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55. 仇敵

 

 一同が呆気にとられている間に、アルフェリオが置いた大きな鞄にユーイは手をかけていた。それを止めようと、アルフェリオもまたその手を掴む。

「だから言ってるでしょう、ユーイ。これが一番手っ取り早いんだって」

「お一人での行動は同意しかねます。ただでさえあの男は信用ならないですのに」

「彼の方を使ったのが気に食わないのは解ったって。でもほら、リシュリオさんたちはよく知ってるし、ちゃんと足も乗せてもらうから大丈夫だって」

 珍しく余裕なく話すアルフェリオに驚かされるものの、何やら彼らの方で勝手に話しが進んでいる気がしてならなかった。時間が惜しいと言わんばかりに、仇敵の男は観念した様子で両手を挙げた。

「わかったわかった。じゃあこうしよう、君もシュテルに乗せてもらう。それでいい?」

「……仕方がありません」

「じゃあすぐに四翼飛行機(フロート)を降ろすよう、アルに言っといて。早めにあっちも出さないと、間に合わないからさあ」

「承知しました。すぐ手配致します」

 さっさと外に出ていった女の背中を見送って、ふうと大袈裟に汗を拭うふりをした。すぐにシュテルの面々の視線に気がついた糸目の男は、へらりと笑って荷物を下ろして手を合わせた。

「ごめーん、あと十分ちょうだい? すぐ終わるからさー」

 これお土産ねー、と。尻もちついていたリシュリオに紙袋を押し付けると、もっかい来るからとアルフェリオは風のように出ていった。


「なんなんだ……?」


 目を白黒させながら呟いたリシュリオに、答えを返せるものはいない。だがそこにあったいくつかの荷物に、相手が乗り込んで来る気満々である事が伺えた。

「とりあえずリオ、四翼飛行機(フロート)なら上の方がいいんじゃない?」

「あー……そうだな。下の格納庫の方がホントはいいけど、二翼飛行機(カイト)二輪車(レベラル)でいっぱいだもんな」

 悩ましそうにリシュリオが同意すると、ルーザは頷いた。

「案内してくるよ。とりあえず、扉の前(そこ)からどいといたほうがいいよ」

「……え、あいつ本気でこっちに乗るつもりなのか?」

「そうなんじゃない?」

「正気か?」

「正気だったことのほうがないよ。リオだけ行かせるよりマシなんじゃない?」

 ルーザはあきれた様子でそばに来ると、置かれたままの鞄を勝手に開けた。ざっと中身を眺めると、中はほとんど新聞と書類と地図のようだった。

「爆発物や危険物の持ち込みは無さそうだね。まあ、そうだとしたら今の時点でお陀仏だろうけど。リオはどう思う?」

 促されて、のろのろと同じように覗き込む。

「……書類だな。こっちは地図か……?」

「ここに広げられても困るし、奥に通す?」

「…………いや、やめておこう。必要以上に荒らされても困る」

「だよね」

 未だにアルフェリオの意図がわからなくて混乱しているリシュリオに、セリオスも興味深そうにそばに寄ってきた。

 入れ替わりに、ルーザは外に行ってくると、のんびりした様子で出ていった。

「何もらったの?」

「あー、砂糖菓子だな」

「よかったね」

「いらねぇな。……ああ、ルーザが食うか。その辺に置いといてくれるか?」

「うん」

 紙袋を受け取ったセリオスは、ひとまずそれをテーブルに置いた。

「私とセリオスは、操舵室で飛ばす用意でもしておいた方がいいかしら?」

「そうだな……。とりあえずそっちに控えててくれ」

「その前にすぐに何か飲み物用意してくるわね。リシュリオさん顔が疲れてるわ」

 慌ただしく厨房に向かったエスタの姿に、リシュリオは気を使わせている自分に苦笑した。

「リシュリオ大丈夫?」

 セリオスが伺うように声かけたのがとどめだった。

「ああ。ちゃんとするよ」

 よっこいしょと年寄りじみて身体を起こすと、広場の一人掛けソファに沈んだ。

「ちょっと集中したいから、ルーザが戻ったら声かけてくれ。アルフェリオはそれまで締め出しておいていい」

「うん、解った」

 言うや否や、静かに目を閉じた姿にセリオスも肩を竦めた。


 どれほど出入り口の扉の側で、そんな姿を眺めていた事だろう。途中でエスタが軽食と温かいお茶のポットを持ってきたが、リシュリオの様子に気がつくとそっとそれをテーブルに置いて行った。操舵室にも同じものを運んでいたのを、セリオスはただ見送った。

