第5話:呪縛
一話書くのにも一苦労なんですが。。。毎日投稿とかしてる人すごいですね。。。
「僕も一緒に連れて行ってくれないかい?」
これが僕の頼みだった。
「嘘だろお前……」
まあ無理はない,これでも僕はルールは絶対に破らない生真面目な人間で,そこだけは門下生だけでなく,師範たちからも尊敬されているぐらいだ。
そんな僕がいきなり,こんなことを言い出すものだから
混乱するのは当たり前だろう。
「あ……ああいいぜ,どうせ師範たちが見回りに来る頃には,
帰るつもりだったしよ」
認めてくれたみたいだ。これで声の正体がつかめるかもしれない。
§
セオ君とともに待ち合わせ場所につくとすでに,
二人の男がベンチに腰かけているのが見えた。
「お,来た来た,ん? なんか一人多くねぇか?」
そういったのは,セオ君の連れの一人,フランキーだった。
「こいつはルイス,俺が部屋からこっそり出ようと思ったら見つかっちまってよ,一緒に行きたいんだとさ」
セオ君が言う。
「も~,何見つかってるんですか~こんなの連れてきたってなんもいいことないでしょう?」
連れのもう一人であるチャドリーが不機嫌そうな顔で僕を見る。
「頼む,ちょっといろいろあって調べてみたいことがあるんだ」
僕が,真剣な顔で頼み込むと
「はぁ~仕方ないですね~今回だけですよ? 深海魚さん」
すごくめんどくさそうな顔をされたが,
何とか許可をもらえた。
ついでにチャドリーは何で見つかったんだよ,と
セオ君に鋭い視線を飛ばした。
おそらく僕がマーティーに負けて降格したことも知っているだろう。
そんな足手まといのようなやつを立ち入り禁止と書かれるような危険な場所に連れて行くのは誰だって気が進まない。
だが……
――どうしても,確かめたいんだ
僕はそう心の中で思って,彼らに嫌がられながらでも,
ついていくことを決心した。
修練場の南にある門を抜けて丘を下る道を歩いていくと,セオ君の言うとおり,“立ち入り禁止”と書かれた柵があった。しかもかなり高位の防衛呪文がかけられている。
――どうやって突破するつもりなんだろう……
そう思っていると,突然セオ君がマナリングを
装着した右手を柵に向かって突き出した。
「呪文破壊」
バァン!
という音とともに柵が粉々に散ってしまった。
これほどの高位な防衛呪文がはられた柵を一撃で
粉々にできるセオ君は,やはり魔法に関しては
相当な才能を持っているんだろう。
――なんでこんなに強いのに,それをもっと正しいことに使わないんだ……
と僕は思ったが,敢えて正しい使い方をしないのが,
彼なりのプライドなのだろう。
「さ,行こうぜ」
セオ君が壊した柵を呪文で直すとそういった。
先に進んでみると見るからに開けにくそうなさびた鉄扉があった。
おそらくここにはさらに厳重な呪文が
かけられていたのだろうが,何故か今はそれもなく,
隙間から中が少し覗いている状態になっている。
「よし,お前ら,行くぞ」
「おう」
「了解」
セオ君の掛け声に連れの二人が返事をし,火炎魔法を詠唱して,
手の中にボッと炎を出現させ,明かりの代わりとした。
僕も詠唱を始めようとするとまたしても,あの声に苛まれる。
《――来い,さぁ俺の元へ来るんだ……》
――なんだ? 僕を呼んでいるのか?
最初はただの幻聴だと思っていたものが
急に現実味を増してきて,怖くなった。
扉の隙間から中に入ってみると,
そこは真っ暗な石造りのトンネルがあった。
「か,かなり長いな,やっぱり引き返した方がいいんじゃないか?
