第0話:プロローグ
プロローグ,付け加えてみました。
ごつごつとした岩肌に囲まれた広大な空間……
とても薄暗い……どこかの地下のようだ。
――ここは……どこだ……
私はついさっきまで王宮で会議の準備を進めていたはずなのに
いつの間にかこんな気味の悪い空間に連れてこられていた。
「ハッ」
私は唖然とした。なんと鎖につながれ,空中に吊り下げられている。
広大な空間にしては妙に天井が低いなと感じたのはこのせいか。
「おらぁぁ! くっそ!!」
声を上げて,もがいてみたが当然鎖は切れず,だれも助けに来ない。
「な,何だあれ……!」
あまりに高いところに吊り下げられて,下を見るのはやや気が引けるが,
勇気を出して,見て気づいた,巨大な池がある,
なぜかそこに入っているものは,ただの水ではなく,
少し緑がかった液体だった。
――こんな高所に吊り下げといて……何をするつもりだ?
私はどうやらここに吊り下げた者は私を落下死させて殺すつもりではないということが分かり,少しだけ希望を抱いた。
勇気を出してもう一度下を見ると,池の縁に一人の若い男が立っていた。
立って,顎をさすりながら,魔導書のようなものを読んでいる。
「おい! こんなところに私を連れてきておいて,一体何するつもりだ!?」
大声で男に聞いてみる。すると男はゆっくりと本を閉じ,私を見た。
「……起きたか」
と落ち着いた声で一言だけつぶやいた。
「話を聞いてくれ!! 私に何をするつもりだ!」
不安になって,声を荒げる。
「……安心しろ,苦しいのは……一瞬だ」
男は黒いフードをかぶっていて,表情がよく見えない,
だが,若い割に,落ち着いた口調で発せられる
その言葉は何とも気味の悪いものだった。
「く……苦しいって?」
私は少し冷や汗をかきながら男に聞く。
「お前には,“神の生贄”になってもらうのだよ」
「……へ?」
私は,一瞬この男の言っている意味が分からなかった。しかし頭の中で何度も反芻するうちに,この男が何を企んでいるのかがわかってきた。いや,わかってきてしまったというべきなのだろうか。
――こいつ,私を殺す気なんだ……神の生贄ってなんなんだ……やめてくれ……死にたくない……死にたくないよぉォォォォォォォォォォォォォォ
私は逃げ場のない恐怖に襲われる。人を殺すことに一切の抵抗がないのか,男は恐れる私をまったく気にしていない様子だった。それどころか,フードの下から少しだけ見える口には微笑みさえ浮かんでいる。だが,この男の言葉に嘘はない,私は明らかにそう感じた。
――こいつ,まるで何人も人を殺しているかのような……
私は気が付いた。自分たちを上位種と名乗り,劣等種である
魔力は高いが魔法が使えないという私のような
者達をひたすら虐殺し続けていると噂のカルト集団
名は確か“聖血連合”だったはずだ。
――まさか! ここは奴らのアジトか!!
治安維持部隊に急いで報告しなければ……
私は必死になって助かる方法を考えた。
だが,どこを見渡そうと一面岩壁だらけ,
脱出する術は見つからない。
「……さて,そろそろ始めるか」
男は再度読んでいた本をもう一度ぱたんと閉じ,私に背を向けた。
「ま……待ってくれ!!」
私は必死になって男を引き留める。
――聖血連合は確か王宮を狙っていたはずだ,あそこを破壊すればセイレーン王国は制御を失う。そうすれば自分たちがこの国を支配できると思っているのだ。ここは何とか王宮の情報を売ってでも助からなければ……
「私は王宮で働いている儀典官だ!! 私にはまだ大事な妻と娘……家族がいる,だから助けてくれないか? 殺される以外ならなんだってするよ! ほら,王宮のことならなんだって教えてやるさ。だから……」
「無理だ」
男が即答した。わずかに残っていた希望が一瞬にして消えうせる。こいつらに王宮の情報を売れば,まんまとこいつは王宮へ出向き,王宮を監視する治安維持部隊の者たちによって,一気にこいつらを殲滅できただろうが,どうやらそんなことはこいつにはお見通しだった。
――こいつにすがるのはもう無理か……
そう思っていた矢先,ただでさえ最悪だった事態がさらに悪化した。
「お前たち,儀式の時間だ」
男がそう言うと眼前にそびえ立つ,
ごつごつとした岩肌の巨大な岩壁が
シュンと音を立てて一瞬で消え去った。
そしてその先に広がる空間に見えたものは――
「なんなんだ……この数は……」
男と同じ黒色のローブを着た,数えきれないほどの魔法使いらしき者達が整然と整列し,地面一帯を黒く染めている。彼らはフードの下からうっすらと見える口を一斉に開き,低い声で鎮魂歌を歌いだした。誰に向けられたものなのかは言うまでもない。この私の未来に対する慰めであろう。
――な,何をするつもりだ!? やめろ!! いやだ,死ぬの?
私,死ぬの? いやだぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁっ
私は心の中で今までに出したこともないような雄たけびを上げた,しかしあまりの恐怖に声が出ない。そしてついに,腕につながれていた鎖が切られた。
パッキィン
という音とともに浮遊感が生じる。眼前に広がる幾人もの黒いフードの者達は無慈悲にも,だれ一人として私を助けようとする者はいなかった。下を見ると緑色の液体が自分の足元すぐ下に来ていることが分かった。
刻一刻と自分に死が迫ってきているのを感じる。
ドッボォン
その時は一瞬にして訪れた。
「グワァァァァァァァァァァァァァ!!」
体が異様な熱さに包まれるのを感じる。
緑色の液体は私の体を瞬時に溶かしていった。
この溶液が何か私にはわからない
だが,おそらく強酸か何かだろう。
――痛い……痛いよぉ……
最初はそう思った,だがやがて自分の体が痛覚さえ感じなくなった。意識が少しずつ薄れていく。死の間際で妻と子供の顔が脳裏に浮かぶ。
何とか助かろうと手を伸ばすが,誰かが助けてくれる訳ではない。
私はゆっくりと意識を失っていった。
――アリス……シエンナ……すまな……かっ……た……
「お前のような人間は,神の生贄となり,
そして我々“上位種”の糧となるのがふさわしいのだ」
黒いフードをかぶった者たちの鎮魂歌がうっすらと聞こえる中,
最後に男が何か言ったのが聞こえたが,何と言ったかはわからない。
やがて何も感じず,何も聞こえなくなった。
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