 やがて、背にした扉の向こう側で、軽薄そうな男の声が女とあいも変わらず揉めているようだった。ちらりの小窓から外を伺うと、揉める男女の後ろに、しらけた様子のルーザの姿があったので振り返った。


「リシュリオ」

「…………来たか」


 死体のように寄りかかっていたソファからリシュリオは身体を起こすと、窓から差し込む日差しが強くなっていることに目をしょぼつかせていた。

「大丈夫?」

「ああ、随分マシになった」

「それならよかった。僕らもいるから、抱え込まないでね」

「わかってるよ。頼りにしてる。操舵室の扉は少し開けて聞いていていいから、一応安全のためにセリもそっちに行っててくれ」

「うん、わかった」

 セリオスが操舵室に向かうと、後ろで「煩いんだけど」 と扉を開けたリシュリオの声に思わず笑ってしまった。


「あの人たちが来たのね?」


 背中からかかった、どこか緊張した様子のエスタの声に、セリオスも頷いた。

「ここで聞いてろってさ」

「ええ」

 これから始まるであろう会話に、緊張せずにはいられなかった。


 * * *


「煩いんだけど」


 少しばかり不機嫌に告げると、目の前の男は糸目をさらに細くしてへらりと笑った。

「ごめんねぇ、リシュリオさん。早速時間もらうけど、いい?」

「拒否させる気ねぇだろ」

「あはは、ごめんねー。お邪魔しまーす。ユーイ、お世話になるんだから、もう諦めついてるんだろ?」

「……やむを得ません」

 渋々といった様子の女は、より背筋を正して自身の主より深く腰を折った。

「お騒がせいたしました。同乗の許可頂き誠にありがとうございます」

「そういうわけでリシュリオさん、うちのが朝から勝手言ってごめんね?」

「…………どうぞ」

 そっちが一方的に押しかけてきているのだが。とは、流石のリシュリオも言えなかった。



 広場に入るとリシュリオは一人掛けに、アルフェリオと付き人の女が二人がけに座った。

 はじめは側に立とうとした姿に、「君がそこに立っていたら、リシュリオさんたちが警戒するでしょう?」 と、辞そうとする姿とまた一悶着あったのは余談である。代わりに床に座ろうとした事も、もれなく却下した。


 外では側に停泊していたゼルべジャンの飛空艇から、大きなエンジンの音がしていた。

「あ、これおいしいね」

 開口一番、エスタが置いていったお茶に口をつけていたアルフェリオに、ユーイが慌てていた。「心配いらないよ。それに毒の味くらい解るから大丈夫だって」 と、からから笑ってなだめる様子に、リシュリオは気味の悪いものでも見たかのような目を向けていた。

