技者警察メンバー:ミドリ
5話程度で一旦終わらす予定です
突如人の身体に発現する異能力。森羅万象、各々に与えられし特殊な能力を持つ者が現れた。彼らは「技者」と呼ばれ、能力から繰り出される様々な技を用いて生活を便利にさせた。
ただ……
一見食べ物を食べやすく加工できる包丁も、使い方次第で人を殺める凶器に変わる。一見遠くの場所まで行くことのできる車も、使い方次第で容易く人を殺める走る凶器に変わる。
技者もまた同じ。生活を便利にする能力も技者の扱い方次第では大量の家々を破壊し、沢山の人々を殺める力へと変わる。
世界は広い。必ずしも皆が心優しいとは限らない。常に犯罪は起こり続ける。さらに、能力に過信し己が最強と思い違えた犯罪者が増加。この世は悪が蔓延し始めていた。
悪を断ち切り、平和を守るために今日もまた戦い続ける戦死達。悪に染まった技者に立ち向かう彼らは警察特殊技者犯罪対策課、通称"技者警察"。そして、今日もまた────
*
「平和なんてものは簡単に消えてなくなる……」
脳裏にこびりつく忌々しい記憶。
小さな身体から見える周りの世界は荒れていた。数ヶ月前とは変わり果てた姿。家々の破壊された瓦礫がそこら中に散らばり、人を人とは思わない悪人が能力を使って弱者から金を強奪する。弱者を守るものも救うものもいない。
そこで初めて知った。平和は当たり前ではなかったのだと……
あの日から何年経ったのだろう。今では大人になり、非力だったあの頃とは違い相当な力を得た。身に染み付いた能力もある。
白を貴重とした廊下。太陽が白を反射し、瞳を眩く照らす。目の前の扉が大きく見えた。この扉の向こう側には目指す夢と決意を達成するための……がある。
私は力強く扉を開けた。
扉の向こう側には制服を着た四人が私を覗く。
「初めまして。今日からお世話になります、アリア・ミドリです。よろしくお願いします」
丁寧なお辞儀と大きな挨拶で、四人の視線を焚き付けた。
その内の一人が目の前に立つ。筋肉が隆起し、制服に張り付いている。面接官の一人であった人物だ。
「ようこそ特殊技者犯罪対策課一課、通称技者警察へ。今日からよろしく頼むよ、ミドリ技查」
彼の敬礼を受けたため、堅苦しい社交辞令と敬礼で返した。
温かな雰囲気と優しい笑みが私を包みこんだ。今日から私は技者警察の仲間入りだ。
絶対に平和を守ってみせる────
心の中で宣言を放ち、扉の向こう側へと歩んでいった。
*
「俺らが取り締まる相手はざっと二種類。現行犯逮捕と令状による逮捕だ……」
日下部赤尾警技が技者警察の説明をしていく。
大まかにまとめると、現行犯逮捕と戦闘の許可された令状による逮捕は対象が重症や死亡となっても攻められないが、通常の令状などは怪我させることが出来ない。ただし、現行犯逮捕や戦闘許可があろうと技者警察は常に極力無傷で取り押さえることが求められている。
「一つの選択で英雄にも悪敵にも成りうる。それを絶対に忘れるなよ」
彼は強く念を押した。
彼の言う通りだ。英雄となっても持て囃され油断すれば一瞬にして悪になってしまうことがある。唯一平和を守るために武力を持つ私たちが悪と見なされれば、すぐに平和は消えてしまう。私は赤尾の言葉を肝に銘じたのであった。
赤尾に連れられ技者警察の建物を回った。
警察署と技者警察は別の場所にある。技者に対抗する力は技者でしかない。森羅万象を鍛えるためには大きな場所が必要となる。そのため、技者本人が力を磨くための施設が建てられたのだ。
建物の中を一週する。私は最初の部屋へと戻ってきていた。今度は何をやるのだろうか。と半ば楽しんでいた。
「次に……ミドリ技查には仲間とその能力を知って貰う。任務は極力チームで行う。そのために必要だ」
チーム……
