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レイヴパーティー

 ◇



 窓を見下ろすと、黒塗りの高級車がはるかに家の前に停まっています。


 運転席にはいかにもな柄の悪いチンピラがこちらを見ている。

 後ろの席からリアナが降りてきた瞬間安堵した。


「はるちゃーん!迎えに来たよぉ〜!」


 今日は彼女達が待ちに待っていたレイヴパーティーだ。

 車に乗ると助手席にはオシャレな男性が座っている。彼と運転席の男性はPsychedelic trance界隈では有名なDJで、オシャレな方の名前はしゅんや、いかつい方はゆうじだという。


 人見知りをしないはるかはすぐに仲良くなり、以前からリアナの家でよくかかっているサイケにハマっていたので、最近界隈で流行りの音楽をガンガンかけながら車内では話も盛り上がっていた。



 いよいよ現地に向かう一行。


 会話の中で大量の荷物を整理し出すリアナは急に笑顔になって一本のジョイントを手に取り助手席のしゅんやに向かってアピールをする。

 彼も笑みを浮かべ、手渡されたものに火を付ける。


 2、3服するとはるかにまわってきた。あれからリアナとずっと一緒にいたので、もう慣れたものだ。

 続いてリアナ。はるかの渡し方も様になっていた。幸せそうにローチにキスを数回かわして大きな煙をあげながら運転席のゆうじにも回そうとするが、彼は拒否した。

 ゆうじは日本で禁止されているものには手を出さない。そもそもお酒は嗜むが一般に売っているタバコすら吸わない。

 すでに悟っているのだろう。

 例え吸引が合法であってもだ。そこらへんは日本を代表するオーガナイザーだけはある。

 人は見た目によらないんだなぁと感心するはるかであった。


 かなり長時間の旅にもかかわらず、車内ではワクワク感を隠せない様子の4人は笑いに包まれながらワイワイしていると、かなり山奥に辿りついた。

 絶対に人が住んでいないような山道をくねくねと曲がりながら登ってゆく。


 まさか姨捨山?もしかしたらこのまま山に捨てられて埋められるのでは?と勘ぐるはるかだった。


 会場が近づいてくると、ドンドンドンドンと重低音が響いてきた。この高揚感は例えようがない。


 やっと到着したのか、ひときわ大きな駐車場に車を停めて外に出ると大きな音楽が鳴り響いている。

 早朝にもかかわず数台の車が止まっていて、同じように車で来ている大勢の人たちと共に歩いて会場に向かう一行、だんだんと音が近づいてくる高揚感はなんとも言い難い興奮である。


 ゆうじとしゅんやは人々に囲まれて次々と挨拶されている。


「じゃあ先行ってるね〜」とリアナが言うと別行動をすることとなり、二人きりで大きな音がする方へと向かう。



「口開けて。」

 そう言うとラップに包まれた銀紙を取り出して、リアナは何か企んでいるような笑顔で見つめながら、ラップと銀紙を剥がして何度か何かをちぎっては自分の口に入れていく。



 もうこの際なんでもいいや、とレイヴマジックにかかってしまっていたはるかが大口を開けると、わずか1㎝四方のブロッターと呼ばれる小さな紙片を1枚を放り込まれた。


 無味無臭なのでなんの違和感もなく、舌の裏にくっつけたままにしておいてほしいと頼まれたので素直に従うことにした。


 これがなんなのかと尋ねてもリアナはもうすでに近づいてくる音に合わせて体を揺らしながら夢中になっており、もうまともに話をできるようなテンションではない。


 すでに少し大声で話さないと聞こえないような大音量の自然溢れる道を駈け上がると、そこには大きなブースとスピーカー、サイケデリックな装飾や複数のテントなどがそこら中に広がっていて、フロアやブースから遠くに離れている人たちまでが激しくダンスをしている。

 もうほとんど会話できるような音量と空間ではない。


 その光景に驚き、なんてカッコいい人達なんだと思い、はるかの体もリズムをとらずにはいられなかった。


「まずはテント張りよ!ここにしましょう!」と大きな荷物を背負って歩かされたはるかたちは相当大きなテントを張って中にテーブルなどをセットし終えると、疲れた様子で休憩していた。


