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友人契約  作者: マリーゴールド
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夏の終わりに花火を見れば(5)

 神戸大橋の真ん中辺りまで歩いた。

 夜の海風のせいか暑さはあまり感じない、むしろ気持ちいいくらいだ。

 隣を歩く天宮を見ると、汗ひとつかいている様子はない。まだまだ歩けそうではある。それより、思ったよりも橋を歩く人混みが多かったことが問題だ。

 別にはぐれたりはしないだろうが、浴衣のせいもあって混雑する人の中で天宮は歩きにくそうにしていた。


「天宮、平気か?」

「うん、ちょっと……あっ」


 言いかけて、天宮の態勢が前のめりになる。

 とっさに手を掴んで身体を引いてやった。


「だ、大丈夫か?」

「う、うん。ごめん、ありがと……」


 転びそうになった天宮の手を引いたせいで、天宮は和樹に身を寄せる形になった。しかし、すぐにパッと身体を離す。天宮と視線が交わって、顔が熱くなった。

 天宮も、若干照れているようにも見えるが、オレンジ色の街灯のせいで顔色まではよく見えなかった。


「…………」


 そのまま、しばらく無言で歩き続けた。

 身体はすぐに離したが、とっさに掴んだ手は繋いだままになっていた。

 まあ、はぐれてもいけないし……なんて、嘘だ。自分はこの手を離したくないと思っている。

 天宮は、どうなんだろう。

 隣をちらりと見てみたが、天宮はこちらを見ておらず、顔を夜の海のほうへと向けてしまっていた。

 夏休みに入ってから、ずっと胸に抱えていた焦燥感。自分は、なにかをどうにかしたいらしいという想い。

 切なく映った花火の光景が蘇る。

 来年の今頃は、どうなっているかなんてわからない。

 天宮は、嫌ならきっと嫌だと断るはずだ。


 もっとしっかりと、手を握ってみたい。

 自分でも、らしくないなと思いつつも、一度そう考えたら、確かめずにはいられなかった。

 指を滑らせて、天宮の指に絡めていく。

 手をギュッと握った瞬間、天宮の身体がびくりと驚いたように跳ねた気がした。

 そのまま手を離される、そう思った。

 だけど、天宮はゆっくりと、その手を握り返してきた。

 天宮は顔を背けたままこちらを見ようとはしない。

 だけど、その耳は真っ赤に染まっているように見える。

 自分も、多分同じくらい顔を紅潮させているだろう。


 三ノ宮の駅に着くまで、ずっとそのまま無言で歩き続けた。

 何も話せなかったけど、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。



 ――――――――――――――



 電車を降りて、摩耶駅に着いた。

 時刻は九時を回っていた。

 歩いた距離が長かったせいで、結局遅い時間になってしまった。あのまま混雑する駅で待っていても、たいして変わらなかったかもしれない。

 帰り道、手を繋いで歩いたことを思い出しそうになって、慌てて別のことを考えようとした。


「天宮、家まで送ろうか?」

「え、いいよ。ほら、すぐそこだし」

「そっか。じゃあ、また。次会う時は学校始まってるかもな」

「そうね、また学校で。今日ありがとね。行って、よかったと思う……」


 そう言いながら、天宮は視線をそらした。

 多分、帰り道のことを思い出したんだと直感した。


「お、おう……また」


 自分も、また思い出しそうになったので、切り上げてさっさと帰路についた。

 似合わないことをしてしまった。

 本当に、最近の自分はどうかしている。

 こういう時、ネガティブな自分はどうしても、調子に乗ればいずれ痛い目に合うんじゃないかと考えてしまう。

 だけど、繋いだ手を、握りしめて、握り返してくれた天宮のことを思い出すと、つい顔がにやけてしまうのを止められない。

 夏の暑さにやられたか、あるいは祭りの陽気にあてられたか。

 そういうことにしておこうと、和樹は思った。


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