いつ師範が見回りに来るかわからねぇしよ」
フランキーは提案するが,
「いや,ここまで来たんだ,先に何があるか見てみたい。」
とセオ君は却下する。
「そういや,何でお前は俺たちと一緒に来たんだ?」
今度はセオ君が僕に話しかけてきた。
――本当のことを言っても,どうせ信用してもらえないだろうな……
声が聞こえる……などと彼らに言ってみれば,即座に何の冗談だと爆笑されるに違いない。そう思って僕は
「いやぁ~たまにはこうやってみんなで
探検するのもありかな? って思って」
と適当にごまかす。
「ははっ,珍しいな,クソ生真面目なお前がそんなこと言うなんて,マーティーに負けてやけになったのか?」
とセオ君はで洞窟を進みながら聞いてくる。チャドリーもそれに便乗して
「あ? もしかして,このまま規則違反でこの修練場から退学する口実を作ろうとしてんのか?」
とケタケタ笑いながら言ってくる。
――違う,そうじゃない……けど
心のどこかでそういう気持ちはあるのかもしれない。
ただでさえ自分の実力がランク「ブロンズ」で頭打ちになってたにもかかわらず,
マーティーという天才の手によって僕は“下剋上”
という前代未聞の形で降格をくらってしまった。
あまりの悔しさに自暴自棄になって,
何をすればいいのかわからなくなって,
自分を見失っていた時に,この声が聞こえてきた。
自分が今何をしているのかはわかっている,
師範にばれれば即罰則を食らうだろう。でも,
僕はこの声の正体が誰かもわからないのに
どこか救いを求めているのかもしれない。
助けてくれ,と。
そうこう思っていると,急に目の前に大きなドーム状の空間が現れた。
かなり広い,ドームの壁もやはり石造りで,あまりの大きさに天井は,
明かり代わりの火炎魔法をもってしても暗闇に包まれたままだった。
そして,その中心に縦に細長い台座が置いてあるのが見える。
よく見ると――
「おい,なんだよ……あれ」
セオ君が目を見開いてつぶやいたので,
見ると,その台座の上にはドームの壁の
いたるところから伸びる鎖に縛られて,
その上に何重にも封印呪文がかけられた,
『漆黒のマナリング』があった。
「うっ,あ……兄貴,なんかここ空気悪いですよ,早く帰りましょうよ」
チャドリーがセオ君に呼びかける。
セオ君もさすがに危機を感じて,撤退を決心した。
「あ……ああ,よしお前ら,帰るぞ」
セオ君の判断は間違っていない,実際そのマナリングから発せられる
禍々しいオーラから僕たちは相当危険なにおいを感じていた。
何か良くないものだろうと感じ,僕も帰ろうとしたその時
《――よく来たな》
突然の声,それとともに激しい頭痛,僕の足がまるで自分の体ではないかのように漆黒のマナリングに引き寄せられる。
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
自分の意志ではなく,まるでだれかに操られたかのように,
僕はふらふらと歩き出す。
「お……おい,ルイス? 大丈夫か!? ぐわっっっ」
セオ君が僕を止めようと追いかけるが,
さっきまでマナリングから発せられていた
弱々しかったオーラが一気に増大し,
僕を除いた3人が吹き飛ばされる。
《さあ……邪魔はいなくなった……来るんだ,俺の元へ……》
今や脳内の声は,あまりにはっきりと聞こえ,
本人が耳元で語り掛けてきているかのようだった。
バキンバギギギ
僕が近づくにつれ,張り巡らされた封印魔法が,
漆黒のマナリングの力によって,
目の前で易々と破壊されていく。
オーラはどんどんと濃くなり,
僕の体には強烈な倦怠感が襲ってくる。
気が付くともう目の前に台座があった。
漆黒のマナリングは目と鼻の先だ。
「う……うあ……あ……」
禍々しいオーラが僕の体を蝕み,僕はほとんど意識を失いかけていた。
バッキィン
と音を立てて,ついにマナリングを縛り付けていた鎖が切断される。
僕は一瞬目を閉じた。漆黒のマナリングは僕の目の前で浮き上がり,
咆哮のようなものを上げる。
《グォォォォォォォォォォォォォ!!》
「ぐっ……」
響き渡る咆哮に僕の体がしびれ,
石造りのドームが震えるのを感じる。
浮き上がったマナリングは
天に掲げられた僕の左手にはまり,
腕をぎゅっと締め付けた。
「グ……グワァァァァァァァァァ!!」
自分のものではないような声が出る。
僕は台座の前で四つん這いになり,
必死に体中の痛みに耐える。
マナリングのはまった左腕を見ると,
肌に黒い亀裂が走っているのが分かる。
台座の下の地面に水たまりがあった。
そこに映る僕の顔にも,その黒い亀裂が走り,
眼球が真っ赤に充血しているのが分かる。
全身が,内臓から脳や筋肉に至るまで,
今までに感じたことがないほどに痛む。
――ああ,もう駄目だ……死ぬ……
「お……お前は……誰なんだ……」
薄れゆく意識の中で僕はかすれた声で声の主を問う。
《――ファフニール》
その声が頭の中で囁いてきたのと同時に,
僕はばたっと倒れ,完全に意識を失い,
視界が真っ暗になった。