表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友人契約  作者: マリーゴールド
57/60

冬に咲く花火(2)

 

 ――――――――――――


「お疲れ様でしたー」


 12月24日。

 二号店のアルバイトを終えて、店長さんに挨拶をする。

 先に着替えた宮地は、俺が着替え終わって出てくると店の中にその姿を残しておらず、もう帰ってしまったのかもしれない。


「ありがとう、一ノ瀬くん。悪かったね、こんな日に働いてもらっちゃって」


 厨房の奥から、二号店の店長さんがわざわざ顔を出して労ってくれた。

 三角巾を取ると、店長さんの長い黒髪がぱらりと肩に落ちた。

 ……まさかこの美人店長が、あの店長の奥さん、だなんてことはないだろうな。

 絶対に違いますように、と神に祈りながらお店を後にすると、扉を開けたところに宮地が座っていた。


「おお、宮地。お疲れ」

「……お疲れ様です、先輩」


 宮地は寒そうに震えながら、挨拶を返した。

 しかし、そこから動こうとしない。


「……宮地、帰らないの?」

「…………」


 いったいどうしたというのか。

 そこで俺は店長の言葉を思い出した。

 ……あー、業務命令か。


「なあ、宮地。別に無理して店長の言葉を守らなくていいんだぞ」

「……別に。無理とかしてないし」

「でも、興味ないって」

「ルミナリエに興味はない……けど、先輩がどうしても私と行きたくて、誘ってくれるなら、一緒に行ってあげてもいいです」


 寒さのせいか、宮地は鼻も頬も耳も赤くなっていた。

 俺は宮地の言葉の真意を考える。

 宮地は口が悪く、素直じゃない性格の持ち主だ。

 興味ない、とか言ってるけど、本当は観に行きたいのかもしれない。

 その理由に俺を使おうなんて、本当に手のかかる後輩だ。


「あー、わかった。一緒に観に行こう」


 ふぅー、やれやれ。

 一仕事終えた顔で、俺は宮地に微笑を見せると、宮地の表情がパァと明るくなり、笑みを浮かべた。

 会場は、たしか市役所の南の広場だったか。

 俺が頭の中で地図を展開して歩き始めると、宮地が左腕に絡まって身を寄せてきた。


「……宮地。あんま引っ付くなよ」

「えーっ、でもこのほうが暖かいですよ?ほら、私って意外と寒がりなんで」

「……いや、だけど誰かに見られたら」

「先輩は、誰か見られたら困る人でもいるんですか?」


 一瞬。

 頭の中に、天宮恵理の顔が浮かんで消えた。

 なにを、馬鹿なこと。


 俺は目を伏せ、首を小さく横に振った。


「いや、まあいいや。はぐれても困るからな」


 会場に近づくにつれて、周りに仲睦まじく歩くカップルたちの姿が増えていく。

 時刻は間もなく18時。

 吐く息は白く、冬の夜の闇に溶けて消えた。


 会場に設置された舞台の上に立った市長がマイクを握る。

 簡単な挨拶と、震災の被災者の方々への黙祷。

 そして、カウントダウンが始まる。

 カウントが進むごとにザワつく周囲。

 だんだんと、周囲の声が揃い始める。

 ――さん、に、いち。


 パァン、と夜空に一斉に光のアーチが架かった。

 隣で宮地が感嘆の声を漏らした。

 俺は、その瞬く光から目を逸らせずにいた。

 夜の空に咲いて、一気に染めたイルミネーションの光は、まるで夏に見た花火のようだと、俺は思った。

 あの時、俺のすぐ隣には、確かに天宮がいた。

 花火の光に照らされる、天宮の横顔に見惚れた。

 帰り道、手を握ったら握り返された。

 温かく、熱を帯びた小さな手。


 あんなに近く、天宮を感じられたのに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