 それに気がついたアルフェリオはくすりと笑う。

「明日の新聞、見てくれたー?」

「まあ……」

「あっはは! 警戒させちゃってるよね、ごめんねー」

 どっから話そうかなあとぼやいた姿に、出入り口の側に寄りかかっていたルーザが溜め息をついた。

「あんたの影武者のアルと言ったかな。昨日は、僕たちを保護するから暴れるなって人に取引持ちかけておいて、当人は来ないのかい?」

「え、アルまで勝手してたの? みんな心配性が過ぎない……?」

 アルフェリオはイヤそうに隣を伺うと、ユーイは両膝に手を添えたまま背筋を改めていた。

「あなたが勝手するからです、アルフェリオ様。この程度、我々からしてみれば些末な心配ごとです」

「君の仕業か。もう、そう怒らないでよ。……まー、いいや」

 話が進まないと感じたのだろう。アルフェリオはリラックスした様子で足を組むと、世間話するようの調子で口を開いた。

「昨日、リシュリオさんには話したけど、シュテルはゼルべジャンで囲うね。まー、囲うって言っても、ちょっと行動を制限させてもらうだけだけど」

「何故それが必要かって聞かせてもらえない事には、納得できない」

 すかさず表情を険しくしながら口を挟んだリシュリオに、男は笑みを深くしていた。

「納得したら従ってくれるんだ? あっはは、やさしーね。早い話、帝国からの見せしめ行為を回避したいんだよね」

「だから、なんのためだよ。別に俺らが迷惑被ろうが、あんたには関係ないだろ」

「関係ないよー? ないけどね、ボスがそれをよしとしなかったんだ。なら、仕方ないよね?」

 にこにこと話す姿は、リシュリオの知るアルフェリオに相違ない。だが改めて知ったことで見え隠れした言動に、リシュリオは面倒くささを感じて溜め息をついた。

「その『ボス』ってお前自身のことなんだろ、帝国のリーステン第三王子様? 他人の話みたいに言うのやめろよ」

「え? あれ、知ってたのか」

 ふっと目を開いたのは、余程驚いたのだろう。五色の組紐を後ろに払うと足を組み直した。

「セリオスに名乗っても、なんもそこ突っ込まれなかったから、てっきり大丈夫かと思ってた」

「知ったのはつい昨日だけどな」

「呼び水になっちゃったか」

 あちゃあとボヤいた姿は、気にした様子もなくまた目を細めてくすりと笑った。

「そうだよ、僕がリーステン・ネブロディアエル・アルフェリオ。こっちは僕付きの侍女で従者のユーイさ。僕と白姫に接点は一切なかったけど、流石に名前くらいは知ってたか」

「旧技術開発研究所の爆発のあとに、あんたは廃人になったんじゃねぇのか」

「ええ? そこまで知ってるの? ……僕に関する記載物は、全部燃やした筈なのになぁ」

 レイシェルのやつ、どこかに隠してたのか? とぼやく姿は、珍しく苛立たしそうだった。操舵室側の扉側で、動揺したような物音に、一瞬だけ目を向けていた。

「まあいいや。話しが早くなれば、それで」

 アルフェリオは切り替えるように吐息をこぼすと、改まった様子で口を開いた。

「新聞見たならわかると思うけど、今帝国は、ユーテスクが崩壊した事に対して非常に神経質になってるんだ」

「自分らでやったことを人のせいにしておいて、神経質もなにもないだろ」

「あっはは、違うよ。あれは僕がアズネロに頼んで、実験してもらってたんだ。本当は浮空島がそのままの形で地上に降りるはずだったんだけど、あの規模の島が、一回の実験でばらばらに砕けてしまった」

「いやお前らのせいかよ!」

「そーだよ。だから、君たちのせいになるのは流石に申し訳なかったんだって」

 アルフェリオは肩を竦めると、指をくんで笑みを消した。

「帝国は、白姫を隠しているシュテルに目をつけた。白姫から譲り受けた、黒姫の設計図を利用していると思っているんだ」

「なんだそれ? はた迷惑だな。そもそもなんで帝国は、エスタが俺らといるって思ってるんだよ」

「連れ帰った黒姫が証言したそうだよ。君たちといた、とね。アレイットで黒姫に接触したんだろう? 帝国に寝返ったアレイットの人間も証言していて裏が取れてる。芋づる式に、アレイットは帝国の支配下に傾倒した。こっちだって予定が狂って大変だよ。あそこの逃がし屋と元修道院長の行方は、未だに知れていないんだから困ったよ」

 あれだけ派手に鳥を使ったのに行方不明なんて、ほんと困ったものだよ。流石だけども。そんな聞き慣れない言葉に、リシュリオは首を傾げた。

「鳥を、使う?」

「あらら、それは知らないの? 逃がし屋のアーレンデュラが、鳥と意思疎通して従えてるのは有名な話だろう? その従えられる範囲に(おおとり)も含まれるんだから、ほんと恐ろしい話だよね」

