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友人契約  作者: マリーゴールド
55/60

嫌われたって友達ですか?(3)

 

 ――――――――――――


 リビングで座ってテレビを観ていると、隣に妹の和葉がスポーツドリンクを持ったまま座った。

 派手な金髪は風呂上がりで艶やかに濡れていて、バスタオルを被っているため顔が隠れている。

 俺は構わず、ぼんやりテレビを眺めていたら、和葉がボソボソと呟いた。


「……お兄の馬鹿」

「……なんだよ、急に」

「私、今日帰りに駅で恵理ちゃんに会ったんだけど」


 ……そういうことか。


「恵理ちゃん、不安がってたよ。突然、距離を置かれたら誰だって不安になるよ。せめてさ、話くらい聞いてあげてよ」


 天宮は俺があの日、教室の扉の前で立ち聞きしてしまった事を知らないのだろう。

 突然、よそよそしくなった俺の態度に不安になるのも無理はない。


「……ほっとけよ。お前には関係ないだろ」

「あるよ。恵理ちゃんは私の大事な友達なんだから」


『友達』という言葉に胸が締め付けられ、つい顔を背けてしまう。

 そんな事を言われても、もう無理なのだ。

 あの日あの言葉を聞いてから、ずっと見て見ぬふりをしてきた自分の感情に、どうしようもなく自覚してしまった。


 俺は、天宮のことが好きだったんだ。


 好きになるわけない、と言われてようやくそのことに気づくなんて、皮肉なものだ。

 あいつと仲直りして、『友達』に戻るということは、この先ずっと、この気持ちを隠して、『友達』でい続けるということだ。

 そんなの、もう無理なんだ。


「あー……、やっぱやめ。今のナシ」

「は?」


 隣を見ると、バスタオル越しに金髪をボリボリかいて、ゆっくり立ち上がる和葉と目が合った。


「お兄の良心に訴える作戦。お兄みたいなチキン野郎に行動を自発的に促そうなんて、あたしがどうかしてたわ」

「なっ、おまえな……」

「出来ない言い訳ばっか並べて、自分が傷つかないように予防線ばっか張って。あたし、お兄のそういうとこが嫌いなの」

「……別にお前に好かれたいなんて」

「恵理ちゃんのこと、駅で助けた時は考えなかったんでしょ?昔、あたしを助けてくれた時だって!失敗したらどうしようとか、それより先に身体が動いてたんでしょ?あたしが好きなお兄は、そういう人なんだよ!」

「お前、何言って……」

「お兄の足りない頭でいくら考えたってさ、正解なんて出てこないんだよ。それより、もっと大事なことが、此処にあるでしょ」


 そう言って、和葉は自分の胸元に手を置いた。

 いや、それより結構な悪口を言われている気がするんだが。


「お兄は、どうしたいの?」

「俺がどうしたいかって。そんなの……」


 そんなの、決まってる。

 だけど、


「だったら、そうすればいいじゃない。言い訳しないでさ。どうせ無理だとか、やってから言いなさいよ」


 妹に、睨まれる。

 俺は何か言い返そうとして、何も思い浮かばず俯いた。


「お兄、そこで俯いたら、この先ずっと俯かなきゃいけなくなるよ。恵理ちゃんは、もうお兄と無関係な人間じゃない。彼氏が出来たってのろけ話も、別れたって愚痴も、いつか、結婚したって報告も、恵理ちゃんの友達のあたしが、全部お兄に伝えてやるわ。そうしなくたって、きっとお兄は知る事になる。その度に、お兄はそうやって俯いて生きてくつもりなの?」

「……それは」

「あたしは、そんなお兄は絶対見たくないから」


 そう言い残して、和葉は3階の自分の部屋に上がっていった。

 言いたいだけ、言いやがって。

 本当に遠慮がない。

 和樹は突き刺さった言葉のひとつひとつを、ゆっくりと、心にしまった。



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