L戦
◇
夜までたまに休憩しながら踊りっぱなしのリアナとはるかの元に、しゅんやとゆうじが一緒に踊りながら近寄ってくる。
ミッドナイトフルオンの音に乗る4人。
数分踊ると、一度テントに帰ろうと誘うリアナ。
流石に疲れた様子のはるかはテントの中でグッタリと倒れるがゾーンからは抜け出せない。
目を閉じるとまだ幾何学模様とオーラの残像が渦巻いている。
次は会場に来ているほとんどの人達が楽しみにしているメインイベント、DJゆうじのパフォーマンスが控えていた。
リアナは曲をリクエストしたりして楽しく会話を楽しんでいる。
ゆうじはお酒でベロベロである。
もちろん運転は完全にお酒が抜けるのを待つのでこれ以上はもう飲めないから今が絶好調であり、4人は同じテンションで波長が合った。
ゆうじが準備のため、優しい笑顔を見せ、テントから出て行くと、リアナは二人の口にXを放り込んで倒れたはるかを復活させようと試みる。
「ちょっと待ってよぉ〜、もう動きたくないよぉ〜」
寝ようとするが眠れない。
「わかったわかった」と言って加え煙草をしながらリアナは魔具を使い、回復魔法をかける。
一瞬で起き上がり、身体のだるさが吹き飛んだ。
しかし綺麗に曲がった世界からは抜け出せてはいない。
数十分休憩しているとまたさっき食わされたXが効いてきた。
しゅんやは二人を襲いたい気持ちをぐっとおさえながらリアナからまわってきた煙で遊ぶ。
食い気味で手渡された先っぽのファイヤーボールをどんどん短くしてゆくはるか。
メインイベントに駆けつけ、会場のテンションの上がりは最高潮を迎えている。
これ以上ない盛り上がりに包まれながら躍る3人であったが、悠に500人を超えているであろう会場に遊びに来ている数名とかなり仲良くなっていて、数人で輪になって楽しんでいた。
人間は言葉なんかなくてもこの場所なら笑顔とダンスだけで通じ合えるのだ。
その中にはるかの意中の男性が踊っていたような気がして、それがツシンであることのように思った。
ブレイクの時間に周りを見渡しながら会話をしていて気がついたのだが、全国各地から来ている人も多く、もちろん外人も沢山いた。
2時間しっかりとゆうじのダークフルオンをこの上なく楽しんだ。
するとリアナが腕を引っ張りフロアから人の少ない森へと誘う。
性的行為をしているカップルを通り過ぎては見て見ぬふりをする。
まさか…と思ったその時、「ヤるわよ。」と言う言葉の意味を履き違えてしまう。
結界を張り、大きくジャンプして木の上に乗るリアナ。
「今日は魔法少女でっと。」
魔具を使用し、まるで魔法少女アニメの様な姿に変身すると、ピンク色の先に金色の星が付いているいかにもなステッキを構えて「手加減できないかもしれないけど、いくわよ」
「シュート!」と言いながらステッキを振ると大きな魔光弾が飛んでくる。
はるかはその時未来が見える感覚を覚えていた。
すぐさま刀を抜き、魔光弾を弾き返す。
相手の技をコピーできるようにもなっていて魔光弾をさらに撃ち込むはるか。
「これって…」
まだまだビシビシで目が回っている状態なのだが、急な対応ができた自分に驚きながらも目を瞑るとサーモグラフィーかのように隠れたリアナを見つけ出しては攻撃する。
まるでスナイパーのように追い詰めてゆくはるかは木の枝に足をつけて逆さまに立つことさえできる。
麻よりも身体能力が上昇していることに気づいたがリアナにも未来が見えており、読み合いを繰り返していた。
未来というのは無限に存在しており、見えていても確定するまではそれは違う世界線なのである。
しかし現実を把握することが難しく、操作に慣れるのには時間がかかりそうな感じがした。
雷を散らすといつも以上に威力が増しているのにも気がついたが、それ以上にリアナの多彩な技や飛んでくる魔法の威力に、危機感を感じて次々と魔具で自分に強化バフを貼りめぐらしていくがそんな隙も与えてくれないので逃げながら高速で防御バフを貼る。
目の前に瞬間移動してくる無数の未来のビジョンが頭がかけ巡るので何もない着地地点に向かって斬撃を放つとリアナは驚いた表情でギリギリで両腕をクロスしてガードする。
「この私に一撃を食らわすとは、さすがエンティティが見込んだ通りね。」
扱いになれるともっとすごいことになりそうな予感がしたリアナはしばらく魔法を放ち続けて一度はるかをステッキで頭をコツンっと物理攻撃し、いとも簡単に戦闘不能状態へさせる。
目の前に立ち、持ち技を見せるかのように数人へと分身していく。
「名付けて影分身の術よ!やってみなさい」と回復させては色々な技を教えてくれる。
なぜかすんなりと技を次々と習得していく。
受信している感覚に近いのもがあり、かなりスピリチュアルな時間であった。
まだまだこの効能には可能性があるような気がした。
「ところではる、あんた今どうなってるかわかっているの?」とリアナが指を指した先には自分が倒れていた。
そういえば戦いに夢中で気付かなかったが、完全ではないがシラフのような感覚に戻っている。
知らない間に幽体離脱していたことに驚いた。
魂をむき出しにしているとリスクがあることを聞き、すぐさま本体へと戻った。
かなりコントロールが難しいのでこれから慣れて行く必要があるように思った。
闘いは日の出を迎える頃まで続いたところで、「ヤバイ、戻りましょう!」とフロアに戻った。
レイヴでは朝日を迎えながら躍るのも魅力的なイベントのひとつで、この神々しい世界では太陽の虹色の煌めきに大きな感謝をせざるを得なかった。
