第2話:決闘
決闘――
それは修練場が古くから採用している,
もっとも実践的な訓練の一種だ。
相手と1対1で勝負し,どちらかが
相手の体に多大な損傷を負わせれば勝ちだ。
さらにこの決闘には特別なルールがある。
低ランクの者が高ランクの者に勝つ,
つまり“下剋上”が起こった場合,
ランクの入れ替わりが起こるのだ。
僕が負ければ,マーティーはランク「ブロンズ」に昇格し,
僕はランク「ビギナー」に降格してしまう。もちろん,
そんなことはめったに起こらない,
たとえ相手が優秀でも,ランクが“1”違うことは,
決闘において強烈なハンデを背負うのと同じようなものだ。
ランク1の差は,それほどまでに大きい。
――でも,口調からして,こいつはおそらく下剋上を狙ってくるだろう。
こいつに舐められたことは悔しいけど,
正直言ってランク「ビギナー」トップのこいつに
勝てる自信があまり湧かない。
「ルイスさん,やめといたほうがいいっすよ,
こんなやつと戦っても何もいいことないっす」
ラードが僕を引き留めてくれるが,マーティーは
「ああ~いいぜ? 断っても,ルイスさんは僕に負けることにビビッて決闘をキャンセルしました~と修練場中に広めるけどな?」
などと言ってくる。
僕がこいつにビビッて決闘をキャンセルしたなどと
広められれば,ただでさえ修練場内の評価が低いのに
さらに評判が悪くなってしまう……。
「よし……受けて立とう」
僕は静かにそう言って修練場の中庭に向かった。
「そう来なくっちゃな」
マーティーはにやけながら僕に続いた。
僕が中庭に来ると
すでにかなりのギャラリーが集まっていた。
「感謝しろよ? お前のために俺様が
事前に集めといてやったんだからよぉ」
マーティーが後ろから呼びかけてきた。
全く人の嫌がることしかできないのかこいつは。
僕は少々腹が立ったが,
何か言い返すのはやめておいた。
「決闘をするのは君たち二人でいいね?」
中庭の師範室に続く扉が開き,
師範の一人であるリドリーがこちらに向かってきた。
二人が頷くと,師範は模擬戦専用のマナリングを渡してきた。
魔法剣士は物理的な剣は使わない。
マナリングという金属製のリストバンドを装着し,
周囲のマナ粒子から剣を生成し空中で操る。
同期と唱えると,マナリングがキィンと音を立て,
僕の腕をぎゅっと締め付ける。これで装着完了だ。
「二人とも,準備はいいかね?」
リドリー師範が聞いてきたので,僕はうなずいた。
「再起不能にしてやるよ」
マーティーが威嚇してくるが,僕は聞こえないふりをした。
「それではカウントダウン~」
「3! 2! 1!」
ギャラリーたちもそろってカウントダウンを始める。
多くの声に反応して,中庭が大きく振動する。
パァン,という音と共についに決闘が開幕した。
「決闘,開幕!!!」
「いくぜぇ! ルイス,死んじまいなぁ!」
マーティーは両腕から一本ずつ剣を生成し,魔剣技を詠唱した。
「《断罪の双剣》」
「ぐっっ!!」
二本の剣が僕の首めがけて高速で飛んでくる。
僕はすんでのところでかがんで躱した。
「おらおらぁ!
どうした,ランク「ブロンズ」の実力ってのはそんなもんかぁ? いや、お前ならそんなもんか笑笑」
マーティーはすかさず僕を煽りながら、追撃の剣を飛ばしてくる。
僕はそれを右に左にローリングして躱す。
――こっちも避けてばっかじゃだめだ!
「《狂気の嵐》」
攻撃に転じる,
マーティーの頭上に大量の剣が降り注ぐ。
「甘いな,《沈黙の六角形》」
――防御系呪文!!
