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1話『空に舞う者』

 広く清々しいほどに青い揺らめく海に陽が煌々と降り注ぎ、海原は白く細かな煌めきを返している。空には雲が点々と浮かんでいた。

 その中の一つ、この空にあっては一番大きな雲が東へと向かって流れていく。その雲が突然弾け、爬虫類のような鱗に覆われてぬらりと陽の光を返す巨大な頭がそこから顔を出してきた。それに続いて長い首が、その首の五倍ほどの長さもあろうかと思われる、薄く広い翼、そして引き締まった胴体に彗星の尾のように長い尾がのそりと出てくる。

 それを追うかのように8つの同じ巨影が現れ、そしてそれに続いて、さっきの巨影より一回り小さい影が16ほど飛び出してきた。

 先に現れた『龍』の、巨鳥を想起させる翼の有機的な見た目とは違い、直線と幾何学的な曲線で構成された、ガルガンドーラ王立海軍艦隊航空隊第843飛行隊に所属する16機のシーサイクロン戦闘機の横腹には、青、白、赤の円で構成されたラウンデルが描かれていた。

 843飛行隊の面々が駆るシーサイクロン戦闘機16機が、青く揺らめき陽が煌々と降り注ぐ海の上で、9匹の龍の群れと空戦を繰り広げていた。

 その中の一機が、機首を天へと突き立て、勢いよく上昇を始める。その機体に2匹の龍が追従する。そのシーサイクロンが雲を突き抜け、それに続いて龍が雲を引き裂いて顔を出した瞬間、そのシーサイクロンの僚機が突っ込んできて、一匹の龍に機銃弾の雨を叩きつけた。

 龍はその黄色の目から色を失わせ、頭をだらりと垂れる。そして龍は力無く背中を反らして翼をだらりと下げたまま、宙で勢いを失ってゆっくりと落ちていった。

 上昇していたシーサイクロンは、翼を翻して今度は降下を始める。仲間を撃ち殺されて怒りに駆られたさっきのもう一匹の龍がそのシーサイクロンに追いすがっていく。シーサイクロンは、龍がその鼻先を機尾に付けようとしたその瞬間に、機首を左斜め上へと持ち上げ、そのまま銃のライフリングをなぞるように一回転する。その動きに追いつくのがワンテンポ遅れた龍は、旋回して速度を落としたシーサイクロンの前方へと押し出されてしまった。

 黄色い目が左後ろへとぎょろりと向けられる。その先にいるのは、陽の光をうけて風防を白く輝かせるシーサイクロンの機首だった。

 龍の網膜に、排炎でゆがむシーサイクロンの姿が焼き付いたその瞬間、シーサイクロンの両翼から8筋の曳光弾の雨が放たれた。徹甲弾が龍の硬い鱗を食い破り、焼夷曳光弾がその傷口を燃やす。やがて、龍の翼に火がついた。龍は慌てて翼をはためかせて火を消そうとするが、逆にバランスを崩してきりもみ状態に陥り、更にパニックに陥る。そうして、火だるまとなった龍は急速に高度を落としていき、そのまま海面へと叩きつけられた。

 その水柱は、その龍を撃ち落としたシーサイクロンのコックピットからも見えていた。水柱が落ち着くのを見ていると、そのシーサイクロンのパイロットはふと、背中にちりちりとした視線を感じた。

 冷静に操縦桿を左斜め手前に引き倒す。そうしてさっきと同じ機動をし、龍を前に押し出した。しかし、龍はすぐに右に身を翻してシーサイクロンの機軸上から逃れる。シーサイクロンがそれを追って右に旋回する。龍はまた身を翻し、今度は左に避けた。そうしてシーサイクロンと龍は8の字型の円環の軌跡を空に描いていく。

 何回か交差を繰り返した後、シーサイクロンは右に切り返しながら垂直尾翼を左に切り、その機首が空へと向けられる。回転しながら上昇したシーサイクロンは、大きく山なりの軌道を描きながら右へと旋回をする。

 上昇しながらロールをしたシーサイクロンは速度を失い、龍を押し出したが、その間に龍と距離が空いてしまっていた。シーサイクロンはそこから機首を下げて緩やかに降下しながらスロットルを上げて増速した。

 それまでの機動で速度を失っていた両者の距離が縮まっていく。加速力なら、この龍にシーサイクロンは負けはしない。あっという間に龍とシーサイクロンの距離が狭まり、いつしか風防正面で龍の翼が激しくはためいていた。

 一閃、シーサイクロンの両翼から光線のように大量の曳光弾が放たれる。至近距離から撃たれた龍の翼はズタズタに破れ、根元から千切れて落ちていった。バランスを崩す龍のすぐ右脇を、シーサイクロンがすり抜けていく。操縦桿を思い切り右前に倒して、風防の正面に広がる龍の右翼を避ける。視界がぐるりと回り、シーサイクロンの風防の正面の先に青く輝く大海原が広がっていた。シーサイクロンは降下した速度を使って上昇し、また違う龍へと狙いを定めてダイブしていった。

 人は中央海という一つの海域の中で生き、そして互いに争いながら、または龍という別種の脅威と戦いながら文明を築いていっていた。

 のどかな昼下がり。陽が燦々と降り注ぎ、煌々と波間を照らしている。深い青たちはそれを受けて眩い光を天へと返している。そこから2000メートルほど上空で死闘が繰り広げられ、かつて空を支配する王者であった龍が一方的に駆り立てられていた。

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