すれ違っても友達ですか?(4)
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改札口を抜けていく人の流れを眺めながら、天宮恵理は今日何度目になるかわからない溜息を溢す。
道行く人々の半分は、帰宅中の同学の生徒だ。
私は改札近くのベンチに腰掛けて、鞄を抱いて、スマホを眺めるフリをした。
……まもなくここを、一ノ瀬が通るはずだ。
朝からずっと、一ノ瀬の様子をこっそりと伺っていたが、校舎内で二人きりになれる場面はそうはない。
前みたいに美術室に呼び出そうかとも考えたのだが、もし一ノ瀬が怒ってて、呼び出しを無視でもされたら、私はたぶん立ち直れない。
そんなわけで、放課後。
由紀たちに言い訳をして、急いで駅に向かったのだ。
ちゃんと誤解を解いて、謝らないと。
駅の入り口の方から歩いてくる一ノ瀬と仁川くんが見えた。
二人は改札口の手前で別れて、一ノ瀬ひとりが改札機を通る。
私は急いで、一ノ瀬を追いかけた。
「い、一ノ瀬……!」
私の呼ぶ声に立ち止まり、一ノ瀬がゆっくりと振り返る。
「えっ、なに?」
目が合った瞬間、私の身体を青色の電撃が流れて、全身を硬直させた。
「……えっ、と。その……あの……」
一ノ瀬は、怒ってなんかなかった。
その瞳に灯った色は、怒りなどではなく。
「……その、だから、ね……」
今まで見たことのない、一ノ瀬の冷淡な眼差し。
そこに宿っていたのは、明確な『拒絶』の色だった。
早く。
何か言わないと。謝らないと。
心臓が、素手で握られたみたいに苦しくて重い。
堪らず私は目を逸らし、俯いてしまった。
『二番線に、電車が、参ります』
聞こえてきたアナウンスの声に顔を上げると、一ノ瀬が困ったような表情を見せた。
「俺、バイトだから。またな」
一ノ瀬はそう言って、早々に立ち去る。
その背中が見えなくなるまで、私は一歩も動けないでいた。
「……そっか。私……」
……私は、一ノ瀬に嫌われたんだ。
視界が歪む。
溢れて溜まった涙が、決壊して頬を伝った。
嫌だ。
泣きたくない。
私には、涙を流す権利なんかないのに。