 そこでしばらくするとはるかは脳と身体に異変というか違和感を感じる。


 少しゆらゆらした感覚に襲われ、なんとなく呼吸がおかしくなってきたような気がしてくる。

 思考の堂々巡りは止まらず、おもわず一瞬外を覗くがその一瞬見えた映像がすごく変で鮮やかなイメージに見えた。

 ん?今見たのは現実か幻覚かどっちだろう?と、思う半分夢の中にいるようで説明不可能な気分になり、あの時飲んだ試験管の液体の時のデジャヴが訪れた。

 指先がうっすら痺れ、皮膚全体がつっぱる。

 意識そのものに集中線をかけたようなスピード感があり、喉のあたりの不愉快感がたまらなくなる。


「リアちゃ、なんか吐きそう…でも、普通の吐き気とは違ってなにか独特な感じ…」


 リアナはなぜか笑顔でこちらに火のついたジョイントをこちらに渡しながら、「きたみたいね、私もよ。吐き気にはこれが効くから。」と吐き気にも効く効能のある万能草を吸い込む。

 するとゆっくりその吐き気は収まっていったのだが、いつも吸っているものなのにそれ以上に増した高揚感がある。尋常ではない感覚だ。


 リアナと楽しく会話しているのだが、その会話が早送りになったり、自分自身の発言も早送りになる。

 自分で時間をコントロールしているような気さえした。ゆっくり元に戻ったり、また映像が早送りになったり。


 リアナはゆっくり立ち上がり「外に出よう!」と促すと快諾したはるかはテントの外に出た瞬間、世界が非常に明るく壮大な太陽光に照らされる。


「え、な?!」


 すると目の前の世界がピンクと緑色が混合した色彩で視界が歪んで見えている。そんなことより音がやばい。

 音楽が形となって飛んで来て耳まで入ってくるまで見えるのだ。

 やがて立体感がなくなり、完全平面に感じられたり、体が異様に軽くなり幽体離脱しかけたはるかの手を必死でひっぱるリアナ。


 達観と癒し、現実から引き剥がされるような妙な非現実感に戸惑いながらも、息を吸うたびに高い世界へ昇ってゆく。

 光に包まれ、今にも神仏が顕現しそうであった。


 時間がコマ切れになったり、一瞬止まったり。ポケットからスマホを出すと、腕の通過点数カ所で一瞬時間が止まる。

 動作というものを別視点から見ているような、別の意味を持っているようなそんな感覚。

 そして最終的に腕と手が目的地についた後、ん?動きってなんだろ?と思った。

 時間を見ようとすると、時間が分かりません。


「時間ってなんだっけ?」


 その言葉を聞くと隣で笑い転げるリアナ。


 歩いてブースまで向かおうとするリアナの両肩を強く掴かみ、「何飲ませたの!?」と問い詰める。


 リアナはバッチリ開いた眉間の眼でテレパシーを送るのが、見えてハッキリ理解した。


 頭にはっきり浮かんできた文字は「L.S.D 」の三文字のみであった。

 全く知識のないはるかでもこれがなんらかの脳に作用する精神物質というのだけははっきりと理解ができた。



 LSDなどの幻覚剤は、脳を「高次の意識状態」にするという英国の研究結果がある。


 幻覚剤を使うと、精神が開放されたり、感覚が研ぎ澄まされたりするといわれる。英大学の研究により、そうした体験が起きることが脳科学的に説明されたという。


 精神、意識の拡張や無我の境地、また、通常の感覚を大きく卓越した知覚や色彩感覚を誘発し、精神活動の多様性を増加させるようだが、それらがついに脳科学的な裏付けを得たようだ。

 厳重に管理された摂取量ならば、重度のうつ病患者などの医学的治療薬として役立てられる可能性があると、研究者らは期待している。

 致死量や毒性も依存性も全くないのだが、合法の国は大麻ほど多くはない。


 それに加え、Appleの創始者であるスティーブ・ジョブズが、「LSDの体験は人生で最も重要な経験の1つ」としてすすめたことで、アメリカを中心にLSDの効用が注目されるようになった。






 光はどんどん輝きを増して来た。赤、黄、緑と、シャボン玉の表面のように次々に色を変えていく、そして、青、紫と変わり、また赤へと戻る。

 その様子はまるで光自身が自らの輝きを楽しんでおり、非常に神秘的な体験をしている。目を閉じると動く幾何学模様がとにかく美しい。

 視界全体に花火が打ち上げられているかのような状態にもかかわらず、無性に踊りたくなってきたはるかは駆け足で大自然に囲まれたダンスフロアへと向かう。


「走ったら危ないよ〜」


 リアナは事前の忠告通りに従うようにするように強く説得した。

 摂取してからまだ1時間ほどしか経っていないのでまだまだ序の口だと経験者は語る。


 途中はるかは植物の造形の美しさに見惚れる。まるで意思を持っているかのように今にも語りかけてきそうだった。

 あたり一面に大自然が広がっているのだからこれほどうってつけな場所はない。


 寄り道しながらもやっとフロアにたどり着いた2人。

 華麗なステップを踏んで得意げに踊りだすリアナに負けじと重低音キックに合わせて足踏みをしているだけで、身体が勝手に踊りだす。

 手はまるで太極拳のように滑らかにすべり、指先は天井に向かってピアノを弾いているのうな動きになっていて、何重にも積まれた大型スピーカーから流れる爆音とともに躍ることがとにかく楽しくて楽しくて仕方がない。



 しばらく踊っていると周りの人達は早送りで踊っていて、はるかはスローモーションで動いていたことに気がつく。

 第三者視点で世界を見ているので自我のくだらない思考は気にならない。


 踊りに入ると没頭して踊ることしか考えられない、というか思考自体が無我で悟りの境地にいることを知る。

 LSDの効果がどんどん上がっていきすぎているのを感じた。

 目をつぶってみると、まぶたの裏に広がる壮大なる動く万華鏡が見える。この幻想世界から逃れるすべはないと悟る。内心かなりやべぇ〜ッ!とか思っている。


 躍りながら周りを見渡すと、人が緑と赤の残像をつけているように見え、同じように音に身を任せている人がほとんどで全てが一体感が溢れてきた。


 サイケトランスには決まった踊りなどはなく、皆感じたままに身体を動かすのが基本であり、人それぞれ色々なダンスをしている姿を見て人間観察するのも楽しい。

 激しい踊りをしている人やヨガダンスと呼ぶに相応しいスピリチュアルな動きをしている人など様々だ。


 次第にはるかは全てを理解した。根拠はないが、それが真実であるという確信がある。自分が神にでもなったような全知全能の気分だった。


 音が目の前を通り過ぎていく。ふと端っこにあるサイケデリックアートを見ると絵がこっちに向かって飛び出して動き回ってきた。

 絵を描いている人もいて、その人が動く絵を描いているのかと勘違いする程に錯乱していた。

 サイの鳥獣戯画かよ。


 次々と新しい人たちがやって来て、ブースも2つあるような大規模なステージで、ものすごく広い場所なのにかかわらずフロアは超満員になってきた。



 はるかはしだいに手足の感覚も曖昧になっていた。

 ニエリカの入り口にいるような錯覚に襲われ、やがて宇宙とひとつになった。



 どこやかに移動しまくるはるかについて行くのが必死で、身長の小さいリアナは背伸びをしながらはるかの腕を掴んで耳元に口を近づけ、大声で

「人多くなってきたからはぐれないようにねー!」と叫び、心配する。


 あまりにもハイになりすぎているはるかはリアナに抱きついて耳元で「あの時みた宇宙の中心の光がはっきり見えるのー!」と叫び返す。


 かなりええとこイッてまんなぁと思っていたリアナだったが彼女は3枚食ってるのでもっとブッ飛んだ体験をしている。なのではるかのことを心配するも、激しい音楽に抵抗することができず、またすぐに踊りのゾーンに入り出す。