私は輝かしい瞳で眼前の四人を見た。どんな人なんだろうか、どんな能力が飛びてるのだろうか、心で胸が踊っている。
「まずは俺、赤尾。能力は"スチームエンジン"だ。今は見せられないが、いざと言う時にパワーアップできる」
顔色変えずに話す赤尾の横で優しく見つめる女の人。お淑やかな印象。ゆったりと話していく。
「警技は大雑把で分かりづらいですよね。私が補足しますと彼は体の中で強風を繰り出すんです。そこで風力発電の容量でエネルギーを溜めることで瞬発力と筋力を上昇させ、攻撃力とスピードをパワーアップさせるのです」
赤尾が頭を掻きながら「すまねぇ、ありがとな」と感謝を述べる。
そこからは発現権がその女の子に移った。優しく包む声が安心感を与えさせてくれる。
「ご紹介が遅れました。私は赤坂紅菜です。私の場合戦闘に立つことはなく、機械による状況確認と大まかな作戦指示を出す司令部としてあなた達をサポートします」
紅菜はそこに付け加える。「いいそびれましたが私は技者ではございません」
説明は続く。
眼鏡をかけた真面目そうな女性が紹介される。その女性は伊藤シロナ。能力は暴風壁。風を纏う盾はあらゆる攻撃を防ぐらしい。
最後に紹介されたのはモンディロ・ルーク・イエロー。黒みかかった皮膚が天井から降り注ぐ光を受けてツルツルに輝いている。気軽な性格に見えた。能力は風圧。手のひらから風の衝撃波を出すようだ。
他にも仲間がいるような素振りを見せたが何故か口を閉じて知らないふりをする。私はその空気に押し負け、何も気付いてないことにした。
白が貴重の部屋に照らす陽光。頼もしい赤尾、真面目できっちりしていそうなシロナ、優しい紅菜、気安さを醸し出すイエロー。何故か温かな光に包まれたような安堵感で充たされていった。
気軽な喋り合いを通して初対面の仲間を知っていく。
平和を感じさせるこの空気感に、突如、異様な音が鳴る。空気を震えさせ、切り裂く音。穏和な雰囲気が一転して緊迫した雰囲気へと変わる。
事件が起きているようなのだ。
建物の中に響く声を頼りに状況を確認する。赤尾は冷静な判断で紅菜を初め、仲間に司令を飛ばす。私にも司令が飛んだ。
「ミドリは俺らについてこい。お前には俺らのやり方を見て知って貰う。見るだけで任務には参加するなよ!」
了解、と敬礼し走る仲間についていく。
技者警察用に改良されたパトカーに乗り込む。サイレンを鳴り響かせ、圧迫した緊張感を町に与えさせた。
車を端に分かち、速い速度で車道を走らせた。
*
家々が崩壊する。逃げ遅れた人間がプロペラに巻き込まれ命を落とす。プロペラの能力が一時の地獄を作り出していた。
金もない、仕事もない、そんな落ちた人生。世界で二、三割しか存在しない技者。何故技者ではない下々が金も仕事もある充実した人生を過ごして、選ばれし技者である自分が物乞いしているのだろうか。
考えれば考える程に世の中に怒りを覚える。自分のプロペラがこの理不尽な世界を切り裂くんだ────
周囲に残るは残骸のみ。
彼は次の場所に向かおうと足を上げた時、サイレン音が聞こえる。理不尽な世界が続く一番の原因。新たな夜明けのためには保守的な警察を破らなければならない。今日はその一歩だ。
自分の能力なら敵が技者であろうと負けない。プロペラは最強の能力だ、負けることはない。
対象は一人だが油断するなよ────
赤尾の一言が士気を高める。紅菜の作戦を頭に入れ、その通りに進めるために一直線に走っていく。彼とイエローが前に進む。五歩遅れてシロナが進み、さらに五歩遅れて私が進む。
身体が高速で一週回る。そのスピードが伸ばされた回る腕に鋭い刃を与えていた。螺旋に当たればひとたまりもない。それなのに彼らは臆せず敵前に入る。
回転する腕の下に入り込み懐に入るイエロー。そして、手のひらから繰り出される衝撃波が敵を空中に吹き飛ばす。
