終末親子
「終わったわね、世界。」
ぽつん、とお母さんがそんなことを言った。
街中にコケが生え、煙が立ち上ってる。
1日前は、ここはデパートの屋上で、ベンチと綺麗な花がある素敵な公園だったーーらしい、お母さんが言ってた。
私たちは朝日を見ながら呆然としている。私もお母さんも泥だらけで、あちこち擦りむいている。
「さっき拾ったツナ缶、食べようよ」
「ええ、そうね。」
お母さんはさっきまでとても疲れてる顔をしてたが、何か吹っ切れたような顔になった。
「ーーとりあえず、どうやったらこれから先、ユキとお母さんが生きていけるか考えないとね。」
「うん。」
私はツナ缶のふたを開けながらうなずいた。
みんな死んだ。
って、お母さんは言ってた。
私には何があったかよくわからない。
冬休み初日で、クリスマスで、お母さんとお父さんと買い物に出掛けていた。
同じように家族と出掛けていた友達にも何人か会い、みんなサンタさんからどんなプレゼントをもらっていた話を聞いた。
お昼過ぎたあたりに、突然大きな緑の大木が現れた。大木には触手が生えており、そこから透明な液体を出す。それに触れた人間は、溶けて液体になる。
誰かがそれを『植物』と呼んでいた。植物は沢山いた。
沢山、追いかけてきた。
私はお母さんとお父さんとわけもわからないまま、逃げていたんだけど、お父さんは液体をかけられて目の前で溶けた。
お父さんの、骨も、皮膚も、身に付けているものすべてが液体になった。
一瞬のことで、でも、それは確かに私が見た光景は事実だった。
お母さんは、唖然としていた私を泣きながら抱えて走った。
ここまで『植物』から逃げてるうちにお母さんは泣くのをやめた。
色々な人たちが溶けて液体になった、その中には知っている人もいたような気がする。
「やっぱり携帯はずっと圏外ね。警察や自衛隊は機能していないのかもしれないわ。」
お母さんは携帯を見ながら、ため息をつく。テレビやラジオは砂嵐だった。
「もう少し、ここにいましょう。もしかしたら、救助が来るかもしれないし……。」
お母さんは、あまり希望を持っていない表情をした。
そのときだった。
「あ、あの!」
男の人の声がする。振り返ると、青年がいた。
「もしかして、逃げてきた人ですか?」