六角形の薄青みがかった透明色のシールドが,
奴の頭上に展開される。
ズガガガァンといかつい音とともに
僕の剣と奴の盾がぶつかり合う。
一瞬の静寂,衝撃で舞い上がった砂ぼこりから現れたのは,
やはり,無傷のマーティーだった。
「くそっ,だめか」
僕はこぶしを強く握りしめた。
「そんなんじゃぼくは倒せないよ~ルイスさん?」
マーティーは指先をくいくいと曲げて,僕を煽ってくる。
「油断しすぎじゃないか? 《虚影の剣》」
「!!」
マーティーは気配を察知して体を横にひねるが,
間に合わなかった。
マーティーの脇腹めがけて,
四本の剣が奴の周りに
姿を現し,襲い掛かる。
「ちっ,さっきのは錯乱か,小賢しい」
マーティーは上半身にかなりの
痛手を負ったのを見て,舌打ちした。
――模擬戦専用の武器だ,立ち上がれないほどではないが,これでもかなり行動を制限できるはずだ。
「調子乗りやがってぇ!!《悪魔の大虐殺》」
マーティーは感情に任せて魔剣技を放つが,案の定
威力,速度がともに大きく弱体化している。
僕はそれを完全にかわし切って,笑みを浮かべた。
――よし! 良いぞ! 勝てるぞ!!
僕はそう自分を鼓舞して,マーティーへ反撃を開始した。
マーティーの攻撃は順調に弱りつつあった。
僕は,この隙を狙って全力で攻め込む。自分が知る魔剣技の数々を全力で放つ。
「くっ……調子に乗りやがって,少し弱ったくらいでよぉ」
マーティーは強がり,僕の猛撃を魔剣技で相殺しようとするが,
その顔には苦しみの表情が浮かんでいた。
僕はマーティーの攻撃が止んだ瞬間を狙って
一気にマーティーとの間合いを縮める。
――今だ!
僕は生成した剣を手に持ち,直接マーティーを攻撃する。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
装備した剣を大きく振りかぶり,マーティーの右肩めがけて全力で振り下ろす。これで奴は利き手を失い,完全にダウンするはずだ。
ガッッキィン!!
勝敗は突然訪れた。僕の装着したマナリングが緩んでいる。
これは非同期という状態で,マナリングが同期した剣士のダメージ過多を感知したことを表す。
「ぐっはぁっ,げほっげほっ」
あまりに一瞬の出来事に,痛覚が脳に遅れて伝わってくる。
かなりひどい痛みを感じて僕は思わず唾を吐きだす。
見ると自分のみぞおちに一本の鋭い槍が突き刺さっていた。
模擬専用のマナリングでなければ,間違いなく僕の体を貫いていただろう。
僕はよろよろと後ろに下がったが,
やがて体が平衡感覚を失い,ばたっと仰向けに倒れる。
上を見ると勝利に歓喜し,僕を全力で罵るマーティーが見える。
下剋上という珍事件にギャラリーたちがぽかんと口を開けていた。
「Fooooooooooooooooooo! やった!やったぜ! ブロンズランクがビギナーランクに負けやがった。こいつ自分より低ランクの奴にも勝てないのかよ雑魚過ぎるだろ,ギャハハハハハ!!」
マーティーがあまりの嬉しさに,
中庭の芝生に大の字に倒れこむのが見える。
――やられた,完全にはめられた。
虚無の剣によってダメージを受けたと見せかけて,僕をおびき寄せることで,強力な魔剣技を至近距離で放つ。
おそらくさっきのは,ランク「ビギナー」が使える魔剣技の中で近距離最強の技
“神槍”だろう。
「ルイス・サルバドール,Down
しょ,勝者はマーティー・マッケンリー!」
師範のリドリーが勝者を申告し,この決闘の勝敗がついに正式に決定した。
大歓声が沸く,笑顔でギャラリーに手を振るマーティー
僕は,恥ずかしさのあまりいてもたってもいられなくなり,
痛む体に鞭打って,そっと中庭を後にした。
読んでいただいた方,ありがとうございます。
戦闘描写難しい……。
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