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第4話:耳鳴り

「あ~疲れた~~!」


驚いた,ランク「ビギナー」の訓練を受けるようになってから

数日が立ったが,これほど困難を極めるものだったとは。


「セオ君,ラ,ランク「ビギナー」の訓練ってこんなにしんどかったっけ?」


僕は息を荒げながら,

部屋のベッドに倒れこみ,そう言った。


「ん~? こんなもんだぜ? どうした,まだバテてんのか?」


セオ君は相変わらず涼しい顔をして,

僕に水を入れてくれるほどの余裕を見せている。


「い,いっそランク「ビギナー」に降格しといてよかったかもしれない……。僕,全然ランク「ビギナー」についていけてないままランク「ブロンズ」に上がってたんだって,

今気付いたよ」


僕はそう言って,セオ君が差し出してきた水を受け取り,

一気に飲み干す。


「ま,俺も久々にランク「ビギナー」の訓練を受けたときはビビったけどよ

何日かすれば体も慣れてくるぜ?」


セオ君は僕にそう言ってくるが,

ここ数日の訓練は,とてもそうは思えないような内容だった。

まず手始めに,庭園(とっても広い)を200周,

精神統一と基礎訓練5時間,

遠距離多段型魔剣技による攻撃の防御

方法とその応用に関する講義を2時間,

たった30分の休憩をはさんで,

新しい魔剣技の習得練習 3時間。

ランク「ブロンズ」の方が実践より,講義の時間が多いせいか,

体力的なダメージは実践が多いランク「ビギナー」の方が高い気がする。


「だけど,普段より厳しくなってるらしいね,訓練も昇格試験も」


「ああ,SBAの話だろ。あれガセじゃなかったんだな」


「……うん」


SBA|《聖血連合》――

噂では信者が1万人以上いるとされている,幻のカルト集団

皆からは禁忌を犯した魔界の住民と呼ばれ,突如地上に現れては統合魔法(チェインマジック)による大規模なテロなど,過激な行動を繰り返し,治安維持部隊が危険視して,総力を挙げて捜索したが,場所を突き止められないどころか,セイレーン王国の住民の中でも,信者の顔を見たものさえいないという。


「本当に攻めてきたらどうするんだろ……」


僕がつぶやくと


「ま,俺たちが駆り出される可能性も無きにしも非ずだな

その為に厳しくなったんだろ? 訓練と昇格試験」


とセオ君は言う。


「そ,そうだよね」


神出鬼没のカルト集団SBA,しかしここ最近,彼らが王宮に宣戦布告をしたという噂がメディアなどから流れてきた。最初はだれも信じなかったが,王自身が認めたことから,一気にその信憑性も高まった。本当に攻めてくるとなれば,訓練兵である僕たちも,戦力として投入されてしまうかもしれない。そう思っていると


《――戦――ほしい……》


「んああ! もう!」


――まただ,また妙な耳鳴りが聞こえる


「どうした? ハハッ,大丈夫か?」


セオ君が突然怒り出す僕を少し面白がりながら,聞いてきた。


「ああ,気にしないで,最近耳鳴りがひどいんだ」


ランク「ビギナー」に降格してきたあの日からずっと耳鳴りがしている――

というよりはむしろ耳の中で誰かの声がする感覚。

しかも日に日にひどくなっているのが分かる。


――治療室に行って,リアナ先生に診てもらった方がいいかな……


§


その夜,僕は眠りにつくことができないまま

ベッドから外の空を眺めていた。

僕の憂鬱な気持ちとは裏腹に,

ガラス張りの天井に,

美しい星がキラキラと輝いている。


《俺――もと――来い》


――クソ,まただ


時間がたつにつれ,耳鳴りが何かを自分に

語りかけてきているような気さえした。


「ああ,もう」


ガタッ!

僕が耳鳴りのうっとうしさに悪態をつくと,

突然部屋で大きな音がした。

驚いて体を起こしてみると,

タンスに足をぶつけて悶絶しているセオ君がいた。


「ど,どうしたの? セオ君大丈夫?」


心配して聞くと,セオ君は僕を見て作り笑いをし


「おお,起きてたのか,いやいや何でもない……ほんとに何でもないって」


と慌てて,戸惑ったような返事をする。今は深夜2時,こんな時間に起きているのもおかしいし,明らかに笑みが引きつっていたので,おそらく何か企んでいるなと思いながら問い詰めてみた。


「どうしたんだい? 何かあったのかな?」


今更ごまかせないと諦めたのか,

セオ君は,ふぅとため息をついてから話し始めた。


「このアーリア修練場の建物が建つ丘のふもとに立ち入り禁止の場所があったんだ。その先に道があってよ,いつもの2人でこっそり入って進んでみたら扉があって,しかも鍵がかかってなかったんだよ」


セオ君が言っているいつもの2人というのは,チャドリーとフランキーのことだ。2人ともセオ君と性格は似通っていて,修練場の面汚しだと門下生たちに忌み嫌われている。


「なるほど,それで今夜侵入しようということかい?」


僕が聞くと,セオ君は眼をそらしながら


「空いてたら……行くしかねぇだろ?」


と言う。

なんと好奇心旺盛な奴なんだ。

師範にばれて,またもや降格をくらうかもしれないのに。



ズキッ!!


《――来い》


「っ!」


突然の頭痛,そしてさっきまで耳鳴りのようにしか聞こえなかったものは,明確な“声”となって僕の脳内に直接語り掛けてきた。


《さあ……俺の元へ来るんだ》


――なんだ,なんなんださっきから!?


僕は訳が分からないまま,頭を抱えた。


――来い? まさか!


未だに消えない頭痛に頭を押さえながら考えていると,脳内に語り掛けてくる“こいつ”の言う意味が分かってきた気がした。


――ただの幻聴かもしれないけど……一か八か試してみるしかない


そう思って僕はセオ君に言った。


「セオ君,一つ頼みたいことがある」


すると,


「なんだ? 何か文句でもあるのか?」


彼はけげんな顔をこちらに向けてそう言った。悪巧みを自分のような生真面目な人間に邪魔されるのではないかと警戒しているからだろう。


しかし僕の発言は彼の予想していたものとは大きく違ったようだった。

セオ君は思わず,ぽかんと口を開けて言った。


「……嘘だろお前」

お読みいただいた方,ありがとうございます。


セオ君の連れ「チャドリー&フランキー」は修練場の門下生たちから嫌われてますが,

セオ君自身は結構イケメンなので修練場の女子門下生から割とキャーキャー言われていたり。


良ければ,評価,レビュー,感想など,よろしくお願いします!

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