挨拶すれば友達ですか?(3)
階段を下りて駅のホームへ入る。
本当は今日はアルバイトも休みで、この後の予定も一切ないのだが、さすがに自分もそれくらいの空気は読めるつもりだ。
はあ、とたっぷり大きな溜息をついた。
イケメンの三好はともかく、まさか亮太にまで、あんな可愛い彼女がいたなんて知らなかった。
結局、人間なんて見た目がほとんど全てだろうと思っていた。自分のような日陰者には彼女なんて出来るはずないのだと。しかし、見た目の良し悪しなんて関係なく、行動力のある奴には、ああしてちゃんと彼女が出来るのだ。きっと中谷さんにとっては、見た目がどうとか、オタクかどうかではなく、中谷さんにしか見えない亮太の魅力があるのだろう。
そこまで考えて、暗に自分には何の魅力もないのだと露呈されたような気がして、ますます落ち込んだ。
本日何度目かの大きな溜息をつこうとしたところで、背中をドンと押された。
「一ノ瀬!」
不意の事態に二、三歩よろめいた。いったい何事かと振り返ると、そこに天宮がいた。
「どーしたの、一ノ瀬。いつも暗いけど、今日は輪を掛けて暗い顔してるよ。なんか嫌なことでもあった?」
和樹は、突然の出来事に上手く言葉を返せないでいた。
ついでに「いつも暗い」って言われてちょっと傷ついた。
「一ノ瀬、いま帰り?あれ、一人なの?」
周囲を伺いつつ天宮が尋ねる。和樹は気を取り直して答えた。
「三好と亮太はデートなんだ」
「へえ。仁川くんも?」
その言い方は、まるでイケメンの三好はともかく、亮太に彼女なんか居ないだろう、と言ってるように聞こえたので、つい先程、自分も同じ事を思っていたのは棚に上げておいて、少しムッとした感じで答える。
「そうだよ。あいつ彼女いるし。武庫山女子の子」
「へえー。ムコジョかぁ。仁川くんやるじゃん」
なんとなく自慢したような気分になったが、自分には全く関係ないので余計に落ち込む。
「あー、それで。一人で寂しく帰る一ノ瀬はへこんでたわけだ」
「別にそんなんじゃないし」
図星を突かれて、少しムキになった感じで答えてしまった。そんな様子が可笑しかったのか、天宮は楽しそうにケタケタ笑った。