喧嘩をするのは友達ですか?(1)
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外庭から、秋風がサーッと木の葉を掃いていく音が聞こえる。
10月に入り、季節は露骨に秋の顔を見せ始めていた。
優しい木漏れ日の差す廊下を、俺と天宮は並んで歩いていた。
「それ、半分持とっか?」
両手に持ったプリントの束を指差して、天宮が機嫌の良さそうな笑みを浮かべて尋ねてきた。
「いや、いいよ。大して重くもないし」
俺はそんな天宮の様子を伺いながら、返事をした。
学校での天宮は、基本的に不機嫌そうな仏頂面で、俺とこうして話したり、並んで歩くということはなかったわけだが。
俺は手に持ったプリントに印刷された『球技大会』の文字を一瞥し、小さく溜め息を溢す。
夏休みの明けた9月、連続した大型台風が過ぎ去り、暑い日と寒い日が交互にやってきた。季節の変わり目には体調を崩しやすいといわれる例に漏れず、和樹は風邪をひいてしまい、一日学校を休んだのだった。
これがいけなかった。
次の日、出席した時には、和樹は各クラス男女一名ずつの球技大会実行委員メンバーに選ばれていた。
あいつら、面倒ごとを俺に押しつけやがった。
クラスの連中の顔が頭をよぎり、最後ににやけ顔の亮太を思い出した。
女子のほうは、どうやって選ばれたのか知らないが、天宮が委員メンバーだった。
正直、他の女子じゃなくてホッとしたところだ。
「ねえ、一ノ瀬は何の種目にした?」
「ああ、まだ決まってないけど、たぶんサッカーだな」
テニスやバスケなど少数参加の種目は、部活に入ってる連中で埋まるだろうから、特に運動の得意でもない自分は、消去法で人数の一番必要なサッカーということになるはずだ。
「ふぅん。私はバレーボールだから、ちゃんと応援に来てよね?」
そう言って、腕を振ってサーブのフリをしてみせる天宮は、わりと様になっていた。
天宮も和樹と同じ帰宅部員なわけだが、案外、運動は得意なほうなのかもしれない。
「……まあ、委員会の仕事もあるし、行けたら行くよ」
「えーっ、絶対だよ。約束だからね」
そう言って、ニッと笑う天宮の顔が目に焼きついた。
夏休みが明けてから、天宮はその可愛さを増していた。
明るかった茶髪は大人しめの焦げ茶色に、クルクル巻かれてた長い髪は、ストレートに変わっていた。
本人いわく、妹の和葉の練習台になってあげた、だそうだ。
その容姿の変化は、クラスでも男女共に好評で、持て囃されている様子を遠巻きに見ていたら、クラスメイトの松永さんに、早く捕まえないとぉ、恵理ちゃんのこと誰かにとられちゃうよぉー?などと釘を刺すようなそぶりで忠告された。
そんなことを言われても、自分と天宮は『友達』で、『友達』で……『友達』なのだから仕方ないじゃないか。
それが、自分と天宮のした契約。
二人の間で守られてきた約束、なのだから。




