お見舞いに行けば友達ですか?(1)
月曜日。
今日も夏期講習に出席していた一ノ瀬は、右斜め前の空いた席に目をやる。
天宮は、今日は夏期講習を休んでいるようだ。
どうやら天宮は風邪をひいたらしいと、松永さんたちの話し声からわかった。
今日は月曜で、アルバイトは休みだ。
どのみち、天宮の家は帰り道の途中にあるし、お見舞いも兼ねて、今日配布されたプリント類のコピーを渡しに行ってやろうかと考える。
この前は、突然お邪魔して天宮を驚かせてしまった。同じ轍を踏まないように、天宮にLINEを送っておこう。
プリント類のコピーを渡しに行きます、という旨をメッセージで送ると、短く「助かる」とだけ返ってきた。
夏休みに入ってから、天宮と会って話をするのは、映画を観たあの日以来なので、嬉しくもあり、少し緊張もする。
板書を終えた教員が、教科書類を閉じて向き直る。
今日の講義の終了のチャイムが鳴って、解散となった。
いつものように、亮太が声をかけてきたので揃って教室を後にした。
週末にはお盆に入る。
七月末の猛暑に比べると、暑さはやや和らいだように感じる。台風の影響かなんなのかわからないが、夜や朝の早い時間は寒いくらいのこともある。
暑さ寒さも彼岸まで、という言葉を思い浮かべたが、彼岸っていつだっけ、九月か?
気がつくと、夏休みも半ばを過ぎ始めている。
何の予定も立てていなかったのだから、当たり前ではあるけれど、なんにもしてないな、俺。
それでも、以前の自分なら、まあこんなもんだろ俺の青春なんて、と諦めていたのだが、天宮と友達になってからは、ずっと「このままでいいのか」という気持ちに駆られている。
どうやら自分は、なにかをどうにかしたい、と思っているらしい。
「それじゃ、いっちー、また明日」と言って手を振る亮太に、手を挙げて返し、改札口で亮太と別れた。
亮太は駅構内には入って来ず、駅ビルの方へ向かった。
今日も中谷さんとデートなんだろう。
またもやって来た焦燥感に胸を焦がす。
自分は、このままでいいんだろうか。