「だから終止符を打ちたくて、一番打つために使えそうなバカフェリオとここに来たんだ」

「ははは! 使う、か。君がこれほど強かな考えの持ち主だとは、あの時は思わなかったな」

「……ずっと考えていたことだよ。空をただ見上げてあこがれるだけなのは、もうゴメンだって。自由に飛ぶことを、やりたいことを、成したいことを成すために動く事を、あきらめたくないって思ったんだ」

 自然と手に力が入ったのだろう。捻り上げた拍子に、細いパーツをゆがめてしまって、セリオスはかすかに眉をひそめた。

 一度手を止め、ふうと深く息を吐く。まさかこれ程力が入るとは、自分でも思ってもみなかった。

「それを教えてくれたのは全部、僕より年下の女の子だ。それから、頼もしいリーダーたちだよ」

 改めて工具を手にすると、セリオスは再び作業を開始した。

「みんなは、ちょっとの壁程度じゃ諦めないんだ。だから僕も、僕の望む未来のために諦めない」

 だから、と。ようやく一つ組みあがったそれを、アーレンデュラの前へ置いた。

「リシュリオたちが守りたいものなら、僕も守りたい。だってマレスティナは、すごく素敵な場所だった。帝国がそれを脅かそうっていうなら、目には目を、歯には歯を。同じ思いをしてもらう、それだけだよ」

 自信たっぷりに告げたセリオスに、アーレンデュラは不思議そうに首を傾げた。

「……これは?」

「帝国がマレスティナを落とすっていうなら、自分たちの頭の上に、同じように落としてやる。高みの見物なんて、絶対させてやんない。浮空島を落とす技術だよ。黒姫の図面は、反重力装置の本来の出力の仕方を変質させて、重力の発生装置として極端な過重を対象に与える設計だった。すごく簡単な話だったんだ。父さんはちゃんと調整しようとしていたみたいだけど、僕は帝国がどうなろうと知ったことじゃないもの。だからね、帝国上空まで浮空島をこれで無理やり引っ張ってきて、頭の上で落としてもいい。向こうが切り札と思って使ったら、同じように使ってやる。それがこれらで可能だよ」

「……やれやれ。だから第三のには言いたくなかったのか。年齢の割には君は落ち着いていると思っていたんだが、君ってやつは、急に恐ろしい事を言い出すね」

「急に?」 意外なことを言われたと、セリオスは目をしたたいた。

「違うよ。僕はずっと、自分の無力に甘えていただけだよ。本当はずっとずっと、何にも出来ない事に腹が立ってしかたなかった」

 もう、守られるだけの無力だなんて言わせたくない。きっぱりと告げたセリオスは、真剣にアーレンデュラを見据えた。

「そのためにも、アーレンデュラ。僕に君の力を貸して。どんなに対抗手段をここで作ったとしても、これは浮空島に届けなければ意味がないんだ」

「はは、仕方ないね。私も一連托生の身だ。君にはアムの奪還を頼んでしまうからね。こちらはこちらで、しかと引き受けよう」

「ありがとう」

 ぽつりと呟いた声には、小さいながらも決意があった。


「…………全部絶対に、取り戻すから」

 


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