表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

技者警察 メンバー :イエロー

前回までのあらすじ


紅菜「人類の二割から三割が能力を使える世界で、能力が使える者を技者と呼びます。その技者の集まる警察が技者警察です」


イエロー「で、ミドリが技者警察に入ったんだ」


紅菜「そうですね。ミドリ技查の初任務も終わり、今日は二日目。どんな物語が待っているのでしょうか────」

 二日目の朝日。

 私は光に打たれながら建物に入る。まだまだ緊張は消えてない。緊張で心臓が速く動くがそれを抑えながら進む。


 ふと建物の影から顔を覗く男性。肩の上ぐらいまで伸びた黒髪。その内何本かは様々な明るい色に染めてある。腰には幾本かの刀をつけており、クールに気取った厨二病臭い見た目。長髪に隠れかけた鋭い眼光と整った顔立ち。意外と(カッコイイから)悪くない。

「お前が新たなメンバーか……。ついてこい」

 彼はそう言って、影炎に包まれた闇へと消えた。私が追うとさらに闇に隠れた場所から顔を見せる。さらに、追うと人気ない視線を感じない中庭だった。真ん中に射し込む光が私たちを照らす。

「ここは警察署付属、技者警察舎の中庭だ。あまり人気もなく勝負には向いている」

 勝負……?

 彼は一人で勝手に話を進めていく。

「俺は宵闇(よいやみ)黒羽(くろは)。手合わせすれば相手を知れると言うだろう」

 全く話についていけない。「言いますっけ?」

「殺す気で来い。そうでなければ相手にもならないからな……」

 なんか勝手に勝負することになってる……?

 状況を確認している内に話は進み「勝負」を受けるしかなさそうだった。私はここまでで彼が話を聞かない性格ということを悟った。手合わせしなくてももう充分に理解した気がする。

 彼は鞘から片刃を取り出した。射し込む影炎が刀を反射し、黒羽をよりかっこよく見せる。他にも鞘があったが刀は刺さっていないことに気付いた。多分ダミーだろう。

 私は勝負をする気はない。武器がないので勝負は出来ない、というのを理由に逃げようと考えた。

「ごめんなさい。私、武器がないので……」

 そう言って逃げようと足を退いたが無駄だった。彼は私の武器のリコーダーを持っていたのだ。まさか一枚上手だったとは……

 黒羽は「ふっ」と言いながらリコーダーを投げる。私の武器は官舎に閉まっていた。そこから取るのは簡易だったのだろう。

「安心しろ。そう思って、先に取ってきておいた」

 かっこよくキメるが、よくよく考えたら盗みと同じでは? 頭の中では、放課後誰もいない学校で女子のロッカーからリコーダーを盗む変態が浮かぶ。その変態のイメージと黒羽の残像が重なってしまった。


「さあ、するぞ。神聖なる決闘を────」


 警察同士の決闘は認められてない。訓練での手合いはあるが、武器を持っての手合いは許されてない。つまり、この決闘は許されてない。何が神聖なのか……私は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。



*



「遅いなぁ……ミドリ」

 赤尾は来ないミドリを心配していた。

「この建物に入るのを見ましたので、来ているはずなのですが……」

「もしや、『入りたてほかほかの新人には合わせたくない四天王』に合ってしまってトラブルになってるとか?」

 イエローは何も考えずに発した。

 が、その言葉をよくよく考え、「あっ」と続けた。それを機会に四人の声が重なった。


「「有り得る!!」」


 紅菜は軽く手を合わせて呟く。「出会ってしまったのが宵闇技查ではなければ……」

 深いため息が吐かれる。

「イエロー……。探してきてくれないか?」

「分かりました」

 イエローは鍛えられた足で官舎内を走り回った。



*



 人間も動物である。子孫を残す手段を持ち、外敵から身を守る本能を持っている。猫に追い詰められた鼠が起死回生で噛み付く、いわゆる窮鼠猫を噛むことはまさに動物の持つ本能である。生き残るために無意識で体が動くということは外敵から身を守る本能なのだ。

 私は今その本能のままに武器を動かす。無意識で動く体にブーストをかけるように脳から伝達が加わる。武器のリコーダーは鉄の強度でできている特別製。それと刀が衝突し合っている。

「非力な力を技術で対処するか……」

 彼の言う通りだ。力では遠く及ばないが、攻撃を斜めにいなすことで次の攻撃までの隙を減らし、使う力を減らすことができる。だから、力差では心配はしていないが体力面が問題だ。このまま打ち合っていては体力が持たない。

 そう思っていたら、向こうが距離を離してくれた。その間に呼吸を調えた。


「何故、お前は技者警察(ここ)に入った?」


 彼は唐突に質問を投げかける。今まで見解で知り得た性格と照らし合わせれば何もおかしくはない。仕方なく話に付き合うことにした。


「え、えーっと……平和を守るためです、ね」


 補足を加える。「平和って当たり前のようで当たり前じゃないですから────」


「つまらんな。技者警察の大抵はヒーロー志望だが、お前もヒーロー志望だとはな」

「修正しますね。私はヒーローになる気はありません。言うなれば……ヒーローのいらない世界を作りたい、が本音です!」


 能力者となった人々が己の力に自意識過剰となり暴れ出す。力に溺れゆく者が広がり平和が崩れれば、そこからは地獄だ。あの景色をもう二度と作らせない。

 絶望が現れる時、救いを神かヒーローに求める。私はその絶望のない世界を目指したい。


「そうか、俺は暗殺者だ。つまり、アサシン────」


 意味が分からない。流石厨二病と感心してしまう。馬鹿を隠さないどころか馬鹿を表面に出している彼に拍手を送りたくなる。


「俺は殺しを正当化させるためにここに入った」


 ただ、その一言を聞いた時、拍手を送ろうとした気持ちは消え、代わりに殴りたい気持ちに変わった。「殺し」なんて「正当化」されない。彼は勘違いしている。そして、その勘違いを楽しんでいる。