 ちらりとアルフェリオがルーザを見たのは、気のせいではない。素知らぬ顔で、ルーザはただ遠くを見ていた。


「それで、散々空を統一したいって宣言していた、ならず者の王子様は、結局のところ何がしたくて、わざわざこんな一介の空賊の元に来たんで?」


 嫌味っぽくリシュリオがぐるりと首を回して告げると、仇敵の男はにっこりと笑みを浮かべた。

「もちろんこうなった以上、君たちにも僕の手駒になってもらおうかと思ってね? 割りたくもない腹割って、こうして話に来たわけだけど?」

「悪いと思ってるやつの態度じゃねぇよ、それ」

「あっはは! それはごめーん」

 苦虫を噛んだようなリシュリオに、アルフェリオは「これはもうクセだから」 とけたけた笑った。

「でもほら、君たちと話すかもってんで、因縁のある彼は他所で仕事してもらってるからさ。それくらいの気遣いは出来るんだって思ってくれると嬉しいなあ?」

「……クコルの街で縛って転がしたのに、わざわざ拾うとは物好きだな」

「あはは、落ちてるものは全部欲しくなっちゃう性分なんだ。今はちょっと伝達係をお願いしてるよ。今頃丁度、マレスティナに居るんじゃないかな。土地勘ある人がいると頼もしいよね」

「……その気遣いが出来るなら、もっと別のことが出来ただろ」

「そういう事もあるねぇ」

 のらりくらりと宣うアルフェリオに、リシュリオ腕を組んで溜め息をついた。

「んで? わざわざこっちに乗り込んできた理由は何だ?」

「交渉、かな」

 いたって真剣な表情を作ると、アルフェリオは真っ直ぐにリシュリオを見た。

「黒姫の図面を置いて、君達はこの件から手を引いて。外界の海にでも、しばらく出てってくれない?」

 リシュリオは再度溜め息をついた。意外な提案と言えばそうであるし、そうでもないと言えばそうだった。

「俺らに、しっぽ巻いて逃げろってか」

「外界なら世界新聞が出回ってても、なかなか君たちを捕まえようって人も少ないだろうからね。頃合いを見て呼び戻すよ」

「その間に、マレスティナが危険にさらされるかもしれないのに?」

「シュテルが居ても居なくても、帝国に目をつけられてるのは一緒でしょ」

「黒姫と、お前が連れてったアズネロ親方の弟子の一人のことは、一体どうするつもりだ」

 リシュリオが苛立たしげに告げると、アルフェリオはただ肩を竦めた。

「あー、彼ねぇ。黒姫も彼もナシェア君が連れてってしまったから、多分どうにもできないよ。ナシェア君は皇帝から勅命を受けて動いてるみたいだから、僕も口の挟みようがない」

「お前が巻き込んだんだろ?」

「彼に関してきっかけは、そうだね。セリオスを連れて行くわけにもいかなかったし。それに彼自身に野心があったのはホントだよ。利害の一致。流石に自分の意志でナシェア君について行った子の気持ちをどうこうすることは、僕にはどうにもできないかなー?」

