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8 落ちこぼれは対話する

 本日晴天。心も晴天。そんな日に私が来ているのは数々の職人が集う技術街だ。細やかで美しい彫刻が溢れる貴族街とも、賑やかで活発な印象を持つ商人街とも似つかない。だからといってスラムのようなおどろおどろしい雰囲気もない、変わった場所だ。

 全体的な道は狭い。メインストリートですら六人がギリギリ並べるかといったところで、狭い道は人一人通るのが精一杯だ。道より広い店内には街の印象からは考えられない繊細な作りの品々が並び、触れることすら躊躇うような芸術品が置いてあることもある。


 私はそんな技術街の神聖具専門店に来ていた。神聖具というのは私の使っているフルートのような神聖力を込めることができる道具のことで、目玉が飛び出るような値段がする。ティトル校に在学している間だけは半額で買えるので、その制度を使わない手はない。

 だから私は学校が休みだと言うのに制服を来ているのだった。


 私が尋ねた神聖具専門店は知る人ぞ知るお店だ。メインストリートから脇道にはずれ、三つ目の角を右に曲がり、二つ目の角を左に曲がる。そこから更に二つ目の角を左に曲がり直進して、フクロウの看板が出ている店を突っ切り、右手にある鷲の扉をくぐった先の三原色の扉の黄色を選ぶ。

 どうしてこんな面倒な道を通らなければならないのかと言えば、最後の三原色の扉が正しい道を通ったものだけが色がついて見えるという仕組みだからだ。建物自体が神聖具なのである。大掛かりすぎてびっくりするし、なにより誰が神聖力を込めているのか……疑問でしかない。


 ともかく辿り着いたその店には、ただ一人の職人がいる。周りからはマスターと呼ばれているその職人はキリを使って薄い板に穴を開けていた。作業が終わるまで声をかけないようにしないと。後からドヤされてしまう。

 ちょうどその時。マスターがキリを置いた。


「マスター!」


 わたしはすかさず声を上げる。このタイミングで気づいてもらえなければ、かなりの時間待つことになるのだ。


「……ああ、一年ほど前に来た餓鬼じゃねぇか」


 よかった。マスターが私に気づいてくれた。ほっとしたものの、マスターが私を覚えていることに怯えてしまう。私前回何かしただろうか。


「今日はなんだ。フルートか?」

「はい。メンテナンスをお願いできますか?」


 カウンターの前に立って私が差し出したフルートを受け取るマスターは、つり上がった鷹のような目を光らせるとフルートを隅々まで見る。


「相変わらず最高の仕上がりだな。シリーズLUXE桁番号八十八番は」


 実は、私がお義母さまから受け継いだこのフルートは、マスターが作ったものなのだ。この店を私に伝えたのもお義母さま。マスターとは古い友人らしい。


「だが、ダメだなこれは」


 びくり、と体が震える。私は何かやってしまったのだろうか。昔のように床に落としたりはしていないし、振り回すこともしていない。……いや、この前ぶつかって落としたか。でもそれを除けばなにかした覚えはない。


「そんなに……酷いですか?」

「ああ。神聖回廊が埃を被っている。物理的な汚れはないがすり減りがあるってこたぁいつも八十八番(こいつ)を使ってるんだろうが、おめぇさん、神聖力をつぎ込んでないな?」

「……っ、すみません」

「大事にしてるのは伝わってくる。事情があるんだろう。だがな、使われていないことによる消耗が激しいんだ。時間がかかるぞこれは」


 マスターの見立てによると、数日はかかるらしい。その間の授業で使うための代替品を貸してもらい、カモミはその店をあとにした。


「……神聖力、どうして使えないのかなぁ」


 悩んでも答えは出てこない。うじうじしていないで次へ進もう、と前を向いた時だった。目を開いたすぐ側に、知らない人の顔があったのだ。驚いて思わず足が下がった。


「う、わぁっ!?」

「おおっ!?」


 相手も驚いて三歩後ろに下がる。離れて気づいたけれど、相手の男の子が着ているのは、私とおなじティトル校の制服だ。どこかで見たことのある顔立ちの彼は、手を顎にあてながら私をじろじろと見る。できるならやめて欲しい。なんとなく……気分が悪い。