 怒りが込み上げる。内に秘めし正義感が私を震え正せる。

 相手は少なからず警察である。それが殺すことを楽しむなんて許せない。


 今は戦闘の最中なんだ。

 笛でシーくんとニフちゃんを繰り出した。


「許さない。殺しを楽しむなんて、それも警察であるはずなのに、私には……「許せない!!」」


 妖精の攻撃が始まる。しかし、彼は容易く避けていく。

 間合いは詰めさせない。敵は刀で近距離戦を得意とする。なら遠距離戦で戦い続ければいい。


「ふっ、俺は技者は死人だと思っている。死人を殺して何が悪い」

「じゃあ、もしあなたを殺しても何も悪くはないんですか?」

「俺の中ではそうだ。だが、国がそれを許さねぇ。殺して捕まれば、俺はもう戦えなくなる。が、凶悪犯罪者となった奴となら戦闘許可が降り殺害が許される。だから、今こうやって技者警察にいるんだ」


 技者=死人。何も間違いではない。

 突然能力が使えるようになった。と言われているのはただ単に一度死んで転生したと思わないようにするため。転生によって能力を得たとは思い込まないため、突然変異で能力を得たと言っているのだ。

 だからと言って、命がある者を殺すなんて許されない。


「死人でも再び命が宿れば、それは死人ではなく人間です。その考えは認められません!! 私が勝ってあなたの考えを悔い改めます!」


 怒りに任せて発した言葉。それを聴いた黒羽は一瞬にして消えていた。

 と、思っていたらいつの間にか目の前に────

 リコーダーが弾き飛ばされ、勢いで私は尻もちをついた。さっきまでは手加減していたようだ。


「自惚れるな。お前では俺には勝てない。俺のやり方を誰かに改められる気はない」


 勝負はついたようだ。

 刀が鞘へしまわれる。そして、その場を去る。目には見えないスピードで私の瞳から消えていた。



*



「おーい、お前、何してんだー?」


 イエローがやって来た。中庭の状況を見て立ち止まる。争った形跡を見て思わず止まってしまったのだろう。連なって「何があったんだ」と聞かれた。

 私は黒羽に会ったこと、何故か勝負したことを伝えた。

 それを聞いたイエローはため息ばっかり吐いていた。


「はぁ、やっぱり『会ってはいけない四天王』に会ったのか。それも四天王の中で一番駄目な奴に……」


 私は苦笑いをしながら聞いていた。あの厨二病はあってはいけなかった存在か……と。


「そういや、お前は黒羽の考えに怒ったって言ったな……」

「え、あ……はい」

「俺もあの考えは許せねぇ、って思ってる。だけどさ……」


 私は「だけど?」と返す。イエローは頭を掻きながら喋り始めた。中庭の優しい無音がその声を反射した。


「警察だって人間だ。色んな考えの奴がいる。それが人間って、警察ってもんじゃないかな……」


 諦めなのか心に残した気持ちなのかは分からなかった。ただ、イエローの顔は空に映る白の雲を眺めていた。


「あいつは殺害の正当化だが、俺は違う……。俺はヒーローになりたくて入ったんだ」

「ヒーローですか……」


 中庭の芝生に寝転んで話し出した。


「幼い頃さ、お前も風の能力を持つ技者だから同じだと思うけど、歴史に残る世界同時大災害の一つ、東海三県を襲った四日市大台風ってあったじゃん……」


 ある日起きた世界で一斉に起きた災害の嵐。その日、彼を襲ったのは強力な台風であった。

「私は日本にいなかったので……」

 ただ、私はその時アメリカにいたために四日市大台風の被害にはあっていない。


「そうか。まあ、そういう災害があったんだ。その時小学生でさ、俺は無邪気に外に出て台風の風に飛ばされた……。それを追うように外に出た両親も飛ばされた。で、俺は何故か生き残って親は二人とも亡くなったんだ。助かった俺が家に帰ろうとしたら、その家も崩壊してたんだ。家族も家もなくなった俺はどうしようもなくなった」


 悲しき過去がゆっくりと流れる雲に合わさっていく。


「俺はその頃から摩訶不思議な能力を得ていたんだ。誰も技者を知らない時だ。気味悪く思われると震えたよ。けどさ、地域の人は違った。変わらずに、いやいつも以上に優しく接してくれた。あの時は泣いたよ。優しさに触れて泣かずにはいられなかった……」


 イエローは足を上げて戻す。その反動で立ち上がった。


「俺は優しくしてくれた地域の人々に、愛知に恩返しをしたいんだ。だから警察になった。俺が一番恩返し出来る方法、それが技者警察だったんだ。俺は地元のヒーローになるんだ!!」


 イエローは私に微笑む。その笑顔が不穏だった気持ちを和ませる。


「俺が死ぬ時は地元の皆が俺を悪と見なした時……あいつみたいな考え方をしたらすぐに死んちまうしな。安心してくれ、必要最低限度の殺ししか俺はしねぇから」


 彼の気使いだろう。黒羽の考え方を否定し、さらに私に敵対しない考えを示すことで安心感を与えようとする。


「さっ、行くぞ!!」


 イエローに連れられて、私は仲間が待つ部屋へと足を運んだ。気持ちいい程の風が私たちを包んでいた。

ストーリーの謎と鍵


・能力はどうやって生まれたのか

←災害がヒント

・どのような能力があるのか

←災害がヒント

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