 それについては取り合うつもりはない。言外に告げられて、リシュリオも考え込んで口を閉ざした。

 反論の途切れを感じたのだろう。アルフェリオは組んだ足を解くと、首を傾げた。

「それで、図面は渡してくれるの? くれないの?」

「あんたに渡して、悪用しないって保証はねぇだろ」

「あっはは! ないね!」

 あっさりと笑い飛ばしたかと思うと、「でも」 と声のトーンを落とした、

「これだけは言える。今いちばん帝国の邪魔を出来るのは、他でもないこの僕だ。そして、アズネロは黒姫の図面がなくとも、近々『対抗策』を完成させられる」

 その間にもう少し、浮空島が落ちるかもしれないけどね、と。無責任にへらりと笑った姿に、リシュリオは舌打ちした。

「お前に善悪の判断はないのかよ」

「あるに決まってるだろう? でも大義の前の犠牲って、仕方のないことだよね。千人の平和のためなら、僕は十人を殺すよ」

 リシュリオを見据えた漆黒の瞳は、あまりにも真剣だった。それも一瞬のこと、いつもの胡散臭い糸目がにこりと笑った。

「でも君たちが協力してくれたら、その十人も殺さないで済むかもしれない」

 その一瞬の事にリシュリオも呆然としたが、気持ちが追いつくと同時にやれやれと宙を仰いでソファに身体を預けた。

「血濡れた奴についていく帝国の国民は可哀想だな」

「はは! 心配いらないよ。血路の後に絨毯でも引いて、正当な王様を立てればいいだけの話さ」

「は……?」

「え、リシュリオさんてばホントにやさしーね? 自分たちのことで手一杯のはずなのに、僕ら帝国の人間のことまで心配してくれてるんだ?」

 善人もここまでくると眩しいねぇと、からから笑った男は意地悪く口元を歪ませた。

「さあ選びなよ。外に出てくか、僕の下で戦うか。それともいっそ、帝国に下るかい? そしたら全力で今、君たちを止めないといけなくなるから、是非とも遠慮したいなあ。暴力沙汰は苦手なんだ」

 ねえ、ユーイ。そんな風に同意を求められた女は、そっと味わっていたお茶をテーブル戻した。

「それは構いませんが、アルフェリオ様。大切なことを隠すために()、余計な軋轢を作るのは、全く得策ではないかと思いますよ」

 やれやれと言わんばかりに溜め息をついた侍女の女は、背筋を正すと深く頭を下げた。

「ご気分を害したのならば、主に代わって謝罪致します、アデレード殿。我が主は大層ひねくれもので、それでいて腹を割って話せる仲間が一人もおりません。ぼっちです」

「ん……? ユーイ?」

「フロリウス殿にすら、なるべく此度の件に関わらせないようにしております。帝国の現状を変えるために十三年……正式には十五年。技術開発研究所が倒壊する前よりずっと、奔走しております。その間に、すっかり他人を頼ることも信じることもしなくなってしまいましたのでーーーー」

「ストップ、ストップ! ユーイ、そうじゃないだろ!」

「間違ったことは申し上げておりません」

「違うから! 父上の一方的なやり方が、気に食わないだけだから!」

「なるほど。では人生の半分近くを、貴方は反抗期に費やされてるとでもおっしゃるおつもりですか?」

「いやいやいや勘弁してよ。君は僕の積み上げてきた物をどうしたいの」

 慌てて立ち上がったアルフェリオを、従者の女は表情を変えずに見上げた。

「しょうもない経緯など、ぶち壊してしまおうかなと。よろしいのではありませんか? 空賊シュテルは自分たちの『国』を守りたいだけなのですから、貴方と目標は同じでは? 共通の敵というのは、それだけで団結するには十分だと思いますが」

「…………はあ。君のせいで台無しだよ、ユーイ。僕のこと、わりとキライでしょ」

「滅相もございません。私はアルフェリオ様を主にと心に決めてから、一筋にございます。アルフェリオ様が危機的状況に遭遇でもされましたら、私は貴方を守れるならば、よろこんでこの命を差し出しますよ」

「一筋が重いよ……」

 頭が痛いと言わんばかりに、アルフェリオはこめかみを押さえた。

「はっ! それならなおさら、外界の海に出るなんてお断りだ」

 そんなやりとりを茶番だと思いながら眺めていたリシュリオは、ソファから身体を起こすと足を組み替えた。

「いいぜ。お前に協力してやるよ、アルフェリオ。互いの利益のために、な」

「いいの?」

「ただ、マレスティナの人たちに危害出してみろ。お前の命じゃ足りないからな」

「あっはは、それもそう。肝に銘じとくねぇ」

 へらと笑っていたアルフェリオも、ふと申し訳なさそうに眉を落として「ありがとう」 と呟いていた。そんな姿に腹が立つような、仕方がないような微妙な気持ちになりながら、リシュリオは相棒を振り返った。

「構わないか? ルーザ」

「君がそう決めたなら、異論はないよ」

 端的な返答は、嫌悪も忌避感もないようだった。

「でもちゃんと二人の意見も聞いたほうがいいね」

 ルーザはそのまま操舵室の扉へと目を向けると、胸元で手を握り、今はもうそこにないストールを確かめているようなエスタの姿があった。

 

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