30. 密書
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前略
この手紙が貴殿に届いている頃には、
恐らく全てが伝わってしまっている
後になる。だからこそ、早急に心して
読んで頂きたい。
簡潔に、まず謝罪しよう。
貴殿の逃亡手配先を、とある者たちに
伝える事になる。
すまない。院長に敵対されては、私も
どうにもならなかった。
貴殿の事を伝える相手だが、白姫と、
それに協力している空賊シュテル。
それから同伴していた貴殿の弟子だ。
恐らく、近日中に彼らはそちらに向か
うだろう。もし新たな潜伏先が必要で
あれば、すぐに運ばせた鳥にその旨を
伝えて、折り返し知らせてくれ。
即日手配させてもらう。
用件は以上だ。
追伸。
言いたいことは、後日甘んじていくら
でも聞こう。
まずは合理的な行動を求む。
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手元の小さな紙をじっと見つめていた男は、呆れた様子で深く溜め息をこぼしていた。
窓辺に止まり、じっとこちらを見つめていた大きな鳥を、同じように見返してやる。
「遠いところご苦労さん。飼い主の所に戻っていいが、一つメモを頼まれてくれるか」
まるで了承するように、大きな鳥は頭を下げた。差し出した足には小さな筒が括られており、そこに入れろと言うのだろう。
男は手頃な紙を探して、受け取った手紙の余白を破り取る事で妥協した。まるで男が書くその文を読むかのように、大きな鳥も見守る。
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死にさらせ無能。
覚悟しとけ。
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さらりと書き殴ると、小さく小さく兎に角畳んだ。
筒に入れるのに邪魔にならない為と言うよりも、恨みが籠っていたという方が正しい。
実際、男にとって事態は歓迎できる状況ではなかった。
「じゃあ、頼む」
男は丁寧に筒に押し込むと、窓ではためいていたカーテンを捲り上げた。
大きな鳥は、自分の役割をよく理解しているのだろう。窓辺まで跳び跳ねて向かうと、ぐっと力を込めた。
ばさりと音がしたかと思うと、一陣の風と共にカーテンが大きく揺れる。薄い雲と陽射しの眩しい空へと飛び立った。
男は暫し、その姿が見えなくなるまで見送った。やがて、眩しさに苛立った様子で舌打ちした。
「……よりにもよって、何でそいつらと一緒にいるんだ。クソバカ」
男のぼやきは、暖められた空気に溶けた。




