嫌われたって友達ですか?(1)
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オレンジに染まる街路樹。
夕陽を照り返すビル。
マンション。
その背景に秋の色を見せる六甲の山々。
ガタンゴトン、と単調なリズムに揺られて天宮恵理は、窓の向こうに流れていく景色を眺めていた。
あれからもう、二週間が経過した。
その間、何度か学校で一ノ瀬に話しかけようと試みたが、声をかける直前で、あの時の一ノ瀬の顔が、眼が、冷ややかな視線が蘇り、どうしても声をかける事が出来ないでいた。
このままいたずらに時間が経過してくのはまずい。
時間が解決してくれる問題もある、だが勿論そうじゃない問題もある。
私はこれまで、友達に嫌われたことなんてないと思っていた。
違ったんだ。
喧嘩するほど誰かと真剣に向き合った事がないだけだった。
嫌われても仲直りしたいと思えるほど、大切にしたい関係性を築こうとした事がなかった。
表面的に話をして合わせて、ただ教室で浮かないように、徒党を組んで味方のふりをして。
そんな薄っぺらい人間関係しか築かなかった結果がこれだ。
今更謝ったところで、一ノ瀬が許してくれるのか。どうすれば以前の関係に戻れるのか、わからない。
摩耶駅に着いた電車から降りる。
耳に差したままのイヤホンから聴こえる歌は、『失敗したって構わないさ。何度でもやり直せるでしょ』と言っていた。
……綺麗事だ、と思った。
17年しか生きていない私にだってわかる。
世の中には取り返しのつかないこともあるんだ。
どんなに悔やんでも、口を突いて出た言葉は決して消えない。
一ノ瀬を傷つけて、嫌われてしまった事実も。
壊れてしまった関係性は、元と同じようには戻らない。
改札機を出たところで、立ち止まり、上を向く。
……駄目だ。泣いたって、何も変わらない。
トントン、と肩を叩かれて、私はイヤホンを外しながら振り向いた。
長くてサラサラした金髪、すらりと背が高くて、とても年下には見えない大人びた顔つき。
一ノ瀬の妹、和葉ちゃんがそこにいた。
「やっ。恵理ちゃん偶然だねー!今、帰り?」
その無邪気な笑顔にホッとして、張り詰めていた心が一気に緩んでいく。
「……和葉ちゃん。どうしよ、私……、一ノ瀬に、嫌われちゃった……」