「君……もしかして、図書館の子?」

「え? あの、あなたは……?」


 へらっと笑う彼は図書館で私と会っているらしい。でも誰かと会話したのはレイ君がはじめてのはず……。

 考え込んで数秒、彼の姿の心当たりが浮かんできた。


「ああ! レイ君のお友達の……!」

「あ、そうそう! 思い出してくれてよかった! あらためて、俺クレマティトゥ・レ・ヌヴォリシューっての。クラスは(シールド)。よかったらマティって呼んでね」


 マティと名乗る彼は、周りにいなかったタイプだ。ひょうひょうとしていて、それなのにどこか軽く緊張感のあるようで。貴族とは思えない姿だけれど、これで公爵家だというのだから驚きだ。


「私はカモミ・デ・フルー。クラスはフルートです。 マティもメンテナンスに?」

「そうそう。シリーズLUXEのメンテナンスは本人に任せるのが一番だからなぁ」


 その言葉に、私は思わず目を見開く。


「マティもシリーズLUXEを使ってるの!?」

「そそ。あれ使い勝手いいよね。今王宮では神聖具師ゴドウィンって人のが流行ってるけど、俺はいつまでもこっち派」

「聞いたことないな……。でも流行りの人のって手に入れるの大変そう」

「ほんとそれな!」


 マティは軽快だけど話しやすいというのが分かった。少し警戒していたのが申し訳ない。


「ねぇ、もしこの後の予定ないならちょっと俺とお茶しない?」


 その言葉についうなづいてしまうくらいには、心を許していた。



 >>>



 技術街から外へ出て、隣の商人街へ向かう。商人街にしては人の少ない脇道にあるオシャレなカフェにマティは案内してくれた。彼曰く、貴族が表に出せない話をするのに便利なんだとか。


「こんなところがあったんですね……」


 完全個室で窓のない部屋だけれど、居心地は抜群だ。


「俺もあんまり来ないけどね〜。人付き合い疲れた時はここに来るよ。オアシスだね」

「じゃあ、どうしてそのオアシスに私を……?」

「カモミちゃんは男爵家だけど貴族だし、レイのことはあまり知らない子に知られたくないからさ。あとばらすつもりとかないでしょ」


 信頼されていることは嬉しい。でも、レイのことって……何か忠告をしに来たのだろうか。


「おまたせしました。マロングラッセが二つになります。お呼びでしたら呼び鈴を鳴らし、札を回してください。では失礼致します」


 店員さんが置いていったマロングラッセを見ていても、私の気分は上がらない。


「どしたの? 食べないの?」

「……忠告ですか?」

「ありゃ、警戒されちゃった? 違うよ別に。いやそうかもしれないけれど。カモミちゃんとは仲良くなりたいと思ってるし、レイとのことを邪魔するつもりもない」

「じゃあ私を呼んだのはどうして」


 マティはマロングラッセを食べる手を止めて、真面目な顔で私を見た。


「カモミちゃんを呼んだのは、レイのそばにいるなら覚悟が必要だって言いに来ただけ」

「覚悟?」

「そう。あいつを理解したいなら、あいつの背負っているものと向き合わなきゃならない。そう伝えたかっただけ」


 いじわるで言ってるわけではなかった。純粋にレイ君を心配しているのだろうけど、私にはどうしても理解できない。私もレイ君も、もう子供と言われて守られる年齢はすぎているのに。出会って数分の人に心配されるようなことをした覚えもないんだ。 私はマティの目を見返した。


「友達になるのに、どうして覚悟がいるの?」

「え、?」

「私は確かに何も知らないけど、でも友達になるのに過去は直接関係はないでしょ」


 分からない。私にはわからない。マロングラッセに手をつけず、私は席を立つ。


「マロングラッセは結構です。私はこれで失礼します」「え、いやちがっ」


 何か声が聞こえたけど、気付かないふりをして私はそのまま部屋を出て帰ることにした。

 寮の自室に着いてからもマティの言葉は胸に残り、私は悶々とした気持ちを抱えながら眠りについた。


「覚悟なんて……わかんないよ」

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