 案の定はるかはもうわけがわからない状態なので、リアナと完全にはぐれてしまった。

 テントに向かおうと決心するが、空間把握能力が狂っていて物体の遠近がハチャメチャであるため、なかなかテントが見つからない。

 全てわかっているような感覚があるのにわけがわからない。どこか矛盾しているようだがこればかりは体験者しかわからないだろう。


 人をかき分けてリアナを探すが見当たらない。

 もうはるかは既に色がすごいのでほとんど目が見えていない状態になっている。

 しかし、まだまだこれから。

 これがただの1回目のピークだと言うことを彼女はまだ知らない。


 フロアにいないのでまたテントの方向に向かい、特別大きな黄色いテントなのはわかってはいるが場所がわからずこれ以上ないほどの不安が襲ってくる。

 ちょっとヤバくなり過ぎていることを察知した。

 ふらふら彷徨っていては他の人に迷惑をかけてしまう可能性があるを悟ったはるかは端っこの大きな木に腰掛けてうずくまってしまう。


「大丈夫?」と声をかけて来たのは宇宙人だった。

 ずいぶんオシャレで友好的な宇宙人だなぁと思っていたが、よく見ると一緒に来たDJしゅんやだった。

 そのことがわかった瞬間、彼の姿が宇宙人から神々しい神様のように見えてきた。

「あーリアナさんとはぐれちゃったかぁー、草しか吸ってないんでしょ?」

 しゅんやはこちらを見つめるはるかの瞳孔がこれ以上ない程にガン開きしているのをみて「もしかして、エル食ってる?」と聞くとすぐさま頷く。

 はるかは罪悪感に包まれ、「ごめんなさい!ごめんなさい!」と何度も何度も謝り続けた。


「大丈夫だよ、君はなにも悪くないよ、もっと力を抜いてリラックスして。効果が切れると元の自分に戻れるから。とりあえず深呼吸しよう」

「大自然の良い気を大きく吸って〜、不安や罪悪感を全て吐き出す〜。」


 それを数回繰り返すだけで少しマシになってきたどころかまたいいトリップ状態に戻っていったのである。

「ありがとうございます!神様!」とお礼を言って彼を見つめるがやはり神様にしか見えない。


 ちょっと羨ましそうな表情ではるかを見つめていたら「はるー!」と声が聞こえる。


 二人とも声のするほうを向くとリアナがお得意の千里眼ではるかを見つけてきたのである。


「あっち行ったと思ったらこっち行ってもう!え?なに?もしかしてBAD入ってんの?」

 心配そうな表情で膝に手を当てながらはるかに目線を合わせる。


 ことのあらましを話し、もう大丈夫だということを知ったリアナはまた腹を抱えて爆笑する。

 つられてはるかも笑いだす。この笑いのループからはなかなか抜け出せなかった。


「ごめんね〜しゅんに迷惑かけちゃったみたいだね〜、ん?」

「何分笑とるつもりや!!」

 楽しそうに笑いが止まらない2人を見てツッコミを入れることしかできず、少し物足りなさを感じながら。

 なにやらリアナとしゅんが話している。

「それじゃあ、テントにおいで。」一瞬ニヤッとしたのがうかがえた。


 迷わずにテントの場所を再び把握しながら進むはるかは楽しそうに話す2人に少し嫉妬してしまう。


「このテント使っていいよ」といって上り込む3人。


 テントに入るやいなやラップと銀紙に包まれたアシッドペーパーをしゅんやに渡すリアナ。


 ペロッと舌下に忍び込ませるしゅんやはリアナに「本当にありがとう」と感謝しながらしばらく雑談をしていた。


「アレ?」突然はるかはシラフに戻ったようすで不思議そうに話しだした。

 時計を普通に見ることができた。まだ2時間半ちょっとしか経っていないという時間感覚に驚いたあとに「なんだこんなもんかー」と効果が切れてきたと思い、安心しきった。


「まーだあんたはわかってないのよ、あなたは。」意味ありげに告げながら火をつけるリアナにしゅんやも共感を示すと、はるかにジョイントがまわってきたので思いっきり吸いまくった。


 ーと、その時。

「?!」


 ぐわぁああんと空間が曲がり、テントの中がグニャグニャに変化していったのだ。

 無地のテントの中のはずが曼陀羅模様になっていて、再び回転するカラフルな光のカーテンが視界いっぱいに広がってゆき、先程以上に意識が拡大する。


「第二波襲来〜!!!」リアナのテンションはこれ以上ないほどに上昇していた。

 ここでようやくはるかは、幻覚剤によるトリップには波があることを知る。

 寄せては返す、寝ては起きての繰り返しに似た感覚がこれからまだ10時間以上も続くのだ。


 ワクワクと緊張感が止まらないのか、そわそわした様子のしゅんやは「あ、もうそろそろ俺行かなきゃ、次俺の番だから色々準備しないと。」

「いろいろセンキューな!ぶち上がる音飛ばしてやるから楽しみにしといてくれよな!」そう言うとテントから去って行った。



「そろそろかな、お腹空いてるでしょ?」とリュックサックからお弁当と、この間とは色も模様も違う色と模様の違うエリカ玉を取り出して「キャンディーフリップ!」と言ってエナジードリンクとともに胃に流し込む。