夕方までダンスと戦闘訓練が続いたのだが、ほとんどはるかはテントで寝よう、と試みるが眠れないので瞑想や、グラウンディングをしながらイメージトレーニングをしていた。
そうしているうちにパーティはお開きとなり、ようやく帰ることになった4人。
長い車の中旅でも神秘的な感覚であったが、家に着く頃にはほとんど収まり、なぜか圧倒的感謝に包まれていた。
「じゃあ、またねー」と、手を振るリアナに応対する。
ものすごい体験をした。このことは一生忘れられない出来事となるだろうと思った。
不思議と効果が抜けても脱力感などはなく、少しの筋肉痛が訪れたくらいであった。
それからアシッドテストをしては感覚を研ぎ澄ます訓練を繰り返した。
◇
リアナの研究は最終段階を迎える。
海外留学をして色々な技術を学び、旅行などを堪能したり、地球を満喫し終えたのでもうそろそろ帰ってもいいかな、と思えたのだ。
そこにいつものようにはるかがやってくる。
リアナはブクブクと泡の吹き出る紫色の液体の入ったフラスコを揺らしながら見せてくる。
「まさか、それって…」
頷くリアナは「準備はいい?」と真剣な表情でこちらを見つめる。
遂に完成したのだ。
待ちに待った向こう側への切符を差し出してくる。
二人は一気に飲み干すと、30分待った。
そして同じゴミ箱に頬を擦りよせながら口から虹色の液体を同じタイミングで胃の奥から出しあってお互いの嘔吐物の臭いを笑いながら感じ合う。
すると見つめあい、例の感覚に襲われると、大声でぎゃあああぁぁぁぁ!と奇声を叫び合ったあとにリアナははるかの手を引きながら銀河系の中心へと向かう。
たしかに川を通り、ワームホールの様な大きな曲がりくねる四角に覆われたカラフルなトンネルの中を通り抜けた。
ニエリカを通り、エンティティと長い時間をかけて質問を投げかけたような気がするのだが、その質疑応答は、ほとんど持って帰ることができなかった。
というのも持ち帰ることのできる情報が人間の脳には理解できないことが多すぎるのである。
記憶に残っていることといえば、ぼんやりとした全ての世界の仕組みや構成だった。
彼は六角形が蜘蛛の巣のように敷き詰められたホログラムのような場所に案内し、駒のように人と人とを引き合わせたり操作したりすることを説明された。
現実なのか夢なのかも定かではなく、曖昧な空間で何を言われようがわかるはずもない。
ただ、まるで現実が仮想現実の世界で高次元の存在がまるで宇宙空間というゲームをプログラミングして作られたような世界であるかのような例え方であった。
そうして、魔力が強くて異端な力を持つ者として、はるか、らら、みかが生まれては同じ高校に通い、それぞれ引き合わされるように親友となり、なにか事情があってこの世界を通過して行ったとのことは把握できた。
エンティティは神以上の存在であることは前にも聞いたが、彼の上にも次元が十数個あるらしくて、五次元空間の中では最高位なのだという。
なんとも眠たくなる話が続いたので、気づいた時にはレガリア王国のリアナの研究所で目が覚めていた。
「やっと目が覚めたわね?」
大量にこちらに持ってきた物や研究目的としての生物等を自慢してくるがそれは変わった動物だったり、植物、きのこなどの菌類や、大量の虫類、哺乳類や爬虫類などが大量に占めていた。
「うぇえ…」近寄りがたいはるかは疑問に思うことを全て話した。
半年くらい向こうで過ごしていたのに身体が無事であったことについてだが、それはなんと肉体ごと地球に持っていったらしく説明されてもあまり理解できなかったが基本的に肉体は二つは持てないということ。
当たり前といえば当たり前なのだがもっとわけのわからない説明も受ける。
一番驚いたのは、なんとこっちの世界ではたった6時間しか経っていないと言うのである。
リアナは話しながら楽しそうに実験を繰り返している。
あらゆる幻覚物質を菌や微生物に食わせたり、化学合成を繰り返している。
落ちていたキセルに手を伸ばしたはるかは「もらっていい?」と言って草を詰め込んでいる。
「もちろん、何本か巻いて持っておきなさい。なくなったらその辺に売ってるわよ。あと、それお気に入りのキセルだから」
リアナは他のキセルを取って投げつけた。
「これ、あげるわ」
はるかは地球にいた時とのギャップを感じながら今までのことを全て感謝の言葉を巧みに包み込んでリアナに唱えるように伝えた。
「気にしないで。」としだいに香ってくるフルーティな煙の匂いにも反応せず、実験に夢中でツンとしている。
近くには焦げたガラスパイプが落ちていたので、早口なリアナに対してはるかは察した。
「今日はもう遅いから泊まっていきなさい。」
リアナはこれからずっと研究に明け暮れるらしく、前みたいに倒れないようにちゃんと食事と睡眠をとるように伝えると、思い出したように鞄から毒々しい赤いシートに包装された錠剤を手渡した。
「気持ちで負けそうになった時に使いなさい。大丈夫、あっちでも合法に処方されていたものよ。」
そこにはエリミンと書かれていた。
かつてのスピード愛用者には欠かせないアイテムで、耐え切れない切れ目の辛さを軽減してくれる効果があった。
現在では採算が取れないという名目で生産中止された。
それは睡眠薬らしく、一錠飲むとすぐに気合いが入った気がしたが寝ようと思って飲んだので眠たくなって来た。
寝室に移動したはるかは布団にとろけるようにすぐに眠ってしまった。
つづく