イエローと赤尾の連携。「任せた!」
敵はプロペラでバランスを取る。螺旋は続くがそれでも赤尾は向かっていく。全力で螺旋に殴りつける。
「痛ってぇ!!」
回転が止まり、敵は自由落下に入る。強烈な痛みが敵の行動を奪っていたのだ。瓦礫の山に落下し、埋もれた。そこを三人が囲んだ。もう彼に逃げ場はない……
「大人しく捕まるんだな……」
赤尾の声が透き通る。その声が対象を絶望感で包ませるのを感じた。
これが技者警察の力。私は遠くから眺めていて、実力の違いを痛感した。私には足りないもの。敵の攻撃にも怖気ないで突撃する勇気、一糸乱れぬ行動、個性的な能力を一切無駄にしないチームバトル。私はこの中で身につけていくんだ────。そう呟いて羨望と決意の眼を彼らに向けた。
再び闇が照らす世界に堕ちる。
自分はこのまま捕まるのか? 敵も選ばれし技者。一筋縄ではいかなかった……。手段は選んではいられない。終わりよければ全てよし。最後に笑った奴が"正義"なんだ。
相手は油断している。その中でも傍観しているのが一人。見た目弱そうな女だ。やるなら彼女しかいない。
足をプロペラに変えて一気に飛び出し進む────
理不尽な世界を変えるのは自分。選ばれし技者の中でさらに選ばれるべき神は自分以外いない。神である自分が失敗する訳にはあかない。
焦燥の絡む声を放つ赤尾。「ミドリ、武器を取れ!!」
その一言で察した。焦り、つまり敵に出し抜かれたのだろう。そして、武器を持たせることは臨時戦闘態勢にさせること。私に戦わず見ておけと言ってたが、そうは出来なくなった理由でもあるのだろう。
その一言を聞いて咄嗟に内ポケットに手をかけた。
「殺してやる!! 理不尽な世界を切り裂く、その一歩」
踝から下が高速回転し、地面スレスレを飛んでくる。イエローや赤尾の攻撃を左右に動くことで避け、シロナの作り出した壁は急上昇と急降下で回避。着実に私に向かって来ている。
やはりそういうことだったのね。私は武器を取り出した。
「なんだ? リコーダーでも取り出して」
武器はリコーダー。戦闘には一件関係なさそうな笛を見て不気味な笑みを浮かべる敵。完全に舐めきっているようだ。
戦いでは一瞬の判断が命取りとなる。特に、見知らぬ相手との戦いは敵の手の内が分からず気を抜けなくなる。敵が弱そうと見切っていると、起死回生の一髪を受けやすい。油断は命取りになりやすい。
今まさにその状況。敵は心に余裕を持ち油断している。
私はリコーダーで召喚の音を奏でた。
召喚:シーくん、ニフちゃん
突然パッと現れる風の妖精。小さい球体型が印象的だ。シーくんは悪戯が好きそうな男の子の顔をしていて、風の纏う腕がたいている。一方ニフちゃんは静かそうな女の子の顔をしていて、周りに大きな腕が浮かんでいる。
私の奏でる音楽が二つの命に命令を下し動かせる。二体の強烈な殴りが敵を地面に打ち付けた。ダメージが重なり動けなくなる敵に追い討ちをかけるように拘束技をかけさせる。
赤尾は「流石だ」と言い、同時に対象に手錠をかけていた。左手にかけている時計を見て終わりの一言を放った。
「四月十一日 十七時三十四分 現行犯で逮捕」
夕日に変わる日差しに打たれて犯人をパトカーに乗せる。
初めての任務が終わった。今日も一日、平和を守れた。その達成感が疲労へと変わっていった。
能力風妖精。妖精を召喚し操る。
武器はリコーダー。
そして、モットーは"平和を守ること"────
鮮やかに流れるサイレン音が始まりのオープニングを飾った。
たまたま激しいバトル系を書いて息抜きしようと思って作りました。本命はクラブボランティア(シュガーデイズ、レインボーライフ)です。よければそちらもご覧下さい。ほのぼのかつシリアスストーリーです。