「これ以上おかしくなるなんて無理!」と弱音を吐くはるかに対してキャンディーフリップについての説明をする。

 意味はそのまんまでLSDにエクスタシーを混ぜるだけのことで、知る人ぞ知る上級者の楽しみ方らしい。

 紙との相性がとても良く、この上ない多幸感に溢れることや愛に包まれる為バッドトリップを回避できる方法でもある。

 それを聞くなりエナジードリンクで空腹状態の胃に直接溶かす。

 さらに食べ物を食べると消化活動が始まり、よく効くという寸法だ。


「いっただーきまぁーっす!」


 2人は声をあわせてそれぞれのお弁当を交換して食べ合う。

 リアナの作った弁当は色鮮やかでこの世のものとは思えないくらい美味しく感じる。

 本当になんでもできるんだといつも感心させられる。

 そしてはるかの作ったお弁当を食べたリアナは美味しすぎて目から涙が出ていた。


 30分ほどすると「そろそろしゅんの回す時間ね、行こっか♡」リアナの目がハートマークになって見えたのではるかはリアナが急激に愛しく感じて軽くキスをしてしまった。

「もう!ピンクに入っちゃダメなんだからねッ!」頬を赤らめながら嬉しさを隠せないリアナはアツいキスを仕返した。

 ピンクとは、ドラッグなどを使用してエロモードに突入することをいう。


「ハッ!?」と2人は帰れない我に無理矢理返り、手を繋いでフロアへ向かう。

「絶対この手、離してあげないから覚悟しなさいよッ!」

 むしろこのまま一生離してもらいたくないくらいだ。


 二人とも手汗がびっしょりなっているのを感じながら人をかき分けて最前列へ進むと、このパーティーに来ている人や物、植物や動物、爬虫類や苦手な虫までもの生命体全体が一体化して共鳴し、みんな同じ気持ちで世界は愛に溢れていると勘違いせざるを得ない。


 相変わらず目の前にはビシビシ音などが飛んできて、世界が正確に曲がった感覚は健在だが、それに加えてさっきとは違い多幸感が心や意識の底からみなぎってくる。

 これ以上の幸せはこの先訪れることがあるのだろうかと自問自答してしまうくらいの幸福感だ。


 しゅんやが音を繋ぎ始めた。


 曲と曲がMIXされて車でも流れていた聞き慣れた最近流行りの有名な音楽が流れ出した瞬間、会場全体のテンションが湧き上がる。

「フォー!」という歓声につつまれると皆が両手を挙げて、ブレイクからキックに切り替わった瞬間に爆踊りをしだすものさえ現れる。


 最前列はギュウギュウで、激しく踊れるスペースすらないほどなのだが肩がぶつかろうが足を踏まれようがそんなことなんて気にする人なんてほとんどいなくて周りの人は飛び跳ねながら手をかざしてサイケデリックな動きをしてるのが止まる様子はない。

 果てしない無礼講でこんなに楽しい場所、時間が存在することに感銘を受ける。


 たまに見つめ合う二人は声にしなくても気持ちが完全に通じ合っている。

 まぁ音としての声聞こえないんだけどね。


 絶頂の一時間半であった。


 次のDJに変わり、ダークフルオンからゴアダークへと曲調が変わっていく。

 BPM(音の速さ)がとても早く、ついていくのがやっとであるほど。だがその変化もまたピッタリで音に乗るのが心地いい。

 ジャンルによって前列の年齢層が変わっていくような感じがした。




 ※9話へつづく

psychedelic tranceの中には種類がびっくりするくらい沢山ある。

まず、よく聞く最近流行りのEDMというのはエレクトロやハウス、テクノなどのダンスミュージックの総称であり、サイケもそれに含まれる。

そのサイケの中にざっくりとした説明になるが、主にメジャーな軽めの音のが"フルオン"といい、一生グニャグニャでポンポンいう感じのブレイクのほとんどないキックが特徴の"ゴア"、そして今流れているダーク。

そのダークなどの中にもかなりの種類が存在する。

ちなみに入場当初にかかっていたのはモーニングで、キラキラした音が特徴的だ。

他にもプログレッシヴやアンビエントの話をしだすと止まらなくなるのでこの辺で。


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