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友人契約  作者: マリーゴールド
49/60

すれ違っても友達ですか?(1)

 

 ――――――――――――


 …………やらかしたわ。


 夕陽の柔らかな光差す教室で、天宮恵理は机に突っ伏し、スマホ片手に溜息をこぼしていた。

 隣に視線を送ると、由紀と美月が気怠げに談笑している。


「あー、だる。球技大会とか、さっさと終わんないかなー」

「んー、さすがにそろそろ終わりじゃない?ねえ、恵理?」


 あーそうね、と適当に相槌を返す。

 ウチのクラスは二回戦で敗退し、あとは閉会式まで残りの試合の消化待ちだ。

 でも、そんな事はどうでもいいのだ。

 あれ以来、一ノ瀬とは、まともに言葉を交わしていない。

 あいつ、たぶんまだ私が怒ってると思ってるんだろうな。

 いや、まあ怒ってはいる。

 だって、もういいだなんて言うのだ。

 このまま離れ離れになって、もう『友達』じゃなくなったって平気ってこと?

 確かに、恩返しがあいつに話しかけるきっかけだったのは間違いないけれど、断じてそれだけじゃない。

 その気持ちは全くこれっぽっちも、あいつに届いていなかったということだ。

 悔しい。

 思い返すと、また胸の内がムカムカしてきた。

 いけない。感情に任せてつい暴走してしまうのは悪い癖だ。

 確かにムカつくけど、それより、せっかく立候補までして手に入れた球技大会クラス実行委員の立場を、このまま不意にしてしまうのは勿体ない。

 学校では基本的に由紀と美月、花菜の三人と行動を共にしている。

 この先も、学校行事を一ノ瀬と一緒に過ごす機会なんて、もうないかもしれない。

 閉会式の後もまだ片付けや、クラスの打ち上げなんかもある。

 喧嘩なんて、してる場合ではないのだ。


 一ノ瀬は、どうして私が怒ったのか、その理由もわかってないだろう。

 あいつにそれがわかるなら、私たちはとっくに『友達』の先の関係性に進んでいるはずだからだ。

 となると、あいつから謝ってくる望みは薄い。

 それを待っている時間も無い。

 仕方ない。ここはひとつ、私のほうから仲直りの助け舟を出してやるしかない。

 閉会式の後でも、片付けの時にこちらから声をかけてやろう。

 それで、感情任せについ突っ走ってしまった、ごめんとでも言ってやろう。

 スマホをグッと握りしめて、顔を上げて決意を固めると、由紀と目が合った。


「花菜、遅いねぇ。いつまでトイレに行ってるつもりかしら」

「そういえば、ちょっと遅いね。私、見てこようか」


 そんな私の提案に、すかさず美月が止めに入った。


「えー?待ってれば来るでしょ?もしかしたら、途中で男子に捕まって告白されてたりして。花菜ってエグいくらいモテるからさー」


 うっ、それは……ありうる。

 球技大会で人の掃けた校舎など、絶好のシチュエーションだ。

 私が大人しく席に座り直すと、由紀がいま思いついたとばかりに尋ねてきた。


「そういやさ。恵理、最近あの、なんだっけ、一ノ瀬?と仲良いじゃん?」

「あーそれ。私も思ってた。同じ実行委員だし?一緒にいるうちに恋が芽生えちゃったりして?」


 美月も話に乗ってきて、二人はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。


「……えー?そう?別に、なんでもないけど?」


 カチンときたが、私はなるべく興味なさそうに、冷静に返した。


「えー?ホントにー?なんか怪しーい」


 そう言って二人は馬鹿にしたように笑い合う。

 ……放っておいて欲しい。私が誰と、どんな付き合いをしようが私の勝手でしょ。

 こんな会話は、ただの暇潰しだ。二人とも悪意も悪気も一切ない。

 そんな事は、わかってる。

 だけど、二人共こう思ってるのだ。


 私が一ノ瀬なんかと付き合ったりするはずが無いって。


 一ノ瀬のこと、何も知らないくせに。

 馬鹿にして、見下して。


「そういえば、珍しく委員会なんか立候補しちゃってさ。ホントは一緒に居たかったりして?」

「えっ、えっ!えー!そうなの?どうなの?ねえ、恵理ちゃんー」


 なおも悪ノリする二人に、とうとう私の堪忍袋の尾が切れた。


「うるさいなあ!なんでもないって言ってんじゃん!しつこいよ!」


 私は立ち上がり、二人を責め立てる。

 トドメの一撃とばかりに言い放った。


「大体、私が一ノ瀬みたいなオタクを好きになるわけないでしょ!」


 その言葉を聞いて、由紀と美月は「だよねー」「ごめんごめん」と平謝りをし、ようやく話題は別の方向